第6話 治療

 朝食をみなで食べて、おれは一人畑へす。


 今日の予定は、畑仕事、モエの家をそうして、アユのりょうと、全員の入浴である。


 畑仕事は、小さな畑一つだけなのであまり苦労はない。


 雑草を取って、育ちの悪いモノを間引きして、虫をできるだけはいじょした後、食べられそうなものを少しだけしゅうかくする。


 みんなの食欲がもどってきているとはいえ、食べるのはせいぜいわんの半分くらいだ。


 キナとモエが、わんいっぱいくらい。


 おれが一番大食いで、椀五杯を軽く食べる。


 本当に申し訳なく思うのだが、俺の腹は貪欲に食事を要求するのだ。


 心苦しさは未だにあるが、キナの畑を俺が管理するようになってからは、ほんの少しだけ罪悪感が減ってくれた。





 早々に作業を終えて、モエの家に行く。


 この家をそうして、みなでこちらに移り住もうと決めたのだ。


 モエに許可はもらってある。


 かく所は、みなあまりよい思い出がない。


 新生活を始めるなら、かんきょうを変えただけでかなりちがう。


 それに神様治かみさまちりょうがまだなのはアユだけだ。


 りょうが終わって、いつまでもかく所に居るのもちがう気がするし、チビ三人に至っては実家がどれかすらわからないそうだ。


 物心付いたころには両親が他界していて、ちがう村人の家に居たり、その人もすぐに病気になって、ちがう家に行くことになったり。


 キナに至っては、物心ついたころからかく所の住人だった。


 病人を世話する人間が必要だったのだ。


 病人の方が多く、手が足りないとき、子供の手でも借りたいとかく所でお手伝いをしたらしい。


 しかし、かく所に長い事出入りした者は、病気のしょうじょうが現れていなくてもけられるようなるそうだ。


 両親も他界して、行く場所がなくなったキナはそのままかく所で病人の世話をしながら住んでいた。


 おれが畑仕事を手伝おうとしたときに、キナがいやがったのは、畑仕事を止めるとかく所にめられると思ったからだそうだ。


 キナにとって畑仕事は、ゆいいつかく所を出てもとがめられない場所だった。


 おれが流れ着く前に死んだ男の畑は別の場所にあり、今の畑はキナ専用だそうだ。


 他の畑とはなれた場所にポツンとあるのは、村人がそちらに近寄らないための様である。


 かく所に入ったら最後、きょうの対象としてあつかわれる。


 近寄っただけで病気が移るとされる。


 そんな思い出ばかりなら、かく所を出て、みんなで暮らした方がいい。


 それに、今すぐ住めるのは、モエの家だけだ。


 なによりモエの家はデカい。


 それに、防衛を考えたときに、がいへきのあるモエの家が最適でもある。


 ただモエの家に来るのは病人ばかりなので、ほこりなどを最小限におさえたい。


 なので、たたみを引っぺがし、天日干しをしたり、れの衣類やとん全部洗せんたくしたり、はりの裏から、てんじょうほこりまで全てのよごれをはらう予定だ。


 今日は、モエが海女あま漁からもどったら、モエの家でアユをりょうする事になっている。


 前回神様とつながりやすかったし、かく所よりこちらの方が落ち着く。


 おれの心情が関係している以上、ごこの良さは非常に大切な要素だと思っている。


 さてモエがもどるまでそうだ。


 まずはモエの家の中を探検である。


 全ての部屋を見て回ってもだいじょうと、モエに許可ももらってある。


 まずはえんがわへ行き、雨戸を開け放ち空気をえる。


 つか、モエの家は何にしろ色々デカい。


 えんがわだけで、おれが日本で住んでいた部屋より広い。


 まだ一つもそうしていないというのに、そうするのがいやになってくる。


 えんがわに通じている三つの部屋。


 全て部屋がたたみ12じょう


 四方のふすまや障子戸を取り除けば、回りをえんがわろうに囲まれた一つのきょだいな部屋が出来上がる。


 えんがわは土間から家の角まであり、家の裏手をぐるりと回っている。


 えんがわの最終地点は厠だ。


 モエの家から少しはなれた場所に立っている。


 裏手側にも三つの部屋が並んでいる。


 こちらは収納付の8じょう部屋が二つ。


 土間とくっ付いている部屋には、があった。


 いわゆる居間で、モエの生活はこの部屋で完結していたようだ。


 ろうに設置されている階段を上ると二階に出る。


 二階にはろうたたみ十二畳じょうの部屋が二つ並んでいる。


 海側にはえんがわというか、おれ的にはベランダと言った方がしっくりくる作りになっており、雨戸を開けると海が一望できて、絶景を楽しむことができる。


 一階、六部屋。二階、二部屋。


 作りはしっかりしていて、台風でもびくともしなさそうだ。


 とりあえず、全ての部屋の雨戸を全開にしてきた。


 使っていなかった割に、ホコリは少ない。


 モエがこまめにそうをしていたようである。


 しかし、これだけ大きい家を一人でそうするのは骨が折れそうだ。


 土間に降りて、全て見て回る。


 土間はL字型をしており、おくは倉庫のような作りだ。


 土間にはげんかんと裏口が二つ。


 モエはせいせいとんができる人らしい。


 おれそうは得意だが、せいせいとんは苦手なのだ。


 母親がもったいない病をはっしょうしており、おれにも遺伝したようで、一度手に入れた物を捨てることができないのだ。


 モエの家は、物が少なく、ものすごくスッキリしている。


 そうの際、色々な物を外に出すのが一番大変だと想像していたけれど、部屋に家具の類いがほとんどない。


 れに、全ての荷物が収められていた。


 広くて大変だけれど、細々とした作業をしなくてよいので、その辺はすこしだけ楽そうだ。


 モエの家の構造をあくした。


 さっそくモエの家にある全てのとんを持って二階に上がる。


 ベランダから屋根に登れるので、とんを干す。


 モエの家のとんは3組しかなかったので、ぐに終わる。

 

 次はえんがわの風景を台無しにしている雑草処理だ。


 これが終わらないと、外に荷物を出したり、たたみを外に出してほすすことができない。


 とりあえず、えんがわを下りて、たりだい雑草をっこく。


 病気をばいかいするものの一つが、ダニだ。


 ノミやなど、血液を栄養源にしているやつらもかんせんげんだ。


 こちらのダニの生態は知らないが、おれの知っているダニは雑草の葉っぱなどから生き物に乗り移る。


 ダニの他にも、雑草は色々な虫を引き寄せる。


 病気のかんせん原因が不明な以上、虫もけいかいしたい。


 そういった意味では雑草処理も、おれにできる数少ないぼうえきの一つだ。


 かまで草をった方が早いが、根っこを処理しないとまたすぐ生えてくる。


 家の周りぐらいはていねいに処理したい。


 雑草とかくとうしていると、あっという間にモエがもどってくる時間帯となった。


 とんを回収して、開け放っていた雨戸を閉めて、障子も閉じる。


 家の中が、くらやみに包まれる。


 気分的な問題かもしれないけれど、治療の際は、くらやみの方が集中できる気がするのだ。


 そうは全く終わっていないが、仕方がない。


 かく所へもどちゅうで、はまから帰ってきたモエの姿を見つける。


 いよいよアユのりょうだ。




「ミコ、りょうだけど一回だけより回数増やした方がいいのか神様に聞いてくれ」


 ミコの目が喜びに見開かれる。


「回数増やした方がいいって言ってるよ」


 ちゃちゃうれしそうな顔をしているので、ミコがうそをついていないかと、少しだけ疑ってしまう。


「そ、そうか、どれくらいのかんかくでやった方がいいか聞いてくれ」


「んとね、んとね、毎日! 毎日がいいって言ってる」


「そ、そうか・・・」



 予想外の回答だった。


 神様のりょうだ。一度でだいじょうかと思っていた。


 ミコ、本当にうそ言っていないよね・・・


 モエの顔もうれしそうである・・・


 



「暗くてよく見えない」


アユの不安そうな声が聞こえる。


「ゴメンな、でもりょうするにはこれがいいんだよ」


「なら、これでいい」


 モエの家に、全員集まってしまった。


 ハツはまだ目を覚ましていないけれど、りょうは毎日が良いと言うのなら、今日もやった方がいいと思ったからだ。


 昨日は連続でハツとモエのりょうを行った。


 その時、神様とつながったままだと楽だった。


 ミコが神様とやり取りしながらやった方が効率が良い。


 多分俺おれ一人でやるとなると、神様とリンクをつなげるために5回は長い長い現実逃避が必要となる。


 一々精神統一して、神様とつながり直すと、いくら時間があっても足りない。


 ミコが間に入ってくれると、最初の一回だけ神様とのリンクをつなげれば、あとは連続でやってくれるのだ。


 一日に5人、一回で5人、初めての経験だ。


 まあ、やるだけやってみる。


 アユで頭の中をいっぱいにする。


 痛みにえていたアユ。


 おなかに手を置かれるのが好きだったアユ。


 手を放すとごりしそうにこちらを見ていたアユ。


 キナの事件の時、自分の名前も呼んでしいと言ったアユ。


 みんなで同じとんたときのうれしそうなアユ。


 みんなでご飯食べたときのご飯がおいしいねと言ったアユ。


 アユのふっくらした顔が見てみたい。


 ケラケラ笑うアユが見てみたい。


 走り回るアユを見たい。


 しんけんにアユの事を考えたが、予想の通りつながらない。


 確定ではないけれど、たぶんげる事が必要なのだ。


 精神のおれげる事によって、そのすきに神様が入ってくる感じだと思う。


 あのくらやみと、体のあいまいさ、かで覚えがあると思っていたら思い出した。


 本気で現実げんじつとうしたときの感覚だ。


 ヒントは得たが、気が重い。


 イヤな自分と向き合うのだ。


 げ続けている現実と向き合うのだ。


 それ自体がイヤでしたい。


 どれくらいの時間がったのか、よく分からなくなってきたころ、ミコの声が聞こえてくる。


「そのまま、もう少し」


 その直後、体の感覚が少しおかしくなってくる。


 神様リンクがつながる前兆だ。


 そのまま現実げんじつとうを続けていると、体の感覚がどんどんにぶくなっていく。


つながった」


 ミコの言葉が聞こえる。


 成功したようだ。


 ここまで来ると、あとはそう苦労はない。


 つながるまでが大変なのだ。


「ユウジ、次はハツ」


 アユの初治りょうが終わったようだ。


 頭の中をハツでいっぱいにする。


 ミコに言われるままいのる。


 やはりミコが間に入ると楽だ。


 一人でやるときより、神様とつながりやすい気がする。


 あとはミコに言われるままいのるだけだ。


 全員のりょうが終わったあと、お薬まで作ってくれる。


「ユウジ、終わったよ、みんなも声だしていいよ」


「気持ちいい」


 アユの声が聞こえたら、その後みんながいっせいしゃべりだした。


りょう、本当に気持ちいいね、おなかポカポカでフワフワしてる」


「幸せです」


 今日は最初からおけを用意している。


 人数分。


 2度目のりょうは初めてだ。また出てこないとも限らない。


 まあ前回あれだけ出しているので、もういないと思いたいが。


 一度虫下しが終われば、次はないらしい。


 だれも腹痛をうったえなかった。


 まあ、前回からあまり時間はっていない。


 虫が体に入って成長するまで時間もかかるだろう。


 かんかくが空けばどうなるかわからないけれど、1週間程度なら、だいじょうのようだ。


 モエにスケッチがしたいので、紙と筆記用具がしいと言ったら、村長の家に案内してくれた。


 ぱらいが歩いているようでこわかったので、ちゅうからモエを背負った。


 りょうのあと、ぐに動かすのはやめた方が良さそうだ。


 村長の家も大きかったけれど、作りはモエの家の方が作りが良い気がする。


 紙と筆、それにすみを手に入れた。


 忘れないうちに、寄生虫の形を書き留めておく。




 に入りたい。


 前回、自分が入るのを忘れていた。


 全員のりょうがこの短時間でたっせい出来たのは、ミコのおかげだろうが、リンクのつなぎ方がいまだによく分からない。


 今日のおいのりという名の現実逃とうで、体感で三時間以上はかかっていると思う。


 これから毎日と思うと気が重くなる。


 もっと早くつなげることはできないだろうか?


 少女達たちながめながら考える。


 今は5人並んで、仲良くている。


 最初は4人で幸せ談義をしていたが、一人一人とねむりに落ち、今は全員幸せそうな顔してねむっている。


 この顔を見ていると、おれの精神的ダメージがやされる。


 さて、これからどうするか。


 毎日治りょうするとして、モエの家も全部掃そうしてしまいたい。


 全員が完治するまで毎日治りょうするとして・・・


 何日続けるのだろう・・・


 神様が薬を作っているのだから、だいじょうだよね?


 つか一日のりょう上限とかあるのだろうか?




 考え事をしていたら、いつの間にかおれねむってしまっていたようだ。


 おれも5人連続治りょうは初体験でつかれたらしい。


 この子達たちは、今はるのが仕事だ。


 外をかくにんすると太陽がしずみそうだ。


 夕飯の準備をしよう。


 それに、りょうが関係しているのか、ものすごく腹が減っている。


 モエの家の土間を物色してみたが、食材がない。


 気が引けたけれど、モエを起こして食材のありかを聞き出す。


「すいませんてしまいました」


「いいよ、今はるのが仕事だ」


るのが仕事?」


「そう、ご飯を食べてるのが仕事、体が治るまではそれでいいよ」


「でも」


「モエは働き過ぎだ、少しはおれに仕事を回せ」


「はい」


 モエのがおが、ちゃんとがおに見える。


 ひとみの光がちゃんともどっている。


 神様のりょうは、体だけではなく、精神的にも有効らしい。


 まあ、精神的な病も、めれば身体の異常ではあるのだけれど。


 村長の家に行った時より、ポワポワ感がなくなっているが、モエの足取りはまだ少し危なっかしい。


「今日全員のりょうが終わったからな、ちょっとぜいたくしたいな」


「でしたら、かく所に私が今日とってきたものがありますから、持ってきてもらってよろしいですか」


「おう」


「私は、村の倉庫に行ってきますね」


りょうかい


 とりあえずモエに言われたとおり、かく所でぎょかいの入ったおけを確保した。


 そのあと、モエを追う。


 先ほど、少し様子がおかしかった。


 モエのひとみに光がもどったおかげか、モエの表情が読みやすくなったのかもしれない。


 なにか後ろめたい事があるようなりを見せたのだ。


 モエの足取りはいつもよりおそい。


 少しだけたよりなさげに歩いて行き、村のしょくりょう倉庫ではなく、ねん倉庫の前で止まる。


 辺りをキョロキョロかくにんしたあと、こっそりと言った風にねん倉庫に入っていった。


 しばらくすると、ねん倉庫からモエの顔だけがのぞき、辺りをかくにんしてから表に出てくる。


 モエの表情が険しい。


 どうも、モエは悪いことができないようだ。


 モエの前に堂々と歩いて行く。


 モエはおれを見た後、アワアワしだした。


「モエ、ねんまいに手を付けたのか?」


「・・・すいません」


「なんであやまる。初めておれが食ったかゆや、朝飯、ここからもってきたのか?」


「・・・はい」


「モエ、なんでそんな顔をしている、お前は何も悪いことはしていない」


「でも」


 ねん倉庫のとびらを開く。


 かなり大きな倉庫だ。


 半分くらいまっている。


 村がこんなじょうきょうだというのに、ねんが納められている。


 モエの話だと3年分。


 3年前から役人が顔を出していないそうだ。


 村人がりちなのか、役人がこわいのか、あるいは尊敬されているのかはわからなかった。


 とにかく、ねん倉庫に収められているのは、米と麦。


 村人は食べることができないのだそうだ。


 村人の食事は別の穀物。


 かく所での食事に使われていた物だろう。


 村のしょくりょう倉庫に収められているそうだが、もう残りが僅かだそうだ。


 おれがお祝いと言ったので、おれを喜ばせようと思ったらしい。


 悪いことをした。


「モエ、ありがとうな、お前が後ろめたく感じる必要はない」


「でも」


「いいんだよ、おれが許可する。今後も米と麦を食べるぞ」


「え」


「いいか、全員のりょうが終わった。回復するかどうかはおれにもわからん。だが、回復にしょくりょうは必要だ」


「はい」


「それに、3年放置されてきたんだろ、ならその分のねんは納める必要はない」


「えっ」


ねんは納めた分、役人が働くためのかてとなる。役人が働いていないのなら、糧も必要はない。心配するな」


「そうなんでしょうか?」


「そうなんだよ、村人があせみず流して納めたしょくりょうだ。モエたちが村を再建するのに使ってもだれも文句はないさ」


モエの顔はまだ晴れない。


「モエ、村長はどうやって決める?」


「えっと、村長の家は代々村長で・・・」


「今はいないよな。ならおれが村長だ、おれが許可したんだ、何も問題ない」


「本当に、これからも、この村にいてくれるのですか?」


「ったく、そんな顔をするな。お前達たちを、今のまま置いては行かない。少なくてもお前達たちが安心して暮らせる様になるまでは出て行くつもりはない」


「はい」


 今日一番いいがおをもらった。


 不安の消えたモエの顔は、年相応の少女の顔だった。




 モエと二人、家にもどり、食事を作る。


 あの後、多めに米を持ってきた。


 今日は米がメインのかゆを作る。


 栄養面ならいつものかゆの方がいいのだろうけれど、今日くらいちがう物を食べさせたい。


 モエが処理したぎょかいと、おれが畑で取ってきた野菜とお米で少しぜいたくぞうすいを作ってみる。


 つうの食事はまだ無理そうなので、具材は細かく切って水多めで作ってある。


 味付けはモエに任せたが、い。


 モエをめると、年相応に照れている。


 わいい。


 そろそろみんなを起こして、飯にするかと思っていると、みんなが起き出してきた。


「よし、みんなで飯にするぞ、今日はお祝いだ、あかけてくれ」


 食事の準備が終わったところで、先ほど決めたことを発表したいが、その前にかくにんしておく事がある。


「ミコ、神様にかくにんだ」


「うん」


「ここにおれを連れてきたのか神様か?」


「そうだって」


「目的は?」


「ごめんなさい、難しくてわからない」


 神様と俺の間に入るのがミコだ。

 上手く通訳できないと、ミコはすごく悲しそうな顔になる。


「いい、気にするな、おれが一番聞きたいのは次だ」


「うん」


「だから、そんな暗い顔をするな。いいか、おれ一番聴きたいことは、おれとつぜん元の世界にもどることがあるかどうかだ」


とつぜんはないって」


「よし、それが分かれば十分だ、ミコありがとうな」


「うん」


 ミコの頭を撫でると、やっと嬉しそうな顔になった。


「さて、さっき決めたことだけれど、おれがこの村の村長をやることにした。お前達たちが元気になって、安心して暮らせるようになるまでは、ここをはなれることはない。それでいいか?」


「やった、ユウジずっといるの」


「できればお前達たちが大きくなって独り立ちできるまでは居たいな」


「ホントに、ホントに」


「ああ、本当だ」


 思った以上にみなが喜んでいる。


「今日のご飯には米が入っているぞ」


 米と聞いた瞬間、キナが器の中を覗き込む。


「食べたことない」


「アユも初めて」


 りょう終わってしばらくたっているのに、みんなまだ顔がふにゃけている。


「それじゃ、いただきます」


「いただきます」


 おれが飯を食う前にいつも言っていたせいか、最近ハツ以外使うようになった。


「すごい、ご飯がしい」


「そっか、アユは今日が初めてのりょうだったね」


りょう終わったら、ご飯美しいなんて知らなかった」


 アユには悪い事をしたかも知れない、いつもの食事の方が味のちがいを感じられただろう。


 それでも、泣き笑いのような顔で、


「でも、いつものご飯より、お米、しいね、すごいね、痛くなくなってご飯美しい」


 アユが泣き出した。


 アユをいて頭をでる。


「アユ、今までがんったな」


 アユが声を出して、泣き出した。


 皆もアユの気持ちが解るのだろう、ミコも泣き出して、モエとキナは涙ぐんでいる。


 まあ、あんなじょうきょうから、今日初めて、みんなが痛みがない状態になった。


 泣きたくもなるだろう。



「泣きたいだけ、泣いて良いぞ」



 ボリュームが上がった。


 ミコも大声で泣き出したので、アユとミコの頭を左右にいておく。


 しばらく泣いた後、落ち着いたようである。



「あー」



 とんを見ると、ハツが目を覚ましていた。



「ハツ、目が覚めたか」



 声をかけるとこちらを見る。


 ハツのとなりに行って、頭をでるとうれしそうに目をつむる。



「ハツ痛くないか」


「あー」


「ご飯を食べられそうか」


「あー」



 顔を見る限り、だいじょうのようである。


 変な方向を向いていた目が、正常位置にもどっている。


 っていた手もつうになっている。


 ハツをかかえてみんなの輪に入る。


 おれが後ろからいて支えていると、モエがハツに食事をあたえだした。


 ゆっくりだがちゃんと食べている。



「もっと食べる?」


「あー」


「そう、はい」


「ハツ聞こえてるみたい」


「そう見えるな」



 キナが、ハツの名を呼ぶ。



「ハツ。こっち見た、聞こえてるみたい」



 それを嬉しそうに見ていたミコ。



りょうって本当にすごいね」



 しみじみとアユが言った。



「治るまで、毎日治りょうしてもらえる」



 幸せそうにモエが答える。



「ものすごく幸せです。」



 キナが、うれしそうに言う。



「明日も楽しみ」



 言葉が分かるのか、いつもよりわいく見えるハツ。



「あー」



「ハツも楽しみだって」



 ハツを見る、キナの顔も嬉しそうだ。



「ご飯終わったら、みんなに入るぞ」


「やった」



しかし、いつも以上におれの腹がふくれない。


りょうが関係しているのだろうか。


多めに作っておいたはずのぞうすいが全てなくなってしまった。



「ミコ、神様に質問だ、りょうするとおれの腹が減るのかどうか」


「えっとね、お薬作るのに必要なんだって」


おれの腹が減るのは、神様がりょうに必要なお薬作ってるからか?」


「食べると、神様がお薬作る」



 一つなぞが解けた。


 今まで、モエたちが働いて取ってきた食料を、ただつぶしていただけではなかった事に少しだけホッとした。


 とりあえず腹がふくれたので、の準備だ。


 おけみずを入れ、いたお湯を足しながら湯加減をかくにんしていると、ミコが俺を呼んだ。



「これ、少しだけおに入れると良いって」



 ミコのところに行って、それを受け取る。


「神様が作った薬、ほんの少しおに入れるといいんだって」


 木のうつわに入った液体は少量だ。


「えっと、これ全部入れても少しだけど?」


「うんとね、ほんの少しで良いって」


 よく分からない。


 多分一いってきとかそんな話なのかもしれない。


 農薬のしゃくを思い出す。


 300リットルのデカいタンクに入れる農薬はキャップいっぱいとかそんな感じだ。


 神様の薬はのうしゅくタイプなのかもしれない。


 おけいってきだけ垂らして、混ぜた後、チビ三人をおに入れる。


 おれとモエで、湯船にけたまま三人を洗う。


 ざわりが良いように感じる。


 頭を洗うと、かみつやつやになった。


 明らかにつうのお湯とちがう。


 神様の薬の効果なのか?


「きもちいい」


「今日は、幸せいっぱい」


「あー、うー」


 ハツの頭に鼻を当てて、においをいでみる。


 ふむ、イヤなにおいはしない、というかなんか良い匂いがする。


 お湯の温度が少し下がったので、少しお湯を足して温める。


 いつもよりミコが元気だ。


「ずっと入っていたい」


「いいぞ、ふやけるまで入ってろ」


「やった」


「ミコ、なんかおなかんでないか?」


「ん、おなかっちゃくなった」


「治ってるのか?」


「治ってるって言ってる」


「神様がそう言ってるのか?」


「うん」


「そうか、良くなってるのか、よかったな」


「うん」



 全員入った後の残り湯をもらう。


 この前風に入れたばかりというのに、お湯は結構汚よごれている。


 神様のお薬効果か?


 よごれが落ちる効果でもあるのだろうか?


 おれも体をたたんでかたまでお湯にかる。


 あー気持ちいい。


 やっぱだな。


 足をばして入れるしいが、今はこれでいい。


 がデカくなると、かすお湯も多くなる。


 このサイズなら、最低、かま二つでどうにかなる。


 食事といっしょに2つかせば、まきもそんなにらないしな。


 おれが最後なので、湯船でそのまま体を洗う。


 頭も洗ってお湯を見ると、ゾッとする位黒くなっている。


 ってか、おれこんなによごれていたの? 。


 つか、神様の薬のせいなのか?


 毎日はつらいけれど、は3日に一回くらいは入ったほうがいいかもしれない。


 でも、に入るとその分薪まきがいる。


 ここよりひど自然しぜんかいをしていた所で育ったくせに、まきを燃やすとエコではないとかバカなことを考えている。


 ただ、エントロピーだったか? 木を育てるエネルギーに対して、燃やして得るエネルギーの少なさみたいなのは気になるのだ。


 たけづつ使って、外でお湯作れないかな。


 真っ黒にれば、太陽熱で湯がかせそうだが。


 実家の屋根に乗っていた、太陽熱温水器を思い出す。


 たけづつが何本いるのだろう?


 時間ができたらためしてみるか。




 を片付け部屋にもどると、みんなている。


 よくられるなとも思うが、この子達たちは健康体ではない。


 多分今まで痛みに苦しみ、つかれてねむって、痛みで目を覚ましているような生活だったのだろう。


 て、食って、早く元気になってしいと思う。


 一番端はしっこにもぐむとハツがいる。


 目が開いておれを見て笑ってくれる。


 頭をでてきつくと、うれしそうな顔をする。


 それがうれしくて、わいくて、きついたままねむりについた。

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