ツンデレJK七森さん、最近デレが多くなる。

もろ平野

第1話から好感度はMAXでした

「……ありがとう。優しいよね、キミは」


夏休みを2週間後に控えたある夏の日の、業間の教室でのこと。


隣の席の七森さんが落とした消しゴムを拾うと、彼女は僕にお礼を言った。そこで僕が思ったことは一つ。


「……もしかして今日体調悪い?素直にお礼言うとこ、初めて見た……!」


「〜〜〜っ!?もう決めた!絶っ対、二度と御坂くんにはお礼言わないっ!別にありがとうとか!思って、ないから!!」


そう。ここまでで既に皆さんがお気付きの通り、隣の席の七森さんは純正の『ツンデレ』さんなのである。




僕が七森さんを知ったのは、高校二年のクラス替えの時。一年生の時の友人が多くてほっとしながら席に着いた僕の隣に、スクリーンから抜け出してきたみたいな美少女が座っていたのだ。


つややかで吸い込まれそうなブラウン気味の髪と瞳、すっきりとした造作の顔立ち。そしてその佇まいがあまりに凛としていて、僕はつい見惚れてしまったのだった。……まぁ、その後態度がいることも知ったのだけれど。




それから3ヶ月が経って、目前には夏休み。少しずつ浮かれていく夏の教室の気配の中で、僕と七森さんは2人ギャーギャーと騒ぎはじめた。いや、主に騒いでいるのは僕かも。


「別にありがとうとか!思ってないから!」と言い放った後七森さんは、ツーン、とそっぽを向いてしまった。こう言う時はこれ、と、僕はカバンからお菓子の袋を取り出す。


七森さんがこよなく愛してやまない、『ペロペロレモン』。例えば七森さん風に今の気持ちを話すなら、「別に七森さんが好きだって言ってたから買ってみたわけじゃないし!」となるのだろうか。


「七森さん七森さん、ペロペロレモンいる?」


ぴくっ、と反応する七森さん。しかし依然、つーんとしたままだ。何でさらに顎上がったの?


ならば、と僕は一つ手に取り、口に放り込む。


「あ、美味しい。口の中に爽やかな甘さと酸っぱさが」まで言ったところで、七森さんが手だけをこちらに差し出してきた。……ふむ。


僕は七森さんのちいさな頭の上からペロペロレモンを持った手を差し出してみる。


「あーん」

「えっ」

「「…………」」


少しの間、沈黙が流れる。結局七森さんはパッ、と差し出していた手を引き、僕の手からペロペロレモンを奪い去っていった。残念。


「美味しい?」

「……」

「別にお礼が欲しいとかないし。別に美味しいといいなとか思ってないし。別にいじけてないし」

「……ねぇ、その喋り方なに?」

「え?七森さんの真似」

「「え??」」


もう一度黙ってみる。七森さんは耐えかねて、


「……ぁりがとぉ。美味しい」


と言ったのだけど、僕はかぶせ気味に、


「あ、さっき『もう絶対お礼とか言わない!』って言ってたのに言ってる〜!そんなに僕に感謝してるんだね、まぁ分かるけど(笑)」などと言ってみる。


「…………っ!!」と悔しがる七森さん。かわいい。


「まぁまぁ、もう一個食べて落ち着いて?いるでしょ?」と、もう一個のペロペロレモンを差し出す。


コクリ、と頷く七森さん。うーん、かわいい。


そして、僕の3ヶ月間の七森さん観(ツン9割デレ1割……あったかなぁ……?)では、ここら辺で会話が終わるかな、という感じだったのだけれど。




思えば、この一言からこの夏は回り出した。その一言は、ツンデレな七森さんらしからぬものだった。



「ねぇ、あの…………さっきの、もっかい」



頭がその一言を処理するのに、ずいぶん時間が掛かった。待って、さっきのってまさか。


まさか、あのツン9割の七森さんがまさか。


さっきのって、『あーん』じゃないだろうか。正気ですか!?付き合ってない男女が公衆の面前でやることじゃないと思うんですけど……! 


「さっきの……って」と聞いた僕に、


「……さっきのは、さっきの」と林檎みたいになった七森さんは答えた。


まだ信じかねていた僕は、「これ?」と言うふうにペロペロレモンをフリフリ。七森さんはコクコク、と頷く。


そして、目を伏せ気味にして、そのちいさな口を僅かに開けたのだ。



どことなく、というか物凄い視線を教室中から感じる。女子たちは口に手を当てて目を輝かせているし、男子達は『いいからやれ』と書いたノートをこちらに広げて見せてくる。


「んっ」と、どこか甘い声が七森さんから聞こえる。あれ、七森さんそんな人でしたか……!?


意を決した僕は、ペロペロレモンを1つ手に取る。



手に取ったそれを、僕はさっきより少し丁寧に、さっきより少し近くに、ゆっくりと差し出した。



心臓がうるさい。顔が真っ赤になっているのが自分でも分かるくらいだ。そして、一瞬にも、1時間にも感じた時間の後。



ぱくり、と、七森さんは僕の手からペロペロレモンをついばんだ。微かに柔らかな唇が触れた人差し指が、ひどく熱い。



「……ふふ、美味しい」と呟く七森さんを、直視できない。すると僕の顔を七森さんは覗き込んで、はにかんでこう言ったのだ。



「今までずっと御坂くんに攻められてばっかりだったから、……私も攻めてみるね?」と。



夏休みはすぐ目の前にある。今年の夏はなぜだか、いつになく暑くなりそうな、そんな予感がした。





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作者より


ツンデレは世界を救う。


それではまた、お付き合い下さいませ。


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