第88話 ヘドロスライム


 ダンジョンの奥にいた、モンスターの発生源。

 それは、ヘドロ状のボスモンスターだった。

 俺はそいつを仮に、ヘドロスライムと呼ぶことにした。

 ヘドロスライムは、俺に向かって、大きく口を開ける。


「んもぉ。お前を食べる……!」

「うわ……くっさ……!?」


 ヘドロスライムの口の中からは、とてつもない異臭がした。

 あそこからモンスターたちが出てきていると考えると、おぞましい。

 いったいどういう仕組みなのだろうか。

 モンスターのもととなる液体が、あんな臭いなのか?

 まあ、それはどうでもいいが……。


「ふん、そのバカみたいに開けた大口に叩き込んでやるぜ! 火炎龍剣ドラグファイア――!」


 俺はさっそく、ヘドロスライムの口の中めがけて炎剣を叩きこんだ!

 ――ゴオォ!!

 剣から伸びた炎が、ヘドロスライムの口の中に飲み込まれて――。

 消えた。


「なに……!?」


 そしてそのまま、ヘドロスライムは俺に向かって口の中からヘドロを飛ばしてくる。

 ――ドバッ!

 しかし、咄嗟のことで俺は一瞬、回避が遅れてしまう。

 俺は剣でヘドロを受け止めようと構える。

 しかし――。


「ロイン、危ない……!」


 クラリスが咄嗟に、俺の前に出て盾でヘドロを受け止めた。


「クラリス……!?」


 しかし、クラリスの盾は、ヘドロを受け止めたはいいものの、その部分がドロッと溶けかけている。

 まさか、あのヘドロにはそんな能力があるのか……!?

 危ないところだった。

 剣でなど受け止められるようなものではなかった。


「ありがとうクラリス。でも……盾が」

「私の盾は大丈夫。ロインを護れてよかったわ。それより、あいつを倒す方法を考えないと」

「そ、そうだな……!」


 しかも、ヘドロの一部が、俺の靴にも飛んできていた。

 そして俺の靴の一部が溶ける。

 まじで危ないところだった……。


 相手の攻撃を受けることも難しい、そしてこちらの攻撃もろくに通らない。

 どうやってこのヘドロの塊を処理すればいいのだろうか……。


「んもぉ……! 勇者……コロス……!」


 そうこうしているうちに、ヘドロスライムは次の攻撃を仕掛けてきた。

 体中から、ヘドロを飛ばしてくる。

 くそ……避けようにも、これだけの量のヘドロ……!

 どうやって戦えばいいんだ……!?


「ロイン、私に任せて! 巨大盾ビッグ・ワン――!」


 クラリスが呪文を唱える。

 すると、クラリスの盾が巨大化して、俺たちに覆いかぶさるようにして、ヘドロを受け止めた。

 もちろんヘドロを食らった部分は、溶けてしまっている。

 しかし、盾自体が大きくなったので、まだ何度かは攻撃を防げそうだ……。


「くそ……、なかなか強敵だ……。どうやって倒そう……」


 ここはとりあえず、弱点調査ウィークサーチを使うことにしよう。


弱点調査ウィークサーチ――!」


 俺は盾の溶けた隙間から、ヘドロスライムを視認して、弱点を探った。

 すると、ヘドロスライムの体内に、真っ赤な球体が見えた。

 あれがコアか……。

 そして、モンスターたちもそこから発生しているに違いない。

 つまりは……あれがダンジョンコア……。

 ヘドロスライムは、ダンジョンコアのまわりにスライム状の肉壁がついている、そういうモンスターなのだ。


「よし、あのコアさえ破壊すれば……!」


 弱点さえわかれば、あとはこっちのものだ。

 しかし、クラリスを連れてきて本当によかった。

 俺一人だったら、こうやって弱点を探る隙もなかったかもしれない。

 クラリスの盾を犠牲にしたおかげで、こうやって勝機が産まれた。


「でも、どうやって……!?」

「大丈夫だ。俺のスキルをつかえば……!」


 空間転移の剣――俺の剣スキルの一つ。

 スキルブックから手に入れたスキルの中でも、切り札として覚えておいたものだ。

 これを使えば、好きな空間に、自分の剣を転移させることができる。

 つまり、ヘドロスライムの体内に、このスキルで剣を転移させる。

 そうすれば、ヘドロスライムの体内のコアを直接攻撃できるってわけだ……!


「なるほど、それならイケるかも……!」

「よし……! 空間転移の剣――!!!!」


 俺は各種バフをかけたあと、盾の裏からヘドロスライムの体内にめがけて、剣を転移させた!

 邪剣ダークソウル。

 その愛剣を、敵の体内に送り込む!


 しかし――。


「んもぉ……?」


 ヘドロスライムは、にやっと笑った。

 俺の剣は……どこにいったんだ……!?


「んもぉ……俺、お前の剣喰った……!」

「は……!?」


「んもぉ……俺、体内のもの、すべて溶かす。それがコアのまわりでも……。溶かして、パワーにする……」

「な、なんだって……!?」


 俺は確かに、コアを攻撃できる位置に、剣を転移させたはずだ。

 しかしこいつは、それを喰っただと……!?

 まさかコア自体にも溶かす性質があるとでもいうのか……!?

 そ、そんなの……どうすればいいんだ……!?


「んもぉ……こっちの番……!」


 邪剣ダークソウルのパワーを喰らったヘドロスライムは、さらに巨大化したように見えた。

 そして、こちらへヘドロを飛ばしてくる――!


「くそ……! 万事休すか……!」


 しかし、そんな俺を励ますように、クラリスが言った。


「ロイン、大丈夫だよ……! 武器なんかなくたって、今のロインなら……!」

「クラリス……!」


 そうだ、俺はもうあの時とは違う。

 スライムすら倒せなかったあの時とは。

 今の俺なら、武器なんかなくても、この最強のスライムすら倒せるんじゃないか……!?


「氷の盾――!」


 クラリスは、飛んでくるヘドロに対して、そう唱えた。

 クラリスの盾スキルの一つだ。

 唱えると、クラリスの盾が氷を帯びた。


 ――ドシャ!


 氷の盾の上に、ヘドロが落ちる。

 しかし、盾は凍ったおかげで、さっき溶かされた隙間が氷で埋まっていて、まるで新品の盾同様に、広い範囲をカバーしていた!

 しかも、氷で透けて見えるから、ヘドロスライムのようすもよく見える。


「んもぉ……!?」


 ヘドロが氷の盾に阻まれて、ヘドロスライムは驚いた顔をした。


「ロイン、敵のヘドロは、ぜんぶ私が氷の盾で受け止める! だからロイン、お願い……!」

「ああ、わかった……!」


 クラリスの氷の盾ならば、ヘドロを飛ばされるたびに氷を貼りなおせば、なんとかなりそうだ。

 それに、敵はヘドロを飛ばすたびに明らかに身体が小さくなっている。

 つまり、敵もいつまでもああしていられるわけではないということだ。

 こっちにも勝機が見えてきた。

 それと、ヘドロスライムは俺たちと戦っている間、一度もモンスターを吐き出していない。

 つまり、モンスター生成と戦闘は同時には行えないということだ。

 それだけわかれば、あとは十分だ。


「よし、第二ラウンドだ……!」


 しかし、俺は剣を失った。

 クラリスのおかげで、なんとか死なずにすんだが……。

 さあて、ここからどうするかな……。

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