第89話 捨て身


「そうだクラリス……! 氷の盾で、あいつを凍らせること、できるか?」

「え……、できるけど……? そうね、それならもしかしたら……!」


 俺はクラリスに思いついた作戦を話した。

 ヘドロ状の身体も、もしかしたら凍らせれば簡単に砕けるかもしれない。


「よし、いっしょに盾を持って突進しましょう!」

「わかった!」


 俺たちは盾を持って、ヘドロスライムに突進した!

 ――ドン!

 そしてヘドロスライムにぶつかると同時、

 クラリスが氷の盾のスキルを発動させる!

 ――バリリ!!


 それによって、ヘドロスライムの表面を凍らせることに成功する!


「んもぉ……!?」


 だがしかし、ヘドロスライムの表面を凍らせたものの、そのあとすぐに別のヘドロによって、その氷は溶かされてしまった。

 まるで爬虫類が脱皮をするみたいに……。


「んもぉ……こんな攻撃、効かない!」


「くそ……これじゃ埒が明かない」


 このままなんども突進を続けても、ゆっくり敵の外皮を削っていくだけにしかならない。

 そんなことをしていたら、先にこっちの盾がすべて溶かされてしまうだろう。

 それよりも、コアを破壊する決定打がほしい。


「んもぉ……! こっちも本気でいく!!!!」


 ヘドロスライムは、またヘドロを飛ばしてきた。

 そしてそれと同時に、こっちへ突進してくる……!


 ――ドドドドドドドドド!!!!


「くそ、どうする……!?」


 ヘドロスライムが盾に体当たり……!

 そしてそのまま、俺たちは盾ごと押される。

 なんとか盾を押し返して、耐えようとするが、盾はいまにも溶かされつつある。


「大丈夫かクラリス……!?」

「だめ……! このままじゃ、氷を貼るスピードが追い付かない!」

「っく……!」


 どうやら盾はもうだめみたいだ。

 このままじゃ、盾ごと俺たちも飲み込まれかねない。

 俺はいったん、クラリスを連れて転移を使った。

 転移で、ちょうどヘドロスライムの裏側に回る。


 ヘドロスライムは俺たちが逃げたことに気づかず、なおも盾を押している。

 そしてついには壁に激突し、そのまま盾を溶かして喰ってしまった。

 これで俺たちは、盾も剣も失ったことになる。

 もはや絶体絶命だった。


「っく……!」


「んもぉ……!? まだ生きていたか……!?」


 ヘドロスライムは俺たちに気づくと、振り向いた。

 このままだと、マジでやられてしまう。

 転移でいったん逃げるという手もあるが……。


 ――ジュウ……。


 すると、俺の足元からわずかに煙が出ていることに気づいた。

 そうだ、俺たちが今立っている場所は、さっきヘドロスライムがいた地点だ。

 そのせいで、残っていたヘドロに、靴の裏が溶かされている。

 くそ……靴までもうボロボロだ。


 だけど……あれ……?

 おかしいぞ……?

 俺はある違和感に気づく。

 さっきもそうだった。

 俺の靴にヘドロがかかったとき、俺の足はなんともなかった。

 たしかに多少の皮が溶けるなどのダメージはあったが、それでも骨まで溶けたわけじゃない。

 今もそうだ。

 俺の靴の裏は溶けているけど、俺の足の裏は溶けていない。


 わかったぞ……!


「もしかして……生物は溶かさないのか……?」


 俺はその可能性に気づいてしまった。

 だって、ヘドロスライムの体内からは、モンスターが出てきていた。

 あれはモンスターだから大丈夫なのだと思っていたけど、そうじゃない。

 生物なら、あいつの体内でも大丈夫なんじゃないか……?

 表面のヘドロに触れたら、多少のダメージはありそうだが……。

 体内のモンスターたちは、なぜ無事だったんだ……?


「クラリス、俺は今から賭けに出る……。でも、決して怒らないでくれよ……?」

「え……? ちょっと待ってロイン……いやな予感がするんだけど……!?」


 俺はヘドロスライムの体内に、転移した――。

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