第87話 発生源


 モンスターたちがやって来た方角へ、少しずつ転移を繰り返しながら進む。

 すると草原を抜けて、アルトヴェール領の北端にある山岳地帯へ到達した。

 しかしなおもモンスターたちの行列は続いていて。

 これは不幸中の幸いだが、モンスターたちはみな、一直線にアルトヴェールの街を目指しているようだった。

 だからいくらモンスターあふれかえっても、外へは行かず。

 ミレージュなど周辺の地域への影響は薄そうだ。

 やはり、俺が勇者であるから、真っ先に狙われるというので間違いなさそうだ。


 山岳地帯に来て、モンスターがとぎれているのがわかった。

 俺は転移で少し高いところに上って、上からモンスターたちの大群を観察していた。

 どうやらモンスターたちは、山岳にある洞窟から出てきているようだった。

 それも、すごい勢いでどんどん出てきている。


「あれだな……」

「あれって……もしかして、ダンジョン?」

「ああ、そうだろうな」


 まさかアルトヴェール領のこんなところに、ダンジョンが出来ていたなんて。

 しかも、モンスターが無限に湧いて出てきている。

 どうも前からあったわけではなく、最近できたものだろうな。

 なるほど、今度は巨大なモンスターなどではなく、ダンジョンを送り込んできたということか。

 モンスターたちは、こっちの世界で生成するから、魔界からのゲートを通る魔力は少なくて済むというわけだ。

 魔王軍も手を変え品を変え、いろいろ考えてきたな。


「今回大きな予兆がなかったのは、これも関係しているのかもな……」

「どういうこと……?」


「ダンジョンコアだけをこっちに送り込んで、こっちの世界でモンスターを生み出しているんだろう……。だからつまり、魔界からのゲートを通る魔力は少なくて済む。ダンジョンコアの分だけでいいからな。あとはこっちで魔力を溜めて、モンスターを生み出せばいいわけだ。ゲートを通る魔力が少ないってことは、前のように空中に大穴を開けたりしないで済むからな」

「なるほど……そのせいで、今まで気づかなかったんだね……」


「そういうことだ。俺たちが気がついたときには、モンスター無限発生装置の完成さ」

「だったら……」


「ああ、それを破壊しなくちゃな」


 俺たちは、ダンジョンへと入ることにした。

 とりあえず、入口へ向けて、攻撃を放つ。


盾火砲シールドビーム――!!」


 ――ズドドドドドド!!!!


 モンスター一体一体の強さはさほどでもない。

 それに、ダンジョンの入口で団子になって、一直線になっているから、盾火砲シールドビームで一網打尽だ。


「よし、入ろう」

「うん……!」


 ダンジョンに入っても、中からどんどんモンスターが湧き出てくる。

 これは俺たちもかなりのスピードでモンスターたちを倒していかないと、なかなか先に進めないぞ。

 まるでモンスターでできた壁を掘り進んでいくような作業だった。

 こうなると、クラリスを連れてきてよかったな。

 盾があるだけで、かなり進みやすい。


 ダンジョンの中を歩いているだけで、前からものすごいスピードでコウモリ型のモンスターが飛んできたりする。

 それをいちいち避けていたら大変だ。

 ダンジョンを進む間、俺たちの横をすり抜けていくモンスターもいたが、この際だから無視だ。

 どうせアルトヴェールまでいけば、仲間たちが対処してくれる。

 それよりも今は、俺たちははやく先に進んで、ダンジョンコアを破壊することに専念しよう。


「それにしても……勇者である俺を無視してアルトヴェールに向かっているな……」

「うーん……そうだよねぇ……」


「もしかして、そう命令されているのかもしれないな」

「誰かが、このモンスターたちを操っているってこと……?」


「そうだ。そしてそいつが……こいつらを生み出しているのかも……!」


 俺たちはどんどんダンジョンの中を進む。

 こうしている間にも、アルトヴェールで待っているみんなは、戦いを続け、消耗していっているんだ。


 俺が極小黒球グラビトンで集めた敵を、クラリスの盾火砲シールドビームで焼いていく。

 そして通りすぎざまに、アイテムボックスでアイテムを集める。

 もう目の前はモンスターとアイテムの嵐で、なにがなんだからわからないくらいだ。

 クラリスの盾をつかって、掘り進むようにしていく。

 そして俺たちは、ようやくダンジョンの最奥と思われるところへ到達した。


 そこは、巨大な空間になっていた。

 山岳地帯の中にぽっかりと空いた、洞窟。

 そこに、ダンジョンコアと思わしき、ボスモンスターがいた。

 こいつを倒せば、きっとこの悪夢は終わる。


「おいおい……これはかなりおぞましい……ってか悪趣味だな……」


 ボスモンスターと思わしきそいつは、でろでろに太ったスライムのような、身体をしていた。

 一言で言うと、巨大なヘドロだ。

 大きさは5、6mにも達するだろうか。

 そして、その真ん中に巨大な口と、目がついていて。

 手は存在しない。


 口の中からは、汚い、分厚い巨大なベロが出ている。

 そして、その口のなかから、モンスターがゲロのように、次々と出ていっている。

 まるで悪夢のようなモンスターだった。

 こいつの口から、今までモンスターが発生していたのか……?

 この中、どうなってるんだ……?


 俺たちがそんな感想を抱いていると――。

 そのボスモンスターが言葉を発した。

 口を動かさねばならないので、モンスターの出現がいったん止まる。

 口から出る途中だったモンスターは、噛まれ、ちぎれ、飲み込まれていた。

 どうなってるのかますますわからん……。


「んもぉおおおお。お前……ゆうしゃ……?」

「ああ、そうだ……モンスターをこれ以上吐き出すのを辞めてもらいたくってね……邪魔なんで」


「んもぉ……。わかった……」

「え……? いいの……?」


 ヘドロ状のボスモンスターは、意外と聞き分けよくそう言った。

 まあ実際、コイツが喋りだしてくれたおかげで、モンスターの生成はいったん止まった。


「そのかわり……んもぉ。お前を食べる……!」

「やっぱりな……! そう簡単にはいかないよなぁ……!」


 俺たちの最後の戦いが始まった……!

 こいつを倒して、アルトヴェールに平和を取り戻す!

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