第90話 大胆不敵


 俺はヘドロスライムの体内に、転移した――。


 すると、ヘドロスライムの体内は空洞になっていた。

 ちょうど俺が中に入っても大丈夫なほどの空洞だ。

 まあ、あれだけ巨大だったのだから、このくらいの空洞があってもおかしくはないが……。

 一体この謎の空間は……?


「ぎょ……!? な、なななななんだお前は……!」


 俺の足元で、そんな声がした。

 するとそこには、背の小さなおっさんがいた。

 ゴブリン……の亜種だろうか……?

 言葉をしゃべっているし、魔族なのか……?

 それにしても、ヘドロスライムの体内にゴブリン……?

 こいつが操っていたりするのだろうか……?


「お前はなんだ……!?」

「俺様は魔王軍幹部、へドロス様だ……!」


「お前がヘドロスライムを操っていたのか……!?」

「そうだ……! だがそれに気づいたところで無駄だ……! 貴様の剣はもうない! 我々も調べはついているんだ! 勇者ロイン! 貴様は素手ではスライムすら倒せないそうじゃないか! はっはっは! 勝ったなガハハ!!!!」


 小さなおっさんゴブリンは、そう言って高笑いした。

 なにか勘違いをしているようだな……。


「情報が古いよ、それ」

「え…………?」


 俺は手刀で、ゴブリンを突いた。


 ――ドス!


「ぐぉえ……!?」


 その一撃で、ゴブリンは吹っ飛んでいった。

 ヘドロスライムの体内にある障壁を突き破り、ヘドロの中にまで吹っ飛んでいった。

 さらにヘドロを突き破って、ダンジョンの壁まで吹っ飛んでいったようだ。

 魔王軍の奴らも、なかなか知恵があるようだが、少し時差があるのか、情報が古いな。

 まあ、魔界と俺たちの住む世界はかなり違うから、無理もないが……。

 おかげで、敵は油断してくれていたわけだしな。


「さて……と」


 俺はヘドロスライムの体内にある謎の空間に一人、取り残される。

 さっきのおっさんゴブリンに説明してもらいたかったが……まあ、そんなふうに言うことを聞く相手とも思えないしな……。

 俺は足元を観察する。


 さきほどゴブリンが立っていたところに、二つの魔法陣が描かれていた。


 一つは、召喚の魔法陣のようだ。

 魔法陣の中央に、それを現す文字が書かれている。

 どうやら、俺たちの使っている文字と、魔界の連中が使っている文字は同じみたいだな。

 まあ、言葉が通じる時点で、そうか。


「なるほど……この中で、やつがモンスターを生み出していたわけだな……」


 それにしても、手の込んだことをしやがる。


 そしてもう一つの魔法陣には、操作系の単語がずらっと並んでいた。

 なるほど、おそらくこっちの魔法陣で、ヘドロスライムをコントロールしていたのだろう。

 さっきのゴブリンを倒して以来、ヘドロスライムは動きを止めているようだった。


 さっきのゴブリンは、あまりにもあっけなかった。

 きっとヤツ自体にはあまり戦闘力がないのだろう。

 召喚や操作の魔法に特化した魔導士タイプってとこか。


 きっとこのヘドロスライムをまとうことによって、その弱点を補う作戦だったのだろうな。

 このヘドロスライムも、ヤツ自信が作り出したのかもしれない。

 もしくは、この辺のスライムを集めて生み出したのか……。

 さすがにこのヘドロスライムほどの大きさと強さのモンスターを、魔界からこちらにもってくるとなれば、それなりに影響も大きいだろうからな。


 俺の予想では、あのゴブリンが単身で、こちらに乗り込んできて。

 それでこのヘドロスライムを作り、そのあと召喚魔法でモンスターを生み出していたのだろう。

 なんとも、恐ろしくレベルの高い魔法技術だ。

 その辺はさすが魔界の連中だ。

 俺たちの使うスキルブック由来の魔法とは全然違うのだろうな。


「ってことは……さっきのゴブリン、魔王軍の中ではかなり格の高い敵だったのかもしれないな」


 そういえば、幹部とか言ってたしな……。

 ということは、デロルメリアと同格なのか……?

 まあ、ヤツ本体はあっけなかったがな……。


「それで……こいつがコアか……」


 そして魔法陣に挟まれるようにして、赤い球体状のコアが宙に浮いていた。

 これがダンジョンコアということなのだろうか。

 これも、あのゴブリンによってつくられたのか……?


「こんなに出力を高めたコアは初めてみた……」


 ダンジョンコアは、その出力を高めれば高めるほど、モンスターを生み出すことができる。

 これも、あのゴブリンの仕業なのだろうか。

 このコアと魔法陣を使って、あれだけのモンスターを生み出していたのか……?

 仕組みはわからないが……放っておいたらもっと大変なことになっていたかもしれないな……。

 なんとかできてよかった……。


「えい……!」


 俺は素手でそのコアを、思い切り握りつぶした。


 ――バリィン!!!!


 すると、俺のいた空間の外壁が溶けだして、ヘドロがドロドロと垂れてきた。


「おおっと」


 俺は慌てて、クラリスのもとへ転移する。


「わ……! ロイン……! もう、心配したんだから!」

「ごめんごめん……」

「……!? あれ見て……!」


 ヘドロスライムを見ると、ドロドロと溶け始めていた。

 どうやらコアとあのゴブリンの魔法陣によって、あの身体を維持していたらしい。

 これはダンジョンごとヘドロで埋め尽くされかねないな……。


「クラリス、逃げよう……!」

「そ、そうね……!」


「っと……その前に、さっきのゴブリンのドロップアイテムだけでも回収するか……!」

「って……もう! はやくしないと……!」


 俺は極小黒球グラビトンとアイテムボックスを駆使して、急いでゴブリンのレアドロをかき集める。

 いくつかはヘドロに巻き込まれてしまったが、なんとか元はとれただろうか。

 俺はそれが何のアイテムかも確認せずに、とりあえずアイテムボックスに50個ほどつめこんだ。


 俺たちは急いで、アルトヴェールまで転移した。

 ヘドロスライムは倒したし、コアも破壊した。

 それを操っていたゴブリンも倒した!

 これで、任務完了ってとこかな。


 それになにより、ここまで大量に確保したレアドロが楽しみだ!

 アイテム開封の儀が、俺を待っているぜ……!



【あとがき】


メリークリスマス!


今年は沢山読んでいただきありがとうございました!

小説の更新が、ささやかなプレゼントになっていれば、うれしく思います。

私はクリスマスボッチですが、みなさんそれぞれ楽しいクリスマスを~!


まだの方はぜひ面白ければ、ここで一度☆評価をしていただけると、作者はうれしく思います!


それと、新作のほうもスタートしております。

もしよろしければ、読んでやってください。

↓↓↓

https://kakuyomu.jp/works/16816700429527557087/episodes/16816700429527754758

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