第7話 日常

 俺がこの島で目覚めて、15日が経過した。


 アユをりょうした日から、毎日全員の治療を行った。


 治療を行うのは、日が落ちてからだ。


 なんせ、神様とつながるのに時間がかかる。


 モエなど、朝早く起きるというのに、治療が終わるまでちゃんと起きている。


 もう少し治療スピードを上げたいけれど、今のところ体感で、三時間程度の時間を必要としている。


 なんせ、時計などないのだ。


 一日が24時間かどうかもわかっていない。


 ただ、おれ自身があまりかんを感じていないので、そうちがわないように思う。


 治療を毎日やるようになって、かのじょたちがおが増えた。


 体のほうもちがいなく回復してきている。


 ゆっくりとではあるけれど、あんな末期の状態から、ちゃんと回復していてきているのだ。


 回復を優先するために、食事の回数を増やした。


 本来の食事は、朝夕2回だったけれど、チビ達の食事を一日おおむね6食にしてある。


 病気のせいで胃が小さいのか、一度の食事量が少ないのだ。


 ミコ経由で神様にたずねたところ、食欲のおもむくまま食べた方がいいそうなので、おなかがすいたら、その都度食べる感じにしてある。


 チビ達はまだたままではあるけれど、俺が来たころに比べるとよく食べている。


 それでもそだざかりなのに、こんなにちいさくてガリガリなのが悲しい。


 あまりの小ささに、チビ達のねんれいを6さいより下だと思っていたけれど、もっと上の年齢だった。


 だって、身長は1メートル程度しかないのだ。


 1メートルって言ったら、4歳児くらいだったはずだ。


 ミコが一番年下で、たぶん7歳。


 たぶんと言っているのは、誕生日が分からないからである。


 それに、年に一度、誕生日を祝うような行事もない。


 誕生日が分かっているのは、物心つくまで両親が生きていたモエだけで、他は自分が生まれた年すら分からないでいる。


 本人の申告と、モエとキナの記憶を元に算出されたのが、チビ達の年齢だ。


 ハツがたぶん9歳で、アユがたぶん10歳なのだが、チビ達の身長は全員ほぼいっしょ


 キナはたぶん12歳だそうだ。


 キナでさえ身長が110センチメートル程度。


 14歳のモエでさえ120センチメートル程度である。


 モエは、背比べとしょうして、家の柱に記録を残し始めた。


 現在まともに立てるのはモエだけだ。


 他の子も立てるようになったら記録を残したい。


 記録のおかげでモエの身長が間違いなく伸びているのが確認された。


 五日で1センチは身長がびている。


 治療と、食事の効果は確かにあるのだ。


 彼女達が小さい原因は、病気で内臓がまともに仕事をしていなかったのと、寄生虫が栄養のほとんどをうばっていたのではないかと思っている。


 まあ、元々のサイズが小さいというのもあるけれど。

 モエの親が使っていたというとんのサイズから考えると、大人の身長で150センチメートル程度のようだ。


 俺の身長は17センチメートル丁度なので、俺の身長からモエの身長を割り出した。


 現在の正確なモエの身長は123センチメートルである。


 体が治るにつれ、食事量も増えてきている。


 お腹をだれかがかせる度に、食事を作っていたのでは、モエの負担が大きすぎるので、朝と昼の晩の三回多めに作っておいて、お腹がすいたら食べられるようにしてある。


 チビ達は動けないので、チビ達の世話をキナに任せて、俺がキナの後をいで畑を担当している。


 それから、遊びに重点を置いた。


 だって、竹細工で色々作った時のモエのように、みな、目をキラキラとかがやかせるのだ。


 本当に、さいな遊びで目をキラキラさせるのだ。


 なんか、ものすごいじゅんすいなモノに囲まれているのだ。


 体の動かない皆のために、ころがったままでも楽しめるように、おとぎ話をはじめた。


 まあ、俺のおとぎ話は色々混じっている。


 話を聞いたのが昔すぎて、内容をしっかり覚えていない。


「王子様ってユウジ?」


「俺が王子様なわけがないだろう?」


「だって、ミコたちしあわせだよ?」


「ああ、『しあわせに暮らしましたとさ』ね」


 と言った具合で、何を話しても目をキラキラさせている。


 おとぎ話のネタが早々にきて、今は日本の話が人気だ。


 俺がどんな暮らしをしていたかにきょうしんしんなのだ。


 モエは皆の食事を作っているせいか、水道とガスコンロの話に夢中だ。


 キナはかく所で病人の世話ばかりしていたせいか、水洗トイレに興味があるらしい。


 ミコは、お気に入りのおに興味があるらしい。


 アユは俺が昔読んだまんのお話に夢中だ。


 ハツはよく分からないけれど、何の話をしていてもニコニコしている。



 一人一人のじょうきょうだと、モエがパワフルになった。


 元々のスペックがもどったようで、海にもぐれる時間が長くなって、ぎょかくりょうが増えている。


 その他、そうせんたく等も積極的にこなしてくれている。


 モエがいなかったら、今のぜいたくな暮らしは不可能だった。


 外見は、日本にいてもおかしくない細めのむすめとなった。


 まあ身長は低いけれどね。


 光を失っていたひとみも、治療後、完全に光をもどした。


 表情が豊かになって、見ていてきない。




 キナは、おどろいたことに歩き出した。


 切られた筋が繋がるまでかなりの時間が必要だと思っていたら、治療後1週間ほどで手が動くようになったのだ。


 手の感覚もちゃんとあるそうだ。


 そのあと歩きたいというので、補助しながら立ち上がらせてみるとつうに立ち上がって歩いたのだ。


 痛みも、りもないらしい。


 まあ、無理させるつもりはないので、リハビリとして歩くことしか許していない。


 キナは畑仕事にもどりたいらしく、文句を言ってくるが、今はまだ安静にしてしい。


 せめてもう少しお肉が付くまではね。


 ガリガリにせたうでと足は見ていてこわい。


 しかし、お腹はみ、食事量が倍以上に増えている。


 これだけ食べられれば、肉付きもぐによくなるだろう。




 ミコは立ち上がった。


 まだ歩けはしないが、足をぷるぷるふるわせながら立ち上がることに成功した。


 もう、なんかこう、なんかこう、なんかこう、胸の奥から熱いモノがこみ上げてきてなみだしてしまった。


 ミコはとにかくお手伝いがしたいらしい。


 そんなことは考えず、よく食べて、よくねむって、そして遊んで欲しいのだけれどね。


 まだまだ手足が細いけれど、お腹が完全に引っ込み、食事量が格段に増えたので、近いうちに歩くかもしれない。



 ハツのお腹がんだ。


 食事量も増えて、表情が豊かになった。


 そのせいか、結構、わいく見えてきた。


 ハツが「あー」と言って笑う姿はもう、抱きついて撫で回したいくらいにわいい。


 言葉はまだ喋れないけれど、こちらの言葉はちゃんと理解している。


 手足はまだ細く、手足を動かすのにも苦労しているようだ。




 アユも、ハツと同じく、自由に手足を動かすのに、もう少しかかりそうである。


 どうもアユが一番動きたがっているようだ。


 しかし、まだ立ち上がるのは先の話だ。


 とにかく外に連れ出して欲しいらしく、おんぶしては、外を連れ歩いている。



 住居は、隔離所から、モエの家にした。


 ミコの言葉の通り、神様の薬を入れた水を使って、モエの家を掃除した。


 神様のお薬は、みずがめ一滴てき垂らすと、飲み水として使えるようになり、掃除洗濯にも使えるというすぐれものだ。


 毎日の治療で、ミコが神様にお願いして作ってもらっている。


 ただ、この水を使うと掃除が終わらない。


 ある程度妥きょうしないと、ぞうきんがいつまでも真っ黒に染まる。


 洗濯も同じで、一度洗濯した服や布団からも大量の虫のがいが出てきた。


 この水をかわやにまくと、厠のにおいも消え、虫が居なくなる。


 畑に水をまいたら、虫がほとんど消えた。


 人間様にとってはばんのうやくなのだ。


 モエの家は広くて掃除が大変だった。


 たたみ十二じゅうにじょうの部屋が五部屋。


 畳八畳の部屋が三部屋あるのだ。


 その他、やたらと広いえんがわろう、そして土間。


 がいへきと家の間の庭掃除にも時間がかかった。


 どこのしきだよと言いたくなる。


 モエの家は、全員に好評で、特にチビ達が大喜びしている。


 それにモエの家に移ってから、せきや鼻水がいっさい出ないようになったらしい。


 神様のお薬入りの水で掃除したおかげだろう。


 あまりの便利さに、その水を神の水『神水しんすい』と命名した。




 モエの負担を少しでも減らすため、洗濯機を制作した。


 神水を使うのが、前提の作りになっている。


 と言っても、つけもの用のおけに、洗濯物を傷つけないように加工した棒をんで回すだけだ。


 一度に洗濯できるのは、6人分の服で、あまり大量の洗濯物を洗えないけれど、モエがものすごく喜んだ。


 洗濯は時間はかかるし、力仕事だ。


 手を真っ赤にして、洗濯物をしているモエが見ていられなくて作ってしまった。




 モエの家のぼうぎょを固めるために、くずれている土塀の補修をする。


 せっかく、防衛に適した家なのだ。土塀の穴をふさいでしまえば、そう簡単にはしんにゅうできなくなる。


 まあ土塀の補修方法など知らないので、竹の骨組みに土を貼り付けただけなので、すぐに壊れると思うけれど、無いよりマシだろう。


 見張りとして屋根の上に登れるように、ハシゴも付けた。


 村の中で一番高い建物であるモエの家。その二階部分の屋根に上れば、村全体がわたせる。


 しんにゅうしゃがいた場合、これで早期発見が可能になる。


 ただ、見張りについては、目が悪い俺が役立たずだ。


 モエが一番忙いそがしいのに、現在見張りができるのはモエだけだ。


 キナがおそわれて以来、何も起こってはいないけれど、流れ着いたやつが、いつきばくかもわからない。


 前にモエにたのんでおいた、スリングのひもも、長さちがいで6本出来上がっている。


 備えあればい無しと言うことで、短い時間だけれど、モエと二人で、と、スリング、とうそうの練習もしている。


 キナも参加したがっているが、まだ許可を出していない。


 せめて、もう少しお肉がついてからにしたい。




 今後について、少しだけ考えている。


 娘達を見る限り、神様の力を信用して良いと思っている。


 最初はさんくさいと思っていたけれど、娘達が回復していく姿を見せられると信じないわけにはいかない。


 治療は俺の精神的負担がかなり大きい。


 娘達が死にそうな時には、俺の精神的負担などこうりょする必要も無かったけれど、命の危険がない今は、結構しんどい。


 本気でしたくなるまで、自分をめる必要があるからだ。


 まあ、その精神的ストレスは娘達の笑顔で回復できるのだけれど、今後の事を考えると、もう少し他の方法がないか考える必要がある。


 現在の目標は、全員普通の暮らしが出来る事。


 このペースで回復すれば、キナが楽しみにしている畑の種まきの時期には、キナに働く許可を出せるとおもう。


 食料だけなら、ねんまいやモエがってくる魚貝でなんとかなるけれど、栄養面を考えると野菜はひっだ。


 特に、育ち盛りの娘達ばかりである。


 栄養素についてくわしくはないけれど、色々な食材を食べた方が良い事くらいは知っている。


 俺が流れ着く前にくなったという男が管理していた畑がある。


 まあ、1年以上は手を入れていないらしいので、土もかたくなっている。


 くわで耕すのになれていないので、耕すのに苦労しているが、皆が回復終わる頃には終わる予定である。


 慣れない鍬を振り回していると手の皮がむけるが、神様のおかげか、痛みは最初だけで、その後は痛みがなくなるのがありがたい。


 治りも早いし、手の皮に厚みも出てきた。



 服や布団、布類は、村中の服を集めてモエのとなりの家に集めてある。


 必要なときは、隣の家で必要な物を探して使うわけだ。


 モエは神水で、全てを洗濯したがっているけれど、今は時間が足りていない。


 下着に関しては元々無いようである。


 娘達が、から人間に変化している今、俺にも、娘達にも切実に下着が欲しい。


 今まで外見がひどかったから問題なかったけれど、モエなど、としごろの娘に見えてきたし、キナも気軽にきつける外見ではなくなってきた。


 女の子だと意識していなかったので、俺も簡単にはだかになれていたが、さすがに今のモエやキナの前だとちゅうちょする。


 まあ、かんじんのモエとキナがとんちゃくなので困っている。


 なので切実に下着が欲しいのだ。




 とにかく、全員回復するまでは、現状げんじょうである。


 それに、俺がもう少しこの生活を続けていたい。


 彼女達の笑顔を見るだけで、幸せな気分になれる。


「ユウジ、畑を見てきてもいい?」


「キナさん、昨日そう言って、畑仕事を始めていましたよね? ダメです、散歩は許可しますが畑を見るのは禁止です」

 

「え~、だいじょうだよ。見るだけ、見るだけだから」


「いやいや、キナが見るだけで終わるはずないじゃん。ダメ、まだ安静。治るのがおそくなる方がいやだろう? そんなんじゃ種まきの時に許可を出さないぞ」


「う~、わかった、散歩だけにする」



 今まで、心に病をかかえた者や、ニート対策をかじった経験はあるけれど、まさか働きたい人をおさえる立場になるとは想像もしていなかった。


 昔の俺は、居場所がないとおもんでいる子や、本当に居場所がない少女達のために、気軽にめる場所として部屋を開放していた。


 住み着いた子達を、どうやって社会復帰させるかに頭をなやませていた時期がある。


 まあ少女達も色々で、今の状況をすためにひたすら勉強にはげむ子も居たけれど、それは本当に少数で、大体は何もしない。


 飯の作り方すら知らない子達に、飯を作り、食わせ、社会復帰の前段階、つまり、心のケアに全力をくしてきたおくはあるが、基本この手の子達は自分では動かない。


 言葉は通じるけれど、会話が成立しない子もめずらしくなかった。


 飯の作り方を教えたとしても、本当に飯すら作らないのだ。


 まあ、そんな子がやる気になったら、それはそれでちがう問題を発生させるのだけれどね。


 しかも、だいたいろくでもない方向で。


 しかし、ここの娘達ときたら、すきを見て働こうとするので、これはこれで大変だ。


 本当なら、モエ達も精神をんでいてもおかしくないけれど、そんな兆候が見えない。


 治療前のモエやキナは間違いなく精神も病んでいた。


 しかし、治療後はその兆候が消えている。


 神様の治療というやつは、精神にも効果があるらしい。


 というか、体を治すと言うことは、ホルモンバランスや脳内の色々なしるも正常化するのかもしれない。


 治療後の幸福感についても、やくではないだろうかと心配していたけれど、精神は正常化しているし、体も治っている。


 俺に冷たかったキナは、精神的不安と、体の不調からだったようで、一番印象が変わった。


 実際の所、精神を病んだ子を社会復帰させるのは、かなりのにんたいと、長い時間、それにぼうだいな手間もかかるのだ。


 かくはしていたけれど、神様の治療は本当に神様の治療としか言い様がなく、体と同時に精神までも正常化させている。


 あのしかめっつらをしていたキナが、コロコロと表情を変える可愛い娘になったのも、神様のおかげだろう。


「よろしい、それとチビ達のすごろくを手伝ってやってくれ、数字を覚えさせろ」


「わかった、散歩が終わったら、チビ達と双六をやる」


 双六と聞いたミコとアユが喜んだ。


「やた、双六やる」


「今日は、ミコがコマ動かしたい。手が動くようになったから」


 ハツもうれしいのかニコニコだ。


「あうー」


「ハツは可愛いな~」



 こちらを見て笑うハツが可愛くて、頭をでる。



「ハツばっかりずるい、ミコも」



 つんいでやってきて、ハツの隣にすわって頭を低くするミコ



「ア・ユ・も」



 ゴロゴロ転がってアユも来る。


 まだ手もまともに動かないのに、器用に転がってくる。


 最近のアユの移動手段だ。


 慣れてきたのか、かなり高速にゴロゴロ転がれるようになった。


 何というか、この子達が最近、ねこに見えてきている。


 保護した子猫が、こちらに慣れて、元気に動き回り始めた頃によく似ている。


 特にこの四つん這いで、足にからみついてくるところなどネコみたいで可愛い。 


 なのでチビ達のあつかいが、子猫をあつかうときと心情が同じになってしまう。


 おもわずしゃがんでチビ達の頭をなで回す。


 アユが目を細めると、本当にネコみたいでカワイイ。


 ひとしきりチビ達をまわして、元気をもらったので働く。



「んじゃ、畑仕事やってくるんでチビ達を頼んだぞ、キナ」


「わかった」


「ハラヘったらなべの中食えよ」


「わかってる」



 休耕していた畑を耕し、キナ畑の雑草を取って、作物をしゅうかくしていると太陽がてっぺんに登っている。


 虫食いが神様のお薬をまいたことで少なくなった野菜を持って家に戻っていると、はまからモエが戻ってきた。



「ユウジさん、大漁です」



 貝やエビの入った手桶を持ち上げて、ってくる。



「おつかれさん、いつもありがとうな。モエがいなかったらみんなえてたな」


「ユウジさんがいなかったら、いまごろこの村には人がいなかったかも」


 満面のみだったモエの顔が、少ししずむ。


 モエは、なんでも暗い方に物事を考えがちである。


 なので、ズバリ聞いてみた。


「まだ死にたいと思うか?」


「そうですね、今は海にもぐるのも楽しいですし、家に帰るも楽しいですからそんなこと考えているひまがありません」


「そうか、みんなが動けるようになったら、もっと楽しくなるから楽しみにしとけ」


「今が幸せすぎてこわくなります。私は夢を見ていて、目が覚めたらユウジさんがいなくなってるんじゃないかって、毎朝、目が覚めて、目を開けるのが怖いです」


 イヤな気分になった。


 この台詞せりふを聞いた後は、大体ろくでもない展開になった経験しかない。


 しんあんになって、勝手にかんちがいして、勝手にヤバい方向へぱしる奴しか見たことがないからだ。


 頭開いて、こちらが考えている事をのぞかせることができたらどれだけ楽か。


 モエもそうならないように、なるべく気をつけよう。



「そうか、幸せなのか。大丈夫だ、俺はいるし夢でもないよ」



 モエの頭を撫でる。


 うれしそうに笑う彼女たちの顔がとても好きだ。



「俺はな、お前達が今まで苦労したぶん、楽しい思いをさせてやりたいんだよ、だからこれからもっと楽しくするぞ」


「はい、これ以上楽しいのは、ちょっと怖い気がしますけど」


「でだ、みんな歩けるようになったら、お祝いをしたいと思ってる」


「お祝いですか? お酒?」


「いや、酒はらない。ごうな食事をみんなで食べるんだよ」


「豪華ですか、思いつきません」


「モエが取ってきたぎょかいるいは、焼いただけでもうまいよな」


しんせんですから」


「おにぎり作って、すなはまで取りたてのぎょかいを焼いて食べるとか、豪華じゃないか?」


「やったことがありません」


「ならみんなでやろう、楽しいぞきっと」


「はい、楽しみにしてます」



 娘達が楽しいと思えることを、一つずつやっていこう。




 昼食を終わらせ、チビ達と少し戯れたら、モエと二人でスリングとなげやり、吹き矢の練習をする。


 結構離はなれた場所からでも、人体のどこか位には当てられるようになってきた。


 あとは移動する的に当てたい所だが、動く的が思いつかない。


 小動物でもりに出るか?


 いや、娘達がちゃんと動けるようになるまでは、やめておこう。


 しかし、モエは何をやらせてもいな。


 スリングは石のどうが安定しないせいで似たようなものだが、投槍と吹き矢に関しては俺より命中精度が高い。


横で吹き矢の練習をしているモエは、8割近く的に当てる。


「モエはすごいな」


「まだまだです、ねらったところから結構ズレてますから」


「いや、このきょでその精度なら十分だと思うけど」



 今の的は、俺の適当1mはばで30歩、つまりは約30mはなれている。


 ぐ矢を飛ばしても、矢は重力にひかれて狙った位置より下に行く。


 それに野外で練習をしているのだ。


 風がいているにも関わらず、ちゃんと的に当てている。



「せめて3回に一回くらいは真ん中に当てたいです」



 こぶしにぎってふんぬーって感じで力説するモエは非常に可愛い。



りょうかい。なら、一度持ち方変えてみようか」


「私の持ち方、変ですか? 」


「変ではないけれど、吹き筒がブレにくい持ち方をやってみよう」


「そんな持ち方があるんですか、是非教えてください」


 モエの目がきらめきだした。


 俺が知っているのは、吹き矢の持ち方ではなく、カメラの持ち方なのだけれど、ブレを減らすのは同じ理屈のはずだ。


「そうだ、口元のたけづつ持ってる手、ぐっとにぎり混むんじゃ無くて、親指の上にせる感じで、他の指はえるだけにしてみろ」


「こうですか」


「そうそう、でわきめてひじを体にピッタリくっつける」


「はい」


「左手も脇締めて、肘を体にくっつけて、でつつさきに手を添える感じ」


「なんだかきゅうくつです」


「だろうな。けれど、それで何度か試してみろ」


「ハイ」


「あとは息をむ時に顔が前に出ている、顔が動かないように意識しながらやってみろ」


「ハイ」



 俺も同じように練習してみるが、本人が言ったくせにくいかない。


 しかし、モエは命中精度が上がってきている。



すごいです、真ん中に当たるようになりました」



 満面の笑みで報告してくるモエを見ていると、少しだけ胸の奥がチクリと痛む。

 

 競技やスポーツの練習ではなく、人を殺すための練習だからだ。


 だが、この子達をキナの様な目に遭わせるわけにはいかない。



「本当に凄いな」


「何で当たるようになったのですか?」


「まあ口で言うより見た方が早いかな、俺が構えるからつつをよく見て」


「はい」


「これが、前の持ち方な」


「けっこうユラユラれてますね」


「これでも動かないようにしてるつもりだけどね、でこっちがさっき教えた構えだ」


「まだ揺れてますけど、さっきより揺れが小さいような」


「この揺れがねらいがはずれる原因だ、ちょっと待ってろ、さんきゃく作る」



 竹細工用に切っておいた、細い1m程度の竹を三本括くくって三脚を作る。


 モエの身長に合わせて、高さ調整してから、一度見本を見せる。



「モエ、俺がやったみたいに、左手の代わりに三脚を使ってやってみて」



 モエが目をキラキラさせながら、三脚の上にき筒をせて狙いを定める。



「凄いです、狙ったとおりに当たります」


「それはモエの腕が良いのもあるんだけど、筒の揺れが小さくなったせいでもある」


「狙いが逸れるのは、私が動いてるからなんですね」


「そうだ、特に息を吸ったりいたりすると体が動く。吹き筒に息を吹き込むと、どうしても体は動くんだよ」


「なるほど、わかりました、それを意識しながら練習すれば良いんですね」


「モエの場合は、狙いはあってるみたいだから、そうなるな」


「わかりました」



 三脚が気に入ったようで、三脚を使って何度か練習してから、自分の手だけで練習してと、自分にダメ出ししながら練習している。


 しかし、くつがわかっている俺が、全然上達しないのは何でだろう。





 吹き矢練習の後は、チビ達を連れて散歩である。


 ずっと家の中と言うのもわいそうだしね。


 ミコはかたぐるまで、大はしゃぎしている。


「ユウジ、高い、すごい、おもしろい」


 ハツはっこだ。あーうー言いながらキョロキョロしている。


 アユはモエに抱っこされ、動き回ったせいで地面に落ちた。



「アユ、お願いだからジッとしてて」


「ごめんなさい」


「怪我してない? 痛いところは? 」


「お尻痛いけど、怪我はしてない」



 全員で砂浜まで行くと、チビ達を砂浜の上に開放してやる。


 ながめもいいし、ここの砂は本当に細やかでさわごこがよい。


 さっそくアユが砂まみれになりながら、ゴロゴロ転がりまくってキャッキャとはしゃいでいる。



 ミコは砂の上で一人で立ち上がると、一歩踏して転んだ。


 まだ歩けないようだ。


 再び立ち上がったミコの手を、両側からモエとキナが支える。


 ミコは砂の上を歩くのが面白いのか、モエとキナに両手を支えられて、足を砂にめながらヨタヨタ歩き出した。



 ハツはすわんで山を作り始めた。


 その山を見て、しょうぼうたおしがやりたくなった。


 ハツの対面に座って、ハツが作った山の上に棒を立てると、ハツが泣きそうになった。


「ハツ、ごめん、一緒に遊ぼうと思っただけだ。山を作りたかったのか?」


「あー」


「よし、俺と一緒に大きな山を作るか?」


「うー」


「一人でやるのか?」


「あー」


 そう言って、山の上に立てた棒をくと、ペイッと投げ捨てられた。


 ハツにられた。


 つ、つらい。


 体育たいいくすわりで、れいな海をながめていたら、背中にアユがのぼってきた。


 本当にネコみたいなヤツだ。


 俺のかたあごを載せて、一緒に海を眺めている。


 いつものアユとちがって静かだ。


 これってもしかして、なぐさめられているのか??


 ミコはモエとキナに手を引かれて、なみぎわを歩いていた。


 波に足を取られそうになると、モエとキナが引っ張り上げている。


 夕日に照らされた三人をそのままジッとながめる。


 アユも俺にくっ付いたまま、3人を眺めていた。


「アユは大きくなったら、何をやりたい?」


「わかんない」


「じゃあ、走れるようになったら何がしたい?」


「ユウジの手伝い」


「そっか、それは嬉しいけど、遊びたいとか、畑仕事とか、モエと海とかないのか?」


「ユウジと一緒がいい」


 ハツに振られた後だと、アユの言葉がみる。


 アユを抱っこして、ひざの上にすわらせる。


 後ろからアユをきしめて、アユの頭に顎を載せる。


「ユウジ痛い」


「ゴメンな」


 アユの頭から顎を退かして、二人で海を眺める。


「あー」


 かえると、ハツが砂で作った山が見える。


「どうした」


「あー」


 自分の作った砂山で、足がまって動けなくなったようだ。


 困り顔のハツの元へアユをかかえて行くと、両手をこちらに向けたので、アユをおろして引っ張り上げる。


 くずれた山からハツの足が出てきた。


「うー」


 ハツは崩れた山を見て悲しそうにしている。


「三人で作るか?」


「あー」


 俺が砂を集めると、アユとハツがペタペタと山がくずれないようにたたいているが、砂がサラサラすぎてすぐにくずる。


「うー」


 海女あま小屋から桶をとってきて、海で海水をみ、砂山に海水をかけてやる。


 先ほどより、くずれにくくなった砂を集めてせっせと高い山を作り始めた。


「ユウジさん、そろそろ夕ごはんの支度を」


 モエがやってきたけれど、ハツとアユは山を作るのに夢中だ。


「夕ご飯は遅くなるけど、もう少しここにいないか?」


 モエはチビ三人の顔から、まだ遊び足りない事をさとったようだ。


「では、私だけ先に戻って・・・」


「いい、今日は皆で一緒にいよう、一緒に星が出るまで」


「わかりました」


 キナとミコがこちらにやってくると、ハツとアユと一緒に山を作り始める。


 俺とモエはそんな4人を見ながら、しずんでいく太陽をながめた。


 色々ありすぎて、俺も色々焦あせりすぎていたようだ。


 たまにはこんなにのんびりした日があっていい。


 太陽が沈んで、辺りが暗くなり始めても、チビ達はせっせと山を作っている。


 キナは海から海水をんでは、かわいた砂に水をふくませている。


 空には一番星がすぐに顔を出した。


 その後はあっという間に数々の星が顔を出していく。


 その頃になるとさすがに暗いのか、山を作るのを止めて、チビ達がこちらにやってきた。


「お腹すいた」


「あー」


「なら、皆で帰ってご飯を作ろう」


 モエの家に帰ると、砂だらけの娘達。


 外に置いていた、水を満たした竹筒を回収してきて、風呂桶に入れる。


 太陽熱で暖めているのだが、黒くるなり、何かふうしないと温度が上がりそうにない。


 それでも海水より温かいので、モエが食事を作っている間に、チビ達を洗ってやる。


 しかしチビ達は、あそつかれたようで、桶の中でだつりょくしている。


 風呂から上げてげた頃には船をこぎ始めた。


 なんとか夕食を食べさせると、電池が切れたように3人とも動かなくなった。


 3人を布団に入れ、がおを眺める。


 はやり、たまには外に出して遊ばせてあげた方が良さそうだ。


 歩けるようになるまではと思っていたけれど、これからも外に連れ出してやろう。

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