第9話 再襲

 夜に笛の音で目を覚ます。


 ハツがいていた。


 モエが起き出して、油の明かりをともす。


 夜に笛を吹いたらだと言おうとしが、ハツの目がしんけんだ。


だれか来たのか?」


 ハツがおれの目の前で、音がひびかないように笛をく。


 けな笛の音がひびく。


 笛の音が一回、知らない人が来た合図だ。



 なぜ分かったのかと聞きたいけれど、ハツはしゃべれない。


 いたずらなのかとも思うが、目がちがうと言っている。


 ならばハツを信じるだけだ。


 ちがったら違ったで構わない。


 かんちがいなら勘違ちがいで良いのだ。


「モエは武器を持って、屋根に上って待機。キナは、モエが屋根に登ったらハシゴを外して家の中で待機。チビたちを任せた」


「はい」


「任せて」


 屋根の上に、投石用の石となげやりの準備は整っている。


 モエがと、スリング用のひも、それにとうそうこしに差すとキナといっしょに裏口から外へ出た。


「俺は・・・ハツ、知らない人がどこにいるか、分かるか?」


 ハツは、村の入り口方向を指さした。


 モエの家に立てこもることを考えたけれど、村の中は雑草だらけで、村の中にしんにゅうされると発見が困難になる。


 ならば、確実に見つけられる村の出入り口で待ち構えよう。


「俺は村の入り口へ行く。キナが戻ってきたら、門に閂と、家の戸締まりをしっかりするように言っておいてくれ」


「ユウジ、気をつけてね」


 不安げな、ミコとアユの頭をでる。


「ハツもありがとうな」


 ハツの頭をでた後、外の様子をうかがう。


 星明かりで、外はそれなりに見える。


 くらやみに目が慣れれば、もう少し見えるようになるだろう。


 モエの家のげんかんを出て、門をくぐり、もんを閉める。


 見えるはんに人の気配が無いのをかくにんして、音を立てないように進む。


 村の出入り口に設置した門へとうちゃくしてもだれも居ない。


 耳をましても何も聞こえない。


 後からは、ハシゴを外しているような音が聞こえてくる。


 モエも屋根に上ったようだ。


 人がかくれられる大きなついたてを門の前に設置する。


 これは竹製門扉の失敗作だ。


 捨てるのがもったいなくて、足を着けて衝立にした。


 まさか使うことがあるとは思わなかったけれど、門のすぐ前に設置して、衝立の後ろにひそむ。


 夜なら俺がひそんでいることもバレないだろう。


 暗闇にも目が慣れて、かなり見えるようになった。


 衝立ののぞき穴から門を確認するが、人の気配はない。


 腰にある武器を確認。


 吹き矢となたは身につけている。


 衝立にくくりつけている、もりたけやりを外して地面に転がしておく。


 準備が整ったが、まだ人の気配はない。


 まあいい、朝まででもここで待ってみる。


 空は雲の無い満天の星。


 こんなじょうきょうでなければ、絶好の星見日よりだ。


 すこし冷たい風が、山から海に向かって吹いている。


 なごみそうになる気持ちをめて、辺りの様子をうかがうけれど、風にられる木々の音が聞こえるだけだ。


 ハツの勘違いならそれでいい。


 そちらの方が、こちらとしてはありがたい。


 ただ、キナがおそわれた前例があるのだ。


 けいかいだけはしておきたい。


 しばらくすると、遠くから話し声が聞こえ始めた。


 まだ遠い。


 しかし確実にこちらに近づいてくる。


 話し声は大きくて、声をおさえるつもりもないようだ。


 襲撃ではないのか? いや、言葉が違う。


 ごくの言葉だ。


 警戒を強める。


 たての、のぞき穴から門のおくを確認。俺の手作り、ヘボい竹製門の腰辺りには、人の頭がギリギリ入らないくらいのすきを空けてある。


 こちらから門の向こうを確認するためののぞき穴兼けんこうげき穴でもある。


 草を鉈でかき分けてやってきているようで、結構大きな音と共に、いらったような声が聞こえてくる。


 こちらからひとかげが確認できたたんうれしそうな声に代わった。


 門を発見したようだ。


 警戒度を最大まで上げて、のぞき穴に吹き矢の吹きつつねらいを定める。


 一人の男が、持っていた松明たいまつに火をともし、辺りをうかがい始めた。


 男が二人。


 松明男はえらそうに、鉈だけを手に持っている男に命令している。


 松明男が、門やさくを松明で照らし、門を軽く前後にらしたあと、鉈男に何か指示を出す。


 鉈男が門に取り付き、前後に激しく揺らしだした。


 くそ、もう少しがんじょうに作っておけば良かった。


 そんなこうかいおそく、あっという間に門がたおれる。


 たおれた門は、俺のかくれていた衝立をしょうだおしになる。


 幸い、衝立が俺の上にのしかかったおかげで、相手からかくれ通すことができた。


 それに、ようやく攻撃する心の準備が整った。


 どうにも俺のお花畑は、こちら方面にも開花しているようだ。


 攻撃のチャンスが何度もあったにもかかわらずちゅうちょした。


 もしかしたら、キナをおそったヤツがきょうぼうなだけで、こいつらは違うのではないか? などと考えてしまった。


 倒れた門をけて、俺のいる衝立ごとみつけ、気勢を上げながら村に侵入しているのを見る限り、キナを襲ったヤツと同類だ。


 音を立てないように、倒れた衝立からそうとしていたら、男の悲鳴が聞こえてきた。


 急いですと、松明が地面に落ちている。


 そのとなりで、足をさえて転げ回る松明男と、それを見てオロオロしている鉈男。


 吹き矢を構えて、鉈男をねらう。


 俺の吹き矢は鉈男に当たった。


 しかし鉈男は悲鳴を上げながら、草むらにんだ。


 しまった。


 草をっておくんだった。


 この暗闇で、草むらにまれるとどうしようもない。


 すると、モエの家からヒュッと投槍が飛んでくる。


 草むらにさったと思ったら、悲鳴が聞こえた。


 モエだ。


 すごい、俺だったら味方に当てないかとこわくて投げられない。


 なら、俺は足を押さえて転がっている松明男だ。


 転がっている竹槍を拾い、思いっきり横から頭をぶんなぐると、一発で竹が割れた。


 竹槍を投げ捨て、腰の鉈をいて、鉈の背で頭をなぐりつけると、松明男が静かになった。


 草むらから、また悲鳴が上がった。モエが攻撃したようだ。


 まだ火が消えていない松明を拾って、草むらを照らすと、足とかたに投槍がさった鉈男がいずっているのを見つけた。


 そこにまた槍が飛んできて、背中に刺さった。


 モエ、すげえ。


 鉈男はそのまま動かなくなった。



 鉈男が、草むらをいずりまわっていた、血のあとが草むらに残っていた。


 モエの投槍がそれを追って当たっている。


 投槍は全部で3本。


 一本は右足のふくらはぎ、一本は肩、最後の一本は背中。


 モエの目は、かなり良いのかもしれない。


 鉈男を、鉈でいても反応はない。


 松明で辺りを照らし、しんにゅうしゃが持っていた武器を回収後、男を調べる。


 キナの時はそこまで気が回っていなかったが、こいつら服が違う。


 今俺が着ている服と同じだ。


 俺が地獄で見た服は、この島の染め物の服ではなく、茶色のうすよごれた服だった。


 もしかして村人だったのかと、いっしゅん不安になったけれど、地獄の言葉を確かに聞いたし、この不快なにおいは地獄で散々嗅いだ。


 こいつらは、この島で服を手に入れたのだ。


 いな、他の村が襲われた可能性がある。


 鉈は俺が持っている物と形がかなり違う。


 前の男が持っていた鉈は、俺の鉈と似た形だった。


 この鉈は地獄産なのだろうか?


 鉈男を草むらから引っ張り出して松明男と並べる。


 外見的がいけんてきとくちょうは、身長が両方150 cmほど。


 鉈男はガリガリで腹も出ていて、耳はつうだ。


 松明男はせてはいるが腹は出ていない。耳がキナを殺したやつより長い。


 いっかんせいがないな。


 とりあえず村の入り口近くにある、そうに二人をんでしょうきゃく処分する。


 キナの時に苦労したので、火葬場の中には、すでにまきを準備してある。





 倒れた門をどうにかしようと思ったけれど、日中でないとからそうだ。


 簡単にたおされたけれど、短時間の足止めという役目は果たしてくれた。


 俺が躊躇したせいで、そのせっかくかせいだ時間がになったけれど。


 修理は日がのぼってやるとして、今からどうしようか。


 とりあえず、一度家にもどろう。



「モエ、終わったよ。ハシゴかけるからちょっと待ってろ」


 音量をおさえて屋根に向かって声をかけると、屋根の上からひかえめの声で返事がある。


「わかりました」


 家から戸を勢いよく開け、慌てて走ってくると、ガタガタと閂を外す音が聞こえる。


「ああ、もう、引っかかった」


 キナの苛立った声と共に、ガタンと大きな音がすると、勢いよく門が開く。


だいじょう?」


 キナがものすごく心配した顔で俺を見る。


「大丈夫だ。ただ、少し静かにな」


「まだ終わっていない?」


「分からない、まだ居るかもしれない」


 門を閉めて、キナと話しながら家の玄関へ着くと、チビたちが集まっていた。


 ミコは立っているけれど、ハツとアユはつんいだ。


「キナ、悪いがモエを下ろしてきてくれ」


「うん」


 キナは不安そうな顔のまま、裏口からはしを持って外に出た。


「お前達は大丈夫だったか?」


「あー」


 ハツがものすごくいい顔で答えた。


 きしめたいが、身を清めてからでないとさわりたくない。


 地獄の住人が、どんな病気を持っているのかも分からないのだ。


 せっかくここまで元気になったのに、また違う病気にでもかかられたら目も当てられない。


 とりあえず俺に近寄らないように言いつける。


 しかしミコとアユは不安そうだ。


 ハツだけはものすごくいい顔をしている。


「ハツがズルいの」


 アユがくちびるをとんがらせている。


「なにかあったのか?」


「えっとね、ユウジのこと分かるみたいで、あーうーさわいでたよ」


「ハツ、俺のことがわかったのか?」


「あー」


 うん、ハツはわいい。


 モエがもどってきた。


「おつかれさん。モエのおかげで助かった、本当にありがとう」


「お役に立てたのならうれしいです」


「俺がまったく役に立たなかったからな。モエは凄いな」


 一緒に戻ってきたキナもまだ不安げである。


 すぐに戻って村の出入り口を見張りたいが、この子達の不安をそのままにして行くわけはいかないようだ。


 戻ったモエとキナに神水入りのおけを用意してもらい、報告しながらげんかんさきで服体を洗い、モエに用意してもらった服に着替える。


 後は不安がっているこいつらを落ち着かせたら、門へ戻ろう。


 家の中に入って、がりがまちに集まっているチビ達の頭を撫でる。


「とりあえず、今日はハツのおがらだな」


 体を洗ったので、ハツをげてやると、ごげんで、めちゃくちゃ良いがおをしている。


 ひとしきりハツの頭をまわして、ハツを下ろし、ミコをげる。


「また行くの?」


「さっき説明しただろ?」


「ついて行っちゃダメ?」


 ハツと違って、ミコは不安そうである。


 ミコの頭をなでて、ミコを下ろし、アユを抱き上げる。


「アユも行く」


「お前もか・・・」


 キナはさっきから、俺の隣で服のすそまんでいる。


 さてどうしたものか・・・。


 本当なら、俺一人で門の前で見張っている間、この子達はモエの家に立てこもっておいてしかったのだけれど、こんな不安げなこの子達を置いていくわけにもいかない。


 不安顔のむすめ達を見て、考えを改める。


 門が無くなった今、門の前は危険だ。屋根に全員で上るのも、けいしゃがあるので危険だし、チビ達は、まだまともに歩けていない。


 条件は少し悪くなるけれど、2階のベランダから見張ることにした。


 ベランダからも屋根に登れるし、見やすくは無いけれど、一応村の出入り口も見える。


 海岸は一望できるので、海側の侵入をのがすこともない。


 それにあそこなら全員一緒に居られる。


 チビ共を任せようとしたキナが一番怯おびえていた。


 まあキナは前回殺されているからな。逆の立場なら俺も誰かに側に居てしい。




 ハツにどうやって敵がやってくるのが分かったのか聞いてみる。


 自分の鼻を指さした後、匂いをぐ仕草をした。


 なんで奴らの匂いを知っているのか聞いてみると、今度はキナを指さした。


 前回、キナが襲われた時に、奴らの匂いを覚えたようだ。


 キナの畑から、かく所までそれなりのきょがある。


 もしかして、ハツは目と耳が悪かったせいで鼻がいいのか?


 というか、俺が門に着いてから、奴らが現れるまで、かなりの時間があった。


 モエの家から、門までは100メートル近くはなれている。


 確かに風は山から村に向かって吹いていたけれど、いくらなんでもすごすぎないか?


 ハツに、他に奴らの匂いがするのか聞いてみたけれど、もう奴らの匂いを感じていないようだ。


 ハツの鼻が凄い事はなんとなく分かったけれど、ここをはなれる訳にもいかない。


 風向きが変わったら、ハツの鼻も当てにできないだろうし、何よりハツは今寝そくだ。


 体はまだ回復途ちゅうだし、何より幼いので、すいみん時間だけはちゃんと取って欲しい。


 とんを持ってきて、交代で見張りをしようと言ったけれど、不安でねむれないので、俺の側に居たいらしい。


 仕方がないので、団子状態での見張りとなった。


 奴らが二人だけで、他に仲間が居ないのなら何も問題はない。


 けれど、それを確かめる術がない。


 今は仲間がいると仮定して動く。


 それに、あの二人がこの島の服を着ていたのが問題だ。


 どこかで村を襲ったかもしれない。


 それがとなりむらで、この村を襲った奴らの仲間がいる可能性もあるのだ。


 モエはミコ、キナはアユ、俺はハツ。


 みんなでチビ達を一人ずつっこしている。


 ミコとアユはているが、俺に抱っこされているハツは起きている。


 たまに鼻をクンクンさせているので、匂いをさぐっているようだ。


 ハツも寝てくれとたのむけれど、頭を左右にって「うー」とうなる。


 途中でモエとキナもねむってしまった。


 どれくらい警戒を続けるか?


 逆の立場で考えてみたが、無意味だと気がついた。


 情報が全くないので、可能性は無限大。


 それを全てこうりょした上で、守りに入ると何もできなくなる。


 とにかく、警戒をすぐにゆるめたくはない。


 三日。


 三日間、最大警戒を続けて、次が来なければ、警戒レベルを少し落とそう。


 それに、キナが一度襲われたというのに、あまりにも無防備すぎた。


 チビ達を心配させないためでもあったけれど、身を守るために危機感を持って行動するようにした方がよさそうだ。


 色々やっておきたいことはあるけれど、仕方がない。


 朝日が顔を出し。目を覚ましたモエに見張りをたのんで、チビ達を預ける。


 「キナ、俺と一緒に畑に行くぞ。俺が見張ってる間に、今日一日分収穫頼む」


 「・・・」


 「怖いなら俺一人で行ってくる」


 「大丈夫、一緒に行く」


 俺とキナは畑に出向いて、《しゅう》かくを終わらせる。



 キナと二人で朝飯を作り、ベランダで朝食だが、景色は最高にいいのに、みなの顔が暗い。


「大変だとは思うが、今日をふくめて3日、一日中誰かが起きて見張りを続ける」


「そんなに大変なことなのですか」


「いや、正直俺にも分からない。けれど、何かがあったときにやっておけば良かったと思いたくない」


「キナもアイツら見たくない」


「3日警戒しても無駄かもしれない。けど、お前達が襲われると思うとこわいんだよ」


「あー」


 ハツが俺の方に両手を広げる。


 抱き上げてやると、真面目な顔をして、鼻をスンスンやりだした。


「ハツ、嬉しいけれど、お前は昼まで寝ていろ。皆も寝不足だろうから、昼まで寝てくれ」


 自分も起きて見張りをすると言うミコとアユを、モエとキナにきついてもらって寝てもらう。


 こんな時は、側に誰かがいたほうが安心するしね。


 ハツは俺にしがみついていたので、布をかけてそのまま寝てもらった。


 見張りと言っても、ベランダから村の入り口と海を見るだけだ。


 俺一人で見張りだが、こんな時は、眼鏡が欲しいとつくづく思う。


 皆が目を覚ましたので、お昼ご飯を食べて、見張りを交代。


 キナがチビ達と見張りをしている間、俺とモエで海に出る。


 モエが海女あま漁をやっている間は、俺が海岸を見張る。


 本当は全部お休みにして、家の中に立てこもりたいけれど、回復中のチビ達の栄養面を考えると、食事は手をきたくなかった。


 何事も無く漁を終えたので、モエの家にもどると、ハツを連れて門の修理に向かった。


 倒された門は、作りがあますぎた。


 門扉を付けると、時間もかかるし、強度が落ちるので、出入り口を完全にふうした。


 俺たちは、今のところ、この道を使うことはない。


 それまでは完全封鎖で構わないだろう。



 出入り口の封鎖を終えると、もう日が暮れそうになっていた。


 家に帰ると、モエが一人で食事の準備をしている。


 今は二階でキナが見張りをしているのだろう。


 ハツを連れて二階に上がると、アユがろうかべに手をついて歩く練習をしていた。


 ミコはたたみ部屋で足をプルプルふるわせながらも一人で歩く練習をしている。


 それを見たハツがあーあー言いながら、アユの方に手をばしている。


 ハツもやりたいらしい。


 廊下の壁に手をついて、ハツを立たせてみると、足をプルプルさせながら立っている。


 手を放しても、しゃがむことなく立ち続けているけれど、またつかまり歩きができないようだ。


 3人とも真剣な顔をしている。


 昨夜の襲撃で思うところがあるのかも知れない。


 キナはずっと村の入り口を険しい顔でにらんでいる。


 警戒中にりょうをやるかどうかをなやんだ。


 治療は時間がかかるし、全員一緒にやると、警戒力がきょくたんに落ちる。


 しかし、今はチビたちが自分の足で移動できるくらい早く回復させたい。


 それにアユがもどかしそうなのだ。


 アユの一番早い移動手段は転がりだ。



「アユだけ役立たずだ」



 くやしげなアユ。


 ハツは奴らの襲撃を察知した。


 ミコは神様と俺のはしわたしをしている。


 自分だけが役立たず。


 アユの顔を見ていると、そんなことは考えなくて良いと言えなかった。


 治療をチビ達に限定。


 皆でベランダで夕食を食べた後、モエとキナに見張りを頼んで、チビ達を連れて一階に下りる。


 治療には時間がかかる。


 最初のころに比べればマシにはなっているが、いまだ神様に体の主導権をわたすまでの時間はバラバラなのだ。


 今までの最短で体感1時間。


 最長では半日ほどかかる。


 集中したいが、外が気になって中々上くいかなかった。


 3時間程度かかってようやく治療を終わらせた。


 布団を全部二階に上げて、チビ達をかせると、モエとキナにも眠ってもらった。


 俺は、神様のおかげか、つかれはするが、昔みたいに立ったまま眠ってしまうこともない。


 地獄を逃げ出した時の経験から、3日くらいならねむらなくても行動できると思っている。


 深夜、村の入り口と海を見張っていると、起き出したハツが四つん這いでやってきた。


 俺のひざの上に自ら登る。一緒に見張りをするらしい。


 でも治療のせいかハツはうつらうつらしている。


 うん、このハツも可愛い。


 ハツが冷えないように後ろからきしめて、見張りを続けた。


 今後の事を考える。


 今まで娘達の回復、普通の暮らしを送れる事に重点を置いてきた。


 俺の第一目標も、5人を普通の娘にする事だった。


 第二目標は、娘達が安心して暮らせるようにする。


 第二目標は第一目標が達成されてからだと考えていたけれど、そうも言っていられない。


 やはり、一度、隣村に行く必要がある。


 病気の事、地獄の住人の事。


 気をむだけで、何もできない今の状況。


 隣村へ行くための準備をすぐにでも始めた方がよさそうだ。


 ただ、娘達に話すのは、アユとハツが走れるようになってからだな。


 今話をすれば、アユが自分が足を引っ張っているように感じるかもしれない。


 本当は一人で隣の村の様子を探ってきたいのが本音ではある。


 しかし、かんの全くない俺が、そうされていない雑草生しげけものみちを、道に迷わず隣村へ辿たどくというのは無理がある。


 途中でそうなんしたり、がけに落ちたりするのが目に見えるようだ。


 それに、娘達は、俺一人で行かせない。


 ぜったい一緒に行きたがる。


 ならば、隣村に行くまでに、それと気がつかれないように訓練をしよう。



 3日警戒を続けたが、次が来ることはなかった。


 警戒レベルを下げることにする。


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キセイ エンクロ @enkuro

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