異世界クラフター 〜異世界転移したらサンドボックスゲームの世界だった件について〜

織田遥希

異世界クラフター 〜異世界転移したらサンドボックスゲームの世界だった件について〜


 事が起こったのは十二月の半ばだった。

 バイト帰りの僕はクリスマス気分の街を尻目に帰路に着いていた。

 道行くリア充がやけに目につくが、今日の僕は気にしない。なぜなら、最近ハマってるゲームのことで頭がいっぱいだったからだ。

 『異世界クラフト』。最近流行りのサンドボックスゲームで、これがなかなか面白い。

 サンドボックスゲーム特有の高い自由度を保ちつつRPGのようなバトルの面白さも兼ね備えている、オフラインでもオンラインでも楽しめるゲームだ。

 モンスターの種類も豊富で、覚えられる魔法も多くRPGとしての完成度も高い。

 そしてなにより、建築だ。

 建築が非常に面白い。

 種類豊富な建築パーツを組み合わせることでできる建築は、言わば積み木遊びの超上位互換。

 どこにどういったパーツを配置するのか頭を使いつつも童心に帰らせてくれる建築はまさに――


「暴走トラックだぁぁ!!」


 突然聞こえてきた叫び声に顔を上げる。

 するとそこには、僕に向かってとんでもねぇスピードで猛突進してくるトラックがあった。


「え?」


 もちろん避ける間もなく衝突。

 グシャ。と非常に気分の悪い音がして、視界が暗闇に染まる。

 こうして僕の現実世界人生は幕を閉じた。

 チャンチャン。




「うわぁぁぁぁ!?」


 長い時間が経っていたのか、それとも一秒だって経っていなかったのかはわからないが、何故か雲の上のようなところで僕は目を覚ました。

 頬に伝っているはずの冷や汗に感覚はなく、「死んだんだな」ということだけはなんとなくわかった。


「おはようございます。たいらつくる


 女の人の声がして、僕は振り向く。

 するとそこには、金髪碧眼でスタイル抜群のたまんねぇお姉さんが立っていた。


「は、はひっ。おはようございまふっ!」


 僕はバキバキに童貞オタクスキルを発動しつつ返事をする。明らかに挙動不審であった。

 しかしお姉さんは引くことなく続ける。

 この女、強い。


「私は女神バナーヴォ。あなたからすれば、異世界の創造神です」


「い、異世界……!?」


 あ。これ読んだことあるぞ。今どき流行りの異世界転生もしくは転移するやつだ。

 まさか僕が異世界転生するとは……神は死んでなかった!


「も、もしかしてあれですか? 僕が異世界に行って救世主になるとかそういう……」


「ふふ。その通りです。察しが良くて助かるわ」


 笑った!

 女神様が僕に対して笑った。ただでさえ女性から笑顔を向けられる人生を送ってこなかった僕にはいささか刺激が強すぎる。


「ということであなたには、私が担当している異世界に行って様々な問題を解決してもらいます。それじゃよろしく~」


「え?」


 僕がニヤニヤクネクネしている間に話が進んでいたのだろうか。

 突如として僕は光に包まれ、異世界へと送り込まれた。


――展開、早すぎでは?




 次に目を覚ました時、僕は四角い魔法陣の中にいた。

 辺りには木々が鬱蒼と茂っており、目の前には美しいブロンドの短髪を携えた理想そのもののエルフのお姉さんがいた。

 それにしてもこの場所、どこか見覚えがあるような……?

 

「か、神の使い様……!」


 喋った。普通に喋った。なんか神の使いとか言ってた。エルフってやっぱり喋るんだなぁ。

 ていうか、声もめちゃくちゃ可愛い。全てが可愛い。なんだこのエルフ。今までこんなエルフ見たことないぞ。そもそもエルフ見たことないけど。

 ……あ、もしかして神の使いって僕のことかな。女神さまに送り込まれたわけだし、言われてみればたしかに。神の使いと言える。


「あ、あの!」


 僕の答えを待たずに目の前のエルフが続ける。返答遅いもんね。ごめんね。


「この島を助けていただけませんか!?」


「……そ、そういうやつか~」




「ここが私の家です」


 エルフの少女に案内されたのは、屋根ははがれかけて壁の所々に穴が空いている、随分とボロボロな家だった。

 周りの民家などは特に劣化が酷く、半ば廃墟のような惨状だ。

 しかしこの景色もどこか見覚えがあるように思える。なんだったかな。


「直さないんですか? こ、この穴とかって」


 率直に尋ねると、エルフは困ったような笑みを浮かべた。


「直せないんです。誰も」


「え?」


 エルフから聞いた話はこうだった。

 この島はもともと、多くのエルフが住む、のどかな島だった。

 しかし、この島の中心にある火山。これがしばらく前から噴火活動を始めたらしい。それに伴い魔物達も里に多く姿を現すようになり、ほとんどの住民は逃げるように大陸へ移住したのだそうだ。


「実際魔物による被害も出てて……私の両親は魔物に殺されました。もう島に残ってるのは私と、脱出する力のない数人の老エルフだけです。このままじゃ……」


 そう言ってエルフは眼に涙を浮かべる。

 神頼みなんて馬鹿らしいと思っていたが、この絶望的な状況では藁にも縋る思いになるのも致し方ない。


「わ……わかりますた。僕にできることはきょ、協力させてもらいます」


 悲しきかな。こんな状況でも吃ってしまう自分が情けない。

 でも仕方がないではないか。目の前のエルフさん、めちゃくちゃ可愛いもん。


「本当ですか! 危険を顧みずにお祈りしに行ってよかった……!」


 花が咲いたように笑顔になるという表現が、誇張抜きでこんなにも似合う女性を僕は他に知らない。


「は、はい。そのぉ、ところで……お名前って……」


「はっ! 申し遅れました。私、マリーと申します。よろしくお願いいたします」


 マリーさんが深々と頭を下げるので、僕も反射的にお辞儀をしてしまう。もうこれは日本人としてのさがだろう。


「えっと、僕はたいらつくるって言います。平でも、創でも、好きに呼んでもらえたらその……大丈夫です」


 自己紹介すらしどろもどろ。神の使いとして異世界に来ても、やはり僕は僕なのだなと痛感してしまう。

 そんな僕の自己嫌悪などはつゆ程も知らず、マリーさんはニコニコ笑顔で話しかけてくれる。やめてくれ。その笑顔は俺に効く。


「それでは、タイラ様と呼ばせていただきますね」


「い、いやいやそんな様だなんて……もっとフランクに呼んでいただいて大丈夫ですよ」


「では……ツクルさん?」


 その瞬間、僕の脳内に爆弾が落とされた。


――ツクルさん……だと……!?


 名前呼びに『さん』付け。それはいつぞやの眠れない夜、我が脳内で開催された『嫁になんて呼んでもらいたい? ランキング』において栄えある一位を獲得した最強の呼び方だった。注、もちろん現実に嫁などはいない。

 そんな呼び方でこの可愛すぎるエルフ、マリーさんに名前を呼んでもらえる。

 それはまさに至福。その一言に尽きる。

 ありがとう世界。ありがとう女神さま。僕はもう死んでもいいです。


「あ、あのぅ……やはりお嫌でしたか?」


 いけない。僕としたことがエクスタシーに浸っていてマリーさんを困惑させてしまった。


「いえ! 是非ツクルさんでお願いします!」


 爆速で答えると、マリーさんがほっと安心した表情になる。


「よかった。お気に召さなかったのかと思いました」


 そう言って柔らかに笑うマリーさんはあまりに愛らしく。あ、この人は天使なんだな、と思わずにはいられなかった。


「そ、そんなことないです! えっと……それじゃあ早速作業に入りましょうか」




 まず僕が取り掛かったのは、マリーさんの家の修復作業だ。

 可愛らしい天使をいつまでもボロい家に住まわせるというのは流石に心が痛む。

 それに、どうすれば修復できるのかも既におおよそ見当がついていた。


「えっと、この家は石材と木材でできてるから……」


 家を構成する材料を確認し、辺りを見渡す。里の周囲は森に囲まれていて、そう遠くない所にはちょうどいい崖も見える。建材の入手場所に困ることはなさそうだ。

 問題は――


「斧とかピッケルみたいなツールってありますか?」


 隣のマリーさんに尋ねる。


「えっと……あ、近所のおばあちゃんなら持ってるかもしれません」


「近所のおばあちゃん?」


 そういえばマリーさん以外にも数人の老エルフが残っているという話だった。なるほど。もしかしたら老エルフ達は、アイテム取引のできるNPCのような立ち位置なのかもしれない。


「じゃあ、そのおばあちゃんのところに案内してもらってもいいですか?」


「わかりました!」


 マリーさんについていくと、彼女は三軒隣の家の前で足を止める。

 この家もマリーさんの家と同様に劣化が酷い。人の住んでいる家は至急修復をしなくては。


「おばあちゃ~ん。入るよ~」


 ノックの後、声を掛けてからマリーさんが扉を開ける。我が母親にも見習ってもらいたかったな。


「ツクルさんも一緒に入りましょう」


「え? あ、ああ……」


 前言撤回。見知らぬ人を一緒に部屋に入れるのは見習ってほしくない。

 中に入ると、おばあちゃんというよりはめちゃくちゃ綺麗なお姉さんといった見た目の女性が椅子に座っていた。

 なるほど。エルフは見た目が必要以上に老いることはないらしい。


「おやマリー、あんたまだ島にいたのかい。早く出て行けって言っただろう」


 おばあちゃんはマリーさんを見るや否や厳しい口調で咎める。

 きっと、マリーさんの身を案じているのだ。


「嫌よ。私は絶対に出ていかない! 大好きなこの島を捨てるなんて絶対に嫌……! それにねおばあちゃん、神の使いのお方が来て下さったからもう大丈夫よ!」


「神の使い……?」


 おばあちゃんが訝しげに僕を見やる。


「ど、どうも……」


「ふんっ。こんなヒョロヒョロの男が神の使いなものかい!」


 そして案の定酷い言われようである。気持ちはわかるけども。


「本当の神の使いなら『クラフト』や『チェック』ができるはずさ!」


「『クラフト』?」


 僕がおばあちゃんの言葉を反芻した瞬間、目の前にゲーム画面のようなものが展開される。

 これは――


「――『異世界クラフト』の製作画面!?」


 驚きの声を上げるも、マリーさんやおばあちゃんは不思議そうな表情を浮かべるばかり。どうやらこの画面は僕にしか見えていないようだ。


「もしかしてこれ……」


 スマートフォンを操作する要領で画面を触ると、思った通り反応する。もしかしてこれを使って世界を救えってことでしょうか女神さま。そういうのは先に説明しておいてほしかったな。

 えっと、おばあちゃんはさっきクラフト以外にもなにか言ってたな。


「『チェック』」


 呟くと、おばあちゃんやマリーさん。さらには家を構成する建築パーツの状態がステータス画面のように表示される。これも『異世界クラフト』で何度も見たことがある表示だ。


「えっと……あなたのお名前はバーバ・グランマさんですね?」


 言い当てられたおばあちゃんは目を見開くと、マリーさんの方を見やる。


「マリー、あんたが教えたのかい?」


 するとマリーさんも驚いた表情で首を横に振る。それもそのはずだ。


「おばあちゃんとしか教えてないわ。ツクルさん、どうしてわかったんですか?」


「す、すいません。『チェック』で見させてもらいました。その、こうすれば信用していただけるかと思って」


 「ふむ」と呟いたおばあちゃんことバーバさんは少し考えこむ。


「……それで、あたしになんのようだい?」


「あ、斧やピッケルがあればお借りしたいと思いまして……お、お礼になるかは分かりませんが、この里の家を全て修復しますので」


「「全て!?」」


 マリーさんとバーバさんが驚きの声を上げる。

 これはもしかしてあれだろうか。かの有名な『またなんかやっちゃいました?』的なやつだろうか。


「ほ、本気で言ってるんですか? ツクルさん」


「ま、まあ、はい」


 こうも問いただされると自信をなくしてしまう。だが可能なはずだ。ここが『異世界クラフト』の世界なら。きっと。たぶん。


「はっはっは。面白いじゃないか。いいだろう。斧やピッケルは貸してやる。それじゃあやってみな、『神の使い』なんだろ?」


 あ、これ信じられてないな。




 なにはともあれ、バーバさんからツール一式を貸してもらうことができた。

 『チェック』で確認したところ、どれも『おんぼろな木製ツール』だったが当面問題はないので、追々改善していくとしよう。


「もう! ツクルさんにあんな態度とるなんて、おばあちゃんったら信じられない! 本当に神の使いなのに!」


 そして隣ではマリーさんがご立腹のご様子。

 代わりに怒ってくれるのはありがたいし、なにより怒り方も可愛い。こんな可愛らしいマリーさんを引き出してくれたバーバさんには、改めて感謝しなくては。


「ま、まあその、実際に直してみせればバーバさんも信じてくれますよ!」


「そうですね。絶対目にもの見せてやりましょう! 私も頑張ってお手伝いします!」


 燃えてるマリーさんもまた良い。女神さま、ここは良い異世界です。ありがとう。


「ところで、バーバさんはどうして『クラフト』や『チェック』のことを知っていたんですか?」


「それはですね……ちょっとこっちに来てもらってもいいですか?」


 そういってマリーさんに案内された先は、すっかり寂れた様子の広場だった。

 中央にある噴水は涸れ果て、頂点にある像が虚しく立っている。


「あれ? もしかしてあの像って女神さま?」


「あ、やっぱりわかるんですね! そうなんです。この広場では女神さまを祀っているんですけど今はすっかりこの有様で……女神さまには申し訳がないです」


「……なるほどなぁ」


 考えてみればそうか。女神さまが使いを送り込むくらいなんだから、ここはもともと彼女への信仰が篤い里だったに違いない。


「そうか。ここ、『信仰の島』なのか」


 『信仰の島』は、『異世界クラフト』で稀に生成されるレアバイオームだ。その生成率の低さはゲーム内トップクラスであり僕も一度しか発見したことがないが、そう考えればこれまでの既視感にも説明がつく。

 しかし『信仰の島』は通常、友好的なエルフや温暖な気候に恵まれた穏やかなバイオームであり、このように荒廃した状態になるなど聞いたことがない。


「島の中心にある火山って……」


「ツクルさん、どうかしましたか?」


「ん、ああいや、なんでもないです」


「それならいいんですけど……体調が優れないようなら、ご無理なさらないでくださいね」


 しまった。一人で考え込むあまりマリーさんにいらない心配をさせてしまった。ひとまず今は目の前のことに集中しなければ。


「すいません、もう大丈夫です。それで、どうしてこの広場に?」


「それはですね……この石碑を見てもらってもいいですか?」


 マリーさんが噴水跡地の傍らにある石碑を指差す。そこに刻まれていたのは異界の文字だったので、読むことは叶わない。ワンチャンに賭けて『チェック』してみると、石碑の耐久度と共に解説文が表示された。どうやら賭けには勝ったようだ。


「えっと……『神の使いについて』ですか」


「はい。島に伝わる伝承です。この石碑のおかげで、私たちは神の使いについて多少の知識を持っています」


「なるほど……」


 石碑に書かれているのは大きく二つ。島が危機に瀕する時、神の使いが現れること。そして神の使いの能力についてだ。

 神の使いの能力は四つ。『クラフト』『チェック』『ビルド』『マジック』だ。

 詳細な解説などは書かれていなかったが、その単語のみでおおよその効果は理解できた。『異世界クラフト』と同じだ。

 やっぱり、これならいける。


「あと必要なのは……『チェック』」


 自分に意識を向けると、上手いことステータスが表示される。自分のステータスだけ見れないのは困るので、これは非常に助かる。

 やっぱり魔法は覚えてないか。ステータスも……わかっていたことだがかなりかなり残念だ。まさかマリーさんにすら筋力で劣るとは。


「となると……これでいいか」


 その辺りに落ちていた木の枝と石を拾い、『クラフト』画面を開く。あと必要なのは――


「マリーさん、少しお願いがあるんですけど……」




 それから、僕たちは少し離れたところにある崖の下に来ていた。ここでなら思う存分石材を採掘できると踏んだからだ。

 僕は自分に『チェック』をして、インベントリからピッケルを取り出す。この方法なら大量の荷物も一度に運べるので便利がいい。


「それじゃあやりましょうか……マリーさん?」


 見れば、マリーさんはなにやら驚いたように目を見開いていた。


「つ、ツクルさん。あれ……」


 マリーさんの指差した方に視線を送ると、崖の中腹に辿り着く。そこには、壁面を這いずる灰色の大蛇にも似た何かがいた。は僕らの存在に気がつくと、その鎌首をもたげる。その鱗は怪しく光を反射していた。

 そして、こちらを見やる黄色の瞳と目が合ってしまう。

 間違いない。こいつはスネークゴーレムだ。


「ま、魔物です!」


 スネークゴーレムは『異世界クラフト』の岩場などにおいて生成されやすい魔物である。ゴーレムらしく、通常の物理攻撃や炎魔法を半減する力を持つ上に追跡がしつこい。しかし氷魔法が苦手などといった弱点を突くことができれば、討伐の難しい相手ではない。


「けど、レベル一の時に戦うような奴でもないんだよなぁ……」


 現在、僕の防御力は五。スネークゴーレムの攻撃力であればおそらく、一度か二度攻撃をくらえば死んでしまうだろう。

 しかし、やるしかない。残念ながら、スネークゴーレムから逃げ切れるスピードすらも持ち合わせていないので。


「マリーさん、さっきのもらえますか」


「さっきのって……これですね? いいですけど……」


 そう言ってマリーさんが僕に渡してくれたのは、糸。この崖に来る前、マリーさんの家に寄って持って来てもらったのだ。


「こ、こんな時に糸なんかでなにするんですか?」


「まあ見ててくだし……くださいよ……『クラフト』」


 かっこつけようとして放ったセリフをしっかり噛みつつ、僕はクラフト画面を展開する。作る物はもう決まっていた。


「出てこい!」


 『クラフト』を終えるとが一つ、僕の手に握られていた。もちろん銀色の玉を弾く方ではなく、石なんかを飛ばしたりできる方だ。


「これであいつの気を引きます。マリーさんは下がっていてください」


「わ、わかりました……どうかご無事で!」


 そう言ったマリーさんが森の方に下がったのを見るや否や、スネークゴーレムが素早く這いよってくる。どうやら絶対に逃がさないつもりのようだ。めちゃくちゃ恐い。けど――


「――トラックに轢かれるよりマシだぁぁぁ!」


 決死の覚悟でスネークゴーレムの顔面目掛けて石を放つ。するとまっすぐに飛んだ石は勢い良くスネークゴーレムの頭部に激突した。

 スネークゴーレムがスタンする。


――今だ!


 僕は即座パチンコからピッケルに持ち替え、スタン中のスネークゴーレムの脳天を思いきりぶん殴る。それでさらにピッケルで殴って、もう一回。そしてさらにさらにもう一回。

 するとスネークゴーレムが霧散し、素材とキラキラ輝くたくさんの経験値が辺りに飛び散った。


「あ、倒せた」


 経験値が吸い込まれるように僕に集まり消えていく。これで少しでもレベル上がるといいなぁ。


「ツクルさん、すごいです! メタルスネークを倒すなんて!」


 そう言ってマリーさんが駆け寄ってくる。まあスネークゴーレムって結構――


「……え?」

 あれ、聞き間違いかな。


「マリーさん……今、なんて……?」


「だから、メタルスネークを倒すなんてすごいって話ですよ! も~、謙遜なんてしなくていいんですよ?」


「え? メタルスネーク? え?」


 必死に記憶を巻き戻す。たしかにあの魔獣、なんかテカってたかもしれない。でもメタルスネークって、最強クラスの魔物が何体も出現すると言われる、ゲーム内で最もレアなバイオーム『終焉の火山』にしか出現しない激レア魔物で、経験値もたしかかなりすごかったような。


「チェ、『チェック』!」


 大急ぎで自身のステータスを確認する。

 レベルは――


「――九十九!?」


 最強級だった。




「まさか、本当に全ての家を修復するなんてねぇ……本当に『神の使い』だったとは」


 バーバさんがすっかり綺麗になった家々を見つめて呟く。どうやら『神の使い』だと信じてもらえたようだった。

 あの後、里に戻った僕はインベントリいっぱいに回収した素材を使って家を一軒ずつ直していった。『ビルド』を使えば素材を消費して瞬時に修復ができ、さほど時間もかからないので装飾なんかも加えてみたりした。

 老エルフたちにも好評だったので、一建築好きとして鼻が高い。


「……悪かったね。ここのところ、嫌なことが続いてたもんだから素直に信じてやれなかった……この子が噓つくはずないのにねぇ」


 バーバさんが頭を下げる。この子、というのはきっとマリーさんのことだろう。


「い、いやそんな……! 謝らないでください。いきなり出てきて『神の使い』だ、なんて、信じられなくて当然ですよ」


「そうかい? ずいぶん優しい『神の使い』だ……この調子で整備が進めば、出ていったエルフ達も戻ってくるかもしれないねぇ」


 そう言ってバーバさんは笑った。いい雰囲気だし、気になっていたことを聞くなら今な気がする。


「あの~……ところで、島の中心にある火山ってなにか名前ついてたりします……?」


 頼む。『終焉の火山』って言わないでくれ。僕はただの建築好きなので最強クラスの魔物と戦うとかはしたくないし死にたくない。


「『終焉の火山』って名前ですよ?」


 その無慈悲な答えは、横にいた可愛いマリーさんの口から聞くことになった。


「激レアバイオームと最レアバイオームがくっついてるってなに……?」


 ゲーム内なら喜んだであろうが、ここは転移先の世界。死のシステムについては説明を受けていないが、痛みは確実にある。嫌すぎる。


「あんでだよぉ……っ!!」


 こうして、僕の島開拓サンドボックスライフは幕を開けたのだった。

 俺たちの冒険はこれからだ!

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