第5話

「……こちらから話した方が良いようじゃな。オリバー君、君の村は10年程前から環境がかなり改善されているという話で合っているね?作物や魚も捕れるのだとか」


 いつまでもお茶に手を出せないでいる俺に、さすがに本題に移らなくてはと思ったんだろう。フサ髭の爺さんは質問を始める。


「は、はい。そうです。ライア神官様が亡くなって以降状況が改善したので……俺、私達はきっと神官様のご加護だと思っていました」


「うむ……それは無い。神官には神聖力があるが、聖女の力とはまるで別物じゃからのう。現に神聖力で大地の浄化――女神像と同じことができた人間はいた事が無い。じゃが、状況の改善はその体格からして間違いなかろう。よく食べて鍛えられたように見える」


 ライア神官の加護説、村では一番有力だったのにこっちに来てから二回も即答で却下されてるな。あの人が亡くなって以降死んだ人が一人も居ないのに。でも、ここまで違うって言われるってことは、違うんだろう。


 爺さんは、にこりと笑い


「ラウル君から少し聞いとると思うが、端的に言おう。君の村に〝聖女〟が現れている可能性が非常に高い。ほぼ間違い無いと言っても良い。王宮でも今話し合いが進んでおるが、近日中にパロマ村の村人を王都へ移す部隊を派遣する予定じゃ」


「村の人達を王都に連れて来て下さるんですか?」


 これには驚いた。


「ああ、聖女を連れてくるにしても一度は行かなくてはならないし、改善している村の状況を調査もしたい。天馬の馬車を使えば20人は移動できるから、荷物などは後としても人の移動はすんなりいくじゃろう」


 成る程。村から出て生き延びる難易度が高すぎて、村人全員の移動の可能性は完全に俺の考えには無かった。天馬の馬車、本で読んだことがあるだけだけど本当に存在するんだな。空を飛べるんだっけ。


「ありがとうございます。皆が脱出できるなら助かります。こっちに来た人達はどうなるんですか?」


「難民を受け入れる施設があるから一旦そちらへと入ってもらう。健康状態が君のように優良ならば、仕事につくことは難しくないはずじゃ。我が国も余裕がある訳では無いが、ひとまず王都で保護することはできる。オリバー君読み書きができるかね?」


 何を当然のことをとこの時は思い頷いたが、どうやら王都以外で暮らしている平民の識字率は低いらしい。

 爺さんは「それは良かった」とまた笑顔を見せ、君さえ良ければ当面難民達に字を教えて欲しいと言われた。

 話を聞けば、食い詰めてやってきたばかりの難民同士の間ではトラブルが起こりやすく、元軍人なんかもいることから喧嘩も絶えない。腕に覚えがあって、読み書きができる人材は大体要職に就いていることから彼等に当てる人員を確保しきれておらず、手が足りないんだそうだ。勿論断る理由は無い。二つ返事で受けた。


 俺の仕事先についてある程度話がまとまった後は、俺が歩いて来た道の状況や村の現状を地図を前に確認作業が始まった。魔物の危険や途中の河川の状況など、都度担当していると思われる人物が資料を持って来ては照会していく。パロマ村近辺は元々主要な街道も無く、一番近い村でも徒歩2日はかかる僻地だったというから近辺の情報が絶えた今、俺の証言は重要なものらしかった。

 神殿が崩れた後の覚えている限りの経緯や情報、その後の村人の死因なども話す。さすがにこの部屋にも部屋にいる人の量にも慣れた頃


「国王陛下がお越しです」


 唐突に、あまりに唐突に扉が開き、国王陛下と称されたその人物が現れたのだった。

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当代の聖女は男につき しほ @lemeal

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