第7話 日常
俺がこの島で目覚めて、15日が経過した。
アユを
治療を行うのは、日が落ちてからだ。
なんせ、神様と
モエなど、朝早く起きるというのに、治療が終わるまでちゃんと起きている。
もう少し治療スピードを上げたいけれど、今のところ体感で、三時間程度の時間を必要としている。
なんせ、時計などないのだ。
一日が24時間かどうかもわかっていない。
ただ、
治療を毎日やるようになって、
体のほうも
ゆっくりとではあるけれど、あんな末期の状態から、ちゃんと回復していてきているのだ。
回復を優先するために、食事の回数を増やした。
本来の食事は、朝夕2回だったけれど、チビ達の食事を一日おおむね6食にしてある。
病気のせいで胃が小さいのか、一度の食事量が少ないのだ。
ミコ経由で神様に
チビ達はまだ
それでも
あまりの小ささに、チビ達の
だって、身長は1メートル程度しかないのだ。
1メートルって言ったら、4歳児くらいだったはずだ。
ミコが一番年下で、たぶん7歳。
たぶんと言っているのは、誕生日が分からないからである。
それに、年に一度、誕生日を祝うような行事もない。
誕生日が分かっているのは、物心つくまで両親が生きていたモエだけで、他は自分が生まれた年すら分からないでいる。
本人の申告と、モエとキナの記憶を元に算出されたのが、チビ達の年齢だ。
ハツがたぶん9歳で、アユがたぶん10歳なのだが、チビ達の身長は全員ほぼ
キナはたぶん12歳だそうだ。
キナでさえ身長が110センチメートル程度。
14歳のモエでさえ120センチメートル程度である。
モエは、背比べと
現在まともに立てるのはモエだけだ。
他の子も立てるようになったら記録を残したい。
記録のおかげでモエの身長が間違いなく伸びているのが確認された。
五日で1センチは身長が
治療と、食事の効果は確かにあるのだ。
彼女達が小さい原因は、病気で内臓がまともに仕事をしていなかったのと、寄生虫が栄養の
まあ、元々のサイズが小さいというのもあるけれど。
モエの親が使っていたという
俺の身長は17センチメートル丁度なので、俺の身長からモエの身長を割り出した。
現在の正確なモエの身長は123センチメートルである。
体が治るにつれ、食事量も増えてきている。
お腹をだれかが
チビ達は動けないので、チビ達の世話をキナに任せて、俺がキナの後を
それから、遊びに重点を置いた。
だって、竹細工で色々作った時のモエのように、
本当に、
なんか、ものすごい
体の動かない皆のために、
まあ、俺のおとぎ話は色々混じっている。
話を聞いたのが昔すぎて、内容をしっかり覚えていない。
「王子様ってユウジ?」
「俺が王子様なわけがないだろう?」
「だって、ミコたちしあわせだよ?」
「ああ、『しあわせに暮らしましたとさ』ね」
と言った具合で、何を話しても目をキラキラさせている。
おとぎ話のネタが早々に
俺がどんな暮らしをしていたかに
モエは皆の食事を作っているせいか、水道とガスコンロの話に夢中だ。
キナは
ミコは、お気に入りのお
アユは俺が昔読んだ
ハツはよく分からないけれど、何の話をしていてもニコニコしている。
一人一人の
元々のスペックが
その他、
モエがいなかったら、今の
外見は、日本にいてもおかしくない細めの
まあ身長は低いけれどね。
光を失っていた
表情が豊かになって、見ていて
キナは、
切られた筋が繋がるまでかなりの時間が必要だと思っていたら、治療後1週間ほどで手が動くようになったのだ。
手の感覚もちゃんとあるそうだ。
そのあと歩きたいというので、補助しながら立ち上がらせてみると
痛みも、
まあ、無理させるつもりはないので、リハビリとして歩くことしか許していない。
キナは畑仕事に
せめてもう少しお肉が付くまではね。
ガリガリに
しかし、お腹は
これだけ食べられれば、肉付きも
ミコは立ち上がった。
まだ歩けはしないが、足をぷるぷる
もう、なんかこう、なんかこう、なんかこう、胸の奥から熱いモノがこみ上げてきて
ミコはとにかくお手伝いがしたいらしい。
そんなことは考えず、よく食べて、よく
まだまだ手足が細いけれど、お腹が完全に引っ込み、食事量が格段に増えたので、近いうちに歩くかもしれない。
ハツのお腹が
食事量も増えて、表情が豊かになった。
そのせいか、結構、
ハツが「あー」と言って笑う姿はもう、抱きついて撫で回したいくらいに
言葉はまだ喋れないけれど、こちらの言葉はちゃんと理解している。
手足はまだ細く、手足を動かすのにも苦労しているようだ。
アユも、ハツと同じく、自由に手足を動かすのに、もう少しかかりそうである。
どうもアユが一番動きたがっているようだ。
しかし、まだ立ち上がるのは先の話だ。
とにかく外に連れ出して欲しいらしく、おんぶしては、外を連れ歩いている。
住居は、隔離所から、モエの家に
ミコの言葉の通り、神様の薬を入れた水を使って、モエの家を掃除した。
神様のお薬は、
毎日の治療で、ミコが神様にお願いして作ってもらっている。
ただ、この水を使うと掃除が終わらない。
ある
洗濯も同じで、一度洗濯した服や布団からも大量の虫の
この水を
畑に水をまいたら、虫がほとんど消えた。
人間様にとっては
モエの家は広くて掃除が大変だった。
畳八畳の部屋が三部屋あるのだ。
その他、やたらと広い
どこの
モエの家は、全員に好評で、特にチビ達が大喜びしている。
それにモエの家に移ってから、
神様のお薬入りの水で掃除したおかげだろう。
あまりの便利さに、その水を神の水『
モエの負担を少しでも減らすため、洗濯機を制作した。
神水を使うのが、前提の作りになっている。
と言っても、
一度に洗濯できるのは、6人分の服で、あまり大量の洗濯物を洗えないけれど、モエがものすごく喜んだ。
洗濯は時間はかかるし、力仕事だ。
手を真っ赤にして、洗濯物をしているモエが見ていられなくて作ってしまった。
モエの家の
せっかく、防衛に適した家なのだ。土塀の穴を
まあ土塀の補修方法など知らないので、竹の骨組みに土を貼り付けただけなので、すぐに壊れると思うけれど、無いよりマシだろう。
見張りとして屋根の上に登れるように、ハシゴも付けた。
村の中で一番高い建物であるモエの家。その二階部分の屋根に上れば、村全体が
ただ、見張りについては、目が悪い俺が役立たずだ。
モエが
キナが
前にモエに
備えあれば
キナも参加したがっているが、まだ許可を出していない。
せめて、もう少しお肉がついてからにしたい。
今後について、少しだけ考えている。
娘達を見る限り、神様の力を信用して良いと思っている。
最初は
治療は俺の精神的負担がかなり大きい。
娘達が死にそうな時には、俺の精神的負担など
本気で
まあ、その精神的ストレスは娘達の笑顔で回復できるのだけれど、今後の事を考えると、もう少し他の方法がないか考える必要がある。
現在の目標は、全員普通の暮らしが出来る事。
このペースで回復すれば、キナが楽しみにしている畑の種まきの時期には、キナに働く許可を出せるとおもう。
食料だけなら、
特に、育ち盛りの娘達ばかりである。
栄養素について
俺が流れ着く前に
まあ、1年以上は手を入れていないらしいので、土も
慣れない鍬を振り回していると手の皮がむけるが、神様のおかげか、痛みは最初だけで、その後は痛みがなくなるのがありがたい。
治りも早いし、手の皮に厚みも出てきた。
服や布団、布類は、村中の服を集めてモエの
必要なときは、隣の家で必要な物を探して使うわけだ。
モエは神水で、全てを洗濯したがっているけれど、今は時間が足りていない。
下着に関しては元々無いようである。
娘達が、
今まで外見が
女の子だと意識していなかったので、俺も簡単に
まあ、
なので切実に下着が欲しいのだ。
とにかく、全員回復するまでは、
それに、俺がもう少しこの生活を続けていたい。
彼女達の笑顔を見るだけで、幸せな気分になれる。
「ユウジ、畑を見てきてもいい?」
「キナさん、昨日そう言って、畑仕事を始めていましたよね? ダメです、散歩は許可しますが畑を見るのは禁止です」
「え~、
「いやいや、キナが見るだけで終わるはずないじゃん。ダメ、まだ安静。治るのが
「う~、わかった、散歩だけにする」
今まで、心に病を
昔の俺は、居場所がないと
住み着いた子達を、どうやって社会復帰させるかに頭を
まあ少女達も色々で、今の状況を
飯の作り方すら知らない子達に、飯を作り、食わせ、社会復帰の前段階、つまり、心のケアに全力を
言葉は通じるけれど、会話が成立しない子も
飯の作り方を教えたとしても、本当に飯すら作らないのだ。
まあ、そんな子がやる気になったら、それはそれで
しかも、だいたい
しかし、ここの娘達ときたら、
本当なら、モエ達も精神を
治療前のモエやキナは間違いなく精神も病んでいた。
しかし、治療後はその兆候が消えている。
神様の治療というやつは、精神にも効果があるらしい。
というか、体を治すと言うことは、ホルモンバランスや脳内の色々な
治療後の幸福感についても、
俺に冷たかったキナは、精神的不安と、体の不調からだったようで、一番印象が変わった。
実際の所、精神を病んだ子を社会復帰させるのは、かなりの
あのしかめっ
「よろしい、それとチビ達の
「わかった、散歩が終わったら、チビ達と双六をやる」
双六と聞いたミコとアユが喜んだ。
「やた、双六やる」
「今日は、ミコがコマ動かしたい。手が動くようになったから」
ハツも
「あうー」
「ハツは可愛いな~」
こちらを見て笑うハツが可愛くて、頭を
「ハツばっかりずるい、ミコも」
「ア・ユ・も」
ゴロゴロ転がってアユも来る。
まだ手もまともに動かないのに、器用に転がってくる。
最近のアユの移動手段だ。
慣れてきたのか、かなり高速にゴロゴロ転がれるようになった。
何というか、この子達が最近、
保護した子猫が、こちらに慣れて、元気に動き回り始めた頃によく似ている。
特にこの四つん這いで、足に
なのでチビ達の
おもわずしゃがんでチビ達の頭をなで回す。
アユが目を細めると、本当にネコみたいでカワイイ。
ひとしきりチビ達を
「んじゃ、畑仕事やってくるんでチビ達を頼んだぞ、キナ」
「わかった」
「ハラヘったら
「わかってる」
休耕していた畑を耕し、キナ畑の雑草を取って、作物を
虫食いが神様のお薬をまいたことで少なくなった野菜を持って家に戻っていると、
「ユウジさん、大漁です」
貝やエビの入った手桶を持ち上げて、
「お
「ユウジさんがいなかったら、
満面の
モエは、なんでも暗い方に物事を考えがちである。
なので、ズバリ聞いてみた。
「まだ死にたいと思うか?」
「そうですね、今は海に
「そうか、みんなが動けるようになったら、もっと楽しくなるから楽しみにしとけ」
「今が幸せすぎて
イヤな気分になった。
この
頭開いて、こちらが考えている事を
モエもそうならないように、なるべく気をつけよう。
「そうか、幸せなのか。大丈夫だ、俺はいるし夢でもないよ」
モエの頭を撫でる。
「俺はな、お前達が今まで苦労したぶん、楽しい思いをさせてやりたいんだよ、だからこれからもっと楽しくするぞ」
「はい、これ以上楽しいのは、ちょっと怖い気がしますけど」
「でだ、みんな歩けるようになったら、お祝いをしたいと思ってる」
「お祝いですか? お酒?」
「いや、酒は
「豪華ですか、思いつきません」
「モエが取ってきた
「
「おにぎり作って、
「やったことがありません」
「ならみんなでやろう、楽しいぞきっと」
「はい、楽しみにしてます」
娘達が楽しいと思えることを、一つずつやっていこう。
昼食を終わらせ、チビ達と少し戯れたら、モエと二人でスリングと
あとは移動する的に当てたい所だが、動く的が思いつかない。
小動物でも
いや、娘達がちゃんと動けるようになるまでは、やめておこう。
しかし、モエは何をやらせても
スリングは石の
横で吹き矢の練習をしているモエは、8割近く的に当てる。
「モエはすごいな」
「まだまだです、
「いや、この
今の的は、俺の適当1m
それに野外で練習をしているのだ。
風が
「せめて3回に一回くらいは真ん中に当てたいです」
「
「私の持ち方、変ですか? 」
「変ではないけれど、吹き筒がブレにくい持ち方をやってみよう」
「そんな持ち方があるんですか、是非教えてください」
モエの目がきらめきだした。
俺が知っているのは、吹き矢の持ち方ではなく、カメラの持ち方なのだけれど、ブレを減らすのは同じ理屈のはずだ。
「そうだ、口元の
「こうですか」
「そうそう、で
「はい」
「左手も脇締めて、肘を体にくっつけて、で
「なんだか
「だろうな。けれど、それで何度か試してみろ」
「ハイ」
「あとは息を
「ハイ」
俺も同じように練習してみるが、本人が言ったくせに
しかし、モエは命中精度が上がってきている。
「
満面の笑みで報告してくるモエを見ていると、少しだけ胸の奥がチクリと痛む。
競技やスポーツの練習ではなく、人を殺すための練習だからだ。
だが、この子達をキナの様な目に遭わせるわけにはいかない。
「本当に凄いな」
「何で当たるようになったのですか?」
「まあ口で言うより見た方が早いかな、俺が構えるから
「はい」
「これが、前の持ち方な」
「けっこうユラユラ
「これでも動かないようにしてるつもりだけどね、でこっちがさっき教えた構えだ」
「まだ揺れてますけど、さっきより揺れが小さいような」
「この揺れが
竹細工用に切っておいた、細い1m程度の竹を
モエの身長に合わせて、高さ調整してから、一度見本を見せる。
「モエ、俺がやったみたいに、左手の代わりに三脚を使ってやってみて」
モエが目をキラキラさせながら、三脚の上に
「凄いです、狙ったとおりに当たります」
「それはモエの腕が良いのもあるんだけど、筒の揺れが小さくなったせいでもある」
「狙いが逸れるのは、私が動いてるからなんですね」
「そうだ、特に息を吸ったり
「なるほど、わかりました、それを意識しながら練習すれば良いんですね」
「モエの場合は、狙いはあってるみたいだから、そうなるな」
「わかりました」
三脚が気に入ったようで、三脚を使って何度か練習してから、自分の手だけで練習してと、自分にダメ出ししながら練習している。
しかし、
吹き矢練習の後は、チビ達を連れて散歩である。
ずっと家の中と言うのも
ミコは
「ユウジ、高い、すごい、
ハツは
アユはモエに抱っこされ、動き回ったせいで地面に落ちた。
「アユ、お願いだからジッとしてて」
「ごめんなさい」
「怪我してない? 痛いところは? 」
「お尻痛いけど、怪我はしてない」
全員で砂浜まで行くと、チビ達を砂浜の上に開放してやる。
ミコは砂の上で一人で立ち上がると、
まだ歩けないようだ。
再び立ち上がったミコの手を、両側からモエとキナが支える。
ミコは砂の上を歩くのが面白いのか、モエとキナに両手を支えられて、足を砂に
ハツは
その山を見て、
ハツの対面に座って、ハツが作った山の上に棒を立てると、ハツが泣きそうになった。
「ハツ、ごめん、一緒に遊ぼうと思っただけだ。山を作りたかったのか?」
「あー」
「よし、俺と一緒に大きな山を作るか?」
「うー」
「一人でやるのか?」
「あー」
そう言って、山の上に立てた棒を
ハツに
つ、
本当にネコみたいなヤツだ。
俺の
いつものアユと
これってもしかして、
ミコはモエとキナに手を引かれて、
波に足を取られそうになると、モエとキナが引っ張り上げている。
夕日に照らされた三人をそのままジッと
アユも俺にくっ付いたまま、3人を眺めていた。
「アユは大きくなったら、何をやりたい?」
「わかんない」
「じゃあ、走れるようになったら何がしたい?」
「ユウジの手伝い」
「そっか、それは嬉しいけど、遊びたいとか、畑仕事とか、モエと海とかないのか?」
「ユウジと一緒がいい」
ハツに振られた後だと、アユの言葉が
アユを抱っこして、
後ろからアユを
「ユウジ痛い」
「ゴメンな」
アユの頭から顎を
「あー」
「どうした」
「あー」
自分の作った砂山で、足が
困り顔のハツの元へアユを
「うー」
ハツは崩れた山を見て悲しそうにしている。
「三人で作るか?」
「あー」
俺が砂を集めると、アユとハツがペタペタと山が
「うー」
先ほどより、
「ユウジさん、そろそろ夕ご
モエがやってきたけれど、ハツとアユは山を作るのに夢中だ。
「夕ご飯は遅くなるけど、もう少しここにいないか?」
モエはチビ三人の顔から、まだ遊び足りない事を
「では、私だけ先に戻って・・・」
「いい、今日は皆で一緒にいよう、一緒に星が出るまで」
「わかりました」
キナとミコがこちらにやってくると、ハツとアユと一緒に山を作り始める。
俺とモエはそんな4人を見ながら、
色々ありすぎて、俺も
たまにはこんなにのんびりした日があっていい。
太陽が沈んで、辺りが暗くなり始めても、チビ達はせっせと山を作っている。
キナは海から海水を
空には一番星がすぐに顔を出した。
その後はあっという間に数々の星が顔を出していく。
その頃になるとさすがに暗いのか、山を作るのを止めて、チビ達がこちらにやってきた。
「お腹すいた」
「あー」
「なら、皆で帰ってご飯を作ろう」
モエの家に帰ると、砂だらけの娘達。
外に置いていた、水を満たした竹筒を回収してきて、風呂桶に入れる。
太陽熱で暖めているのだが、黒く
それでも海水より温かいので、モエが食事を作っている間に、チビ達を洗ってやる。
しかしチビ達は、
風呂から上げて
なんとか夕食を食べさせると、電池が切れたように3人とも動かなくなった。
3人を布団に入れ、
はやり、たまには外に出して遊ばせてあげた方が良さそうだ。
歩けるようになるまではと思っていたけれど、これからも外に連れ出してやろう。
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