第8話 チビ

 畑仕事にチビたちを連れてきた。


 ミコは歩き始めたばかりだし、アユとハツはまだ立ち上がれない。


 キナが畑仕事で鍬を持ちたがったが、手首の筋を一度切られているのだ。すぐに手首に負担をかけすぎるのも怖いので、石の撤去作業でなんとか納得してもらったけれど、チビたちも石の撤去作業をやりたいと言い出してしまったのだ。


 この前、すなはまで遊ばせて以来、ほぼ毎日外に出してはいるけれど、最近はずっと外に居たがるようになった。


 家の中より、外の方がおもしろいようなので、外に連れ出すけれど、おれたちも一応自分の仕事がある。


 さすがに海にもぐるモエに任せるわけにはいかないので、俺が畑に連れ出しているわけだ。




 こちらの畑は、俺の知っている畑とちがい、結構石がゴロゴロしている。


 畑を耕すのにはじゃだし、根菜だと石が邪魔でいびつな形になる。


 なので、なるべく石をてっきょしたい。


 キナは俺が耕した後の畑の上で、土を小さな竹かごに土を入れてふるいにかける。


 もっと大きなふるいを使えるとキナは言うが、手首にあまり負担をかけたくない。


 アユとミコは畑に直接座り込み、どろだらけになりながら、畑の石を直接手で拾って、おけの中に入れている。


 お手伝いをしているのだけれど、身長が小さいせいか、どろ遊びをしている子供にしか見えない。



 ハツは背負いヒモでくくられて俺の背中に張り付いている。


 キナがチビ二人を見るから、一人はユウジが見てと言うのだ。


 確かにチビ三人の相手をするのはからかろう。


 というわけで、俺が一人を背負っているわけだ。


 ハツは俺の背中でごげんなようで、うれしそうな声であーうー言っている。


 耕すのに邪魔ではあるが、うれしそうな声を聞いていると、降りてとも言えない。


 休憩時間になったので、背負っていたハツを下ろす。


 チビ達は休憩時間に間食かんしょくを食べさせなければならない。


 キナも間食を食べていたけれど、一回の食事量が増え、休憩時間に空腹を訴えなくなったので、今は食べていない。



 休憩の後はアユを背負う。


 アユはうるさい。


 何をやっているのか、アレは何だ、鳥がいるなど、目に入る物を全てを報告してくれるので、俺はいちいちそれに答えて、畑仕事だ。


 効率が落ちるが、はしゃいでいるアユを見ると、少しぐらいおくれてもいいかと思うのだ。




 昼飯を食べると、午後は遠距離武器の練習である。


 チビ達をふくめ、全員集まっている。


 まあ、なら、近くに居てもだいじょうだろう。


 俺はミコを背負って、吹き矢の練習だ。


 どんなじょうきょう下で、やつらがやってくるのか分からない。


 もしかしたらこんな感じでだれかを背負ってのせんとうもあり得る。


 そう思って練習するけれど、いつもより命中率が悪い。


 ミコはなるべく動かないように、俺にべったり張り付いているし、話しかけもしない。


 それでも、かなり命中率が落ちる。


 たまにはこんな練習をしておいた方がいいかもな。




 吹き矢は体の負担が少ないのでキナも参加だ。


 キナも筋がいい。


 練習の時間が長いモエにはかなわないけれど、俺よりそうだ。


 めると得意げだ。




 なげやりとスリングはさすがに危険なので、チビ達をはなれた場所に移動する。


 お目付役はキナ。


 そのうちキナにもやってもらうので、見学だけはしておくようにと言ってある。


 モエが作ったスリング紐を使った投石は、河原の丸石を使い始めて、石のどうが安定してきた。


 ただ、回転がかかるのか、たまに変な曲がり方をする。


 とにかくそんなイレギュラーを無視して、的に当てることだけに集中する。


 ただ、このスリングは、数をそろえてみんなで石を投げてけんせいする目的ではある。


 牽制するのに、まったくけんとうちがいの方向に石を投げても意味は無い。


 なので、なるべく的に当てるようには練習しているけれど、10回投げて、人間大の的に当てるのは1回あるかどうか。


 百発百中とまでは言わないけれど、せめて三割程度は当てたい。


 モエは三割り当てるけれどね・・・。



 とうそうを使った投槍なげやりは、スリングに比べ命中精度がかなり高い。


 それに100m先に設置してある人間大の的に、2割程度当てられる。


 モエは7割当てるけれどね。



 夕飯時、チビ達が自分もやりたいと盛り上がっている。


 吹き矢なら、手がまともに動けばできるので、やらせてみようと思う。


 人に向けないようにと、今のうちから言っておく。


 まあ、人に向けるために練習しているのだけれどね。



 外に出すようになってから、チビ達がねむりにつくのが早い。


 やっていることがさつばつとしすぎていて、あまりうれしい状況ではないけれど、チビ達のがおやされる。


 おかげで、治療が深夜に行われるようになった。


 治療される側は眠っていて大丈夫だけれど、ミコだけは起きていてもらわないと全員の連続治療が行えない。


 ミコには申し訳ないけれど、深夜に一度起こして、眠っている皆を治療するのだ。




 ミコの初治療が終わってから20日が経過した。


 モエがつうになった。


 お肉が付いたのだ。


 健康的ながた体型になった。


 病気になる前より、元気らしい。


 顔にもちゃんとお肉が付いて、少女の顔になったのが嬉しい。


 思考はちょっと暗めなのが心配だけれど、普段は色んな表情を見せてくれるようになった。



 キナが普通に歩けるようになった。


 といってもキナの歩き方は、なんかおかしい。


 話を聞いてみると、体が痛かったときに、痛いところをかばって歩いていたようだ。


 そのくせけないらしく、変な歩き方になっている。


 筋の治り具合が、しっかりかくにんできない以上、キナをすぐに働かせたくなかった。


 なので、普通に歩けるようなるまで練習するように言いつけておく。


 手足もかなり太くなってきているけれど、健康的に見るまで、もう少しといったところだ。


 顔のお肉ももう少しだけ付けて欲しい。


 治療前と違って、キナも明るくなった。


 ちょっと自分が嫌いのようだが、思い詰めるような素振りは見せていない。


 自分の存在意義である、畑仕事を早くしたいと言っている。




 ミコが歩いた。


 立ち上がると後は早いようだ。


 足をプルプルさせながら歩く姿は、ちょうわいい。


 プルプルする足がおかしいのか、少し歩いてはばくしょうして地面に転がっている。


 手足や顔のお肉がまだまだ足りないので、早くフクフクになってほしい。


 比較的大人しい子だが、我は強いようで、一度決めると、こちらが止めてもやり続ける。


 今はとにかく動けるようになりたいそうだ。




 アユが立った。


 歩けはしないが、立ち上がることに成功。


 手足がまだまだ細いので、普通に歩けるようになるまでもう少しかかるだろう。


 しかし食事量が異常に増えた。


 俺の次に飯を食う。


 その食いっぷりは見ていて気持ちがよい。


 飯を食うと治りが早いとミコに聞いたらしい。


 アユが一番元気で、一番気が強い。


 とにかく一番が好きなようだ。


 しかし、体が動かないせいで、年下のミコに負けているのが相当悔しいみたいだ。


 



 ハツはまだ立っては居ないが、体はアユと同じくらいのスピードで回復中。


 言葉はまだ話さない。


 しかしハツのあーはめっちゃわいいので、これがなくなると少しさびしいかもしれない。


 今までがいこつだったのでよくわからなかったけれど、お肉がつき始めて、気がついた。


 ハツはかなりの美人さんらしい。


 まだまだお肉が足りなくてこわい感じだが、お肉が付いたらきっと美人さんになる。


 性格などは良くわからないけれど、俺に一番懐いててくれているような気がしている。


 いや俺がそう思いたいだけなのかも知れない。


 ハツが笑うと本当に嬉しいし、ハツがあーと言えば頭をなで回したくなる。



☆☆☆



 畑を一面耕すだけなら終わったけれど、石の選別作業に時間を取られている。


 チビ達も手伝ってくれているが、石の量が多いのだ。


 畑の中にすわんで、チビ達様に新たに作った小さなふるいで石を選別中だ。


 泥だらけで楽しそにお手伝いをしてくれている。


 これが終わって、腐葉土を混ぜ込めば、キナに畑を渡せるのだ。




 まき拾いが日課に加わった。


 今までと違い、お昼にも食事を作るようになり、風呂のお湯も沸かすようになった。


 薪はもう少し残っているけれど、非常用に少しは残しておきたい。


 防風林には強風で折れた枝が散乱しているし、村にりんせつする森の中も同じようなものだ。


 キナといっしょに薪拾いをやる。



 たけづつで温水を作る方法も、色々工ふうらしている。


 やはり毎日、に入りたいのだ。


 チビ達を外に出すようになってからは、毎日泥だらけなのもある。


 しかし、竹に水を入れておいておくだけでは、ぬるま湯しかできない。


 まあそれをかまに入れてかせば短時間で沸かせるから全く効果がないわけではない。


 竹をどうやって真っ黒にるかを考えよう。



 新型双すごろくを投入した。


 サイコロ二個でやる機能が追加された。


 まあ足し算をこれで覚えてくれればいい。



 最近は神様に感謝している。


 あんなにガリガリだったのに、みな人間になってきた。


 このむすめ達がフクフクになってくれると嬉しい。



 自分の変化にもおどろいている。


 俺は無口なのだ。


 頭の中では色々喋しゃべっては居るが、口に出すことは少ない。


 こんなにやる気のある人間でもない。


 頭の中であれこれ考えはするが、実行に移す事はあまりない。


 昔はこんきょの無い自信にあふれていたけれど、昔の失敗以来、自分に自信がないのだ。


 それなのに、今は鼻歌を歌いながら作業をやっている。


 変化の原因を考えてみる。


 神様が俺の脳内に変なしるを出しているのか? 。


 自分の要因的には娘達のがおに答えたい。


 笑顔を見るととにかく嬉しいのだ。


 笑顔を見ると脳内のお花畑に花がく。


 イメージするならば、神様が俺の脳内にあやしいし汁をぶんぴつし、灰色ののうさいぼうがバラ色になっている。


 娘達が笑うたびに脳内お花畑が開花を始め、今では満開状態と言ったところだ。


 つか、かのじょ達の顔がかぶと鼻歌が勝手に出てくる。


 しかしかれてばかりも居られない。


 あえて今まで考えないようにしてきた事を、考える必要が出てきた。


 しかしもう少し先だ。


 今はまだ動きようがない。


 この島がどうなっているのか。


 病気はこの村だけの話で、他の村は大丈夫なのか。それとも島中にこの病気がまんえんしているのか。


 動けない皆に話して不安をあおる必要はない。


 今は外敵がいてきしんにゅうに備えて、娘達の回復を最優先とする。


 村の出入り口は一つ。


 なので出入り口には、竹で作った俺の手作り簡易柵さくと、門を取り付けた。


 少しでも時間がかせげるといいなと願いをめて。


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