やるせなき脱力神番外編 紅葉

伊達サクット

番外編 紅葉

「皆の衆! ダオル副社長より指令! 特別任務発生せり! 我こそはと思うユノ隊の戦闘員は直ちに副社長とユノ隊長のいる第二密談室へはせ参じよ! 繰り返す! 副社長より特別任務が――」







 ウィーナの屋敷・第二密談室――。




「我が組織は支払いが遅れている。早くこの金をカタクリコンクリートさんに支払わねば大変なことになる!」


 ダオル副社長が言う。


「そうです。我が組織は支払いが遅れているです。早くこの金をカタクリコンクリートさんに支払わねば大変なことになるです!」


 幹部従者・ユノも言う。


「こいつらの中で腕利きでフットワーク軽い奴はいるか!? この仕事を任せるに値する奴は!?」


 ダオルが集まった戦闘員達を見回しながらユノに問う。


「ならば我がユノ隊最強の戦士! スーパー平従者ウマイバーにお任せを! 彼なら必ずや任務を達成するです!」


 ユノがウマイバーを見て不敵な笑みを浮かべる。


「よおし! 行けえいウマイバーよカタクリコンクリートさんの下へ!」


「行くですウマイバー君! カタクリコンクリートさんにお金払ってくるです!」


 ダオルとユノがウマイバーに命じた。


「承知したああああああっ!」


 ウマイバーは体のありとあらゆるところに金貨を担いで屋敷を飛び出した。その額、総計50万Gギールド







「金の臭いがする!」


 ウィーナの屋敷を出た途端、金の臭いにつられた街の浮浪者がウマイバーにつかみかかる。


「うおおおお!」


 ウマイバーは力任せに浮浪者を放り投げ、壁に叩きつけた。


「ぶけえっ!」


 倒れ込む浮浪者。


「ヒャッホー! 金だ金だああああっ!」


 今度は重度の金マニアがどこからともなく寄ってきてウマイバーに襲いかかる。


「どけえっ!」


 ウマイバーは金マニアを殴り飛ばす!」


「ふははははは! まだまだああああっ!」


 ひるまぬ金マニア。


「だあああっ!」


 もう一発ウマイバーは金マニアを殴り飛ばす。


「あべべ!」


 金マニアを倒した。


 大量の金貨を担いでカタクリコンクリートの屋敷へ走るウマイバー。


「金を寄こせ! その金を寄こせええええっ!」


「その金は俺のものだ! 貴様のようなうまい棒のでき損ないが金を持つ資格などないわ!」


「金の臭いがする! 金の臭いがするぞおおおお! ぎゃんがぎゃんがああああ!」


 金の気配を感じ取った金の亡者達が一斉にウマイバーに踊りかかる。


「ぎゃああああああ!」


 悲鳴を上げるウマイバー。


 あっという間に金の亡者達に金貨を奪われる。


 ウマイバーはたまらず全速力で走って逃げる。これで10万Gほど金貨がなくなったと思われる。


「待てえええええ!」


 金の亡者達はどんどん増えていきウマイバーを追ってくるが、何とか物陰に隠れてやり過ごした。


 ウマイバーは人通りの少ない路地裏を進む。


「いらっしゃい! ここは武器の店だよ! どんな用だい!」


 突如として立ち塞がった武器屋。武器屋はウマイバーの首を両手で絞める。


「買いにきた! 売りにきた! やめる!」


 そう言いながら激しく首を絞めつけてくる武器屋。


「うぐぐぐ……」


 息が止まりウマイバーの意識が遠のく。


「待てえええええい!」


 突如防具屋が乱入。


 武器屋にドロップキックを入れる。


「うげえっ!」


 吹き飛ぶ武器屋。咳き込むウマイバー。


「ここは防具の店だぜ! どんな用やねん! 買いにきた! 売りにきた! やめる!」


 ウマイバーの金袋に抱きつく防具屋。


「ふざけんな! 渡すかあああ!」


 金袋を死守するウマイバー。


「ぐおおおお!」


 鉄球で思いっきり防具屋の頭を打ち付ける武器屋。


「うげっぴ!」


「死ね! 死ね! 死ね!」


 武器屋は鉄球で防具屋の頭を何度も何度も殴りつける。


 防具屋は頭から激しく血を流して動かなくなっていた。死んでいた。


「死んだ。死んだ」


 ウマイバーが言う。


「ヒ、ヒイイイィィィィ!」


 死んだ防具屋の死体を見て怯える武器屋。


「お前が金を渡さないからこんなことになったんだ! 俺に金を寄こせえええええ!」


「うるせえええええ!」


 ウマイバーは武器屋にタックルをして彼を吹き飛ばした。


 その瞬間、目にもとまらぬスピードで俊足の泥棒が三人、三方向から現れ、ウマイバーが身に着けている金袋をあっという間にごっそりと奪っていった。


「ああっ……!」


 慌てて泥棒達の逃げた方を振り向いたが、彼らは忽然と消えていた。


「私は旅の油売りです。こんなところで油売ってます」


 油売りが現れた。彼の周りには油の入った樽が沢山置かれている。


「うああああああ! あああぎゃあああああ!」


 先程吹き飛ばされた武器屋が全身に油を被り、自らに火をつけた。


「ファイヤアアアアアア! ここは武器の店だおォォォォ! 買にきた! どれにしますか! 油1G! 油1G! 油1G!」


 全身火だるまになり奇声を上げる武器屋。


 油屋も巻き込まれ火だるまになる。周りの民家を巻き込み辺り一面火の海となる。


「手を抜くからそういうことになるザマス!」


 PTAの人がクレームを入れたがすぐ火だるまになって「ザアアアマスウウウウ!」と言って焼け死んだ。


「馬鹿共がみんな焼け死んでしまえ!」


 ウマイバーは捨て台詞を吐いてその場を後にした。泥棒に金貨を随分持っていかれた。残り25万G程しかないが、おかげで身のこなしは軽くなる。


「待ちなさい旅のお方! 我が教会に何のご用ですかな?」


 突如ウマイバーの行く手に立ち塞がる神父。


「何だ貴様は! 貴様も俺の邪魔をするのか! うぐぐぐ~!」


 ウマイバーが歯を食いしばる。


「え!? 何!? このお金を我が教会に寄付したいですと! さすれば寄付しなさい!」


 神父が高くジャンプしてウマイバーに踊りかかる。回避するウマイバー。


「寄付しろと言ったあああああ! 金は人の心を欲にまみれさせ狂わせる! この私に預けなさいいいい!」


「寄付するなんて一言も言ってない!」


「貴様は言ったんだよおおおお!」


「うるせええええ!」


 神父を思いっきりウマイバー蹴り飛ばす。


「馬鹿なあああああああ! 神はなぜこんな理不尽をぉぉぉ……!」


 神父は鼻血を噴出させぶっ倒れ、ヒクヒクと痙攣した。


 そのとき地面が盛り上がり、地中から巨大なカニのモンスターが現れた。


「我が名はビッグモンス・クラブカニ五郎! その金このワシが頂くぞええええ!」


 クラブカニ五郎が巨大なハサミを振り回してウマイバーを威嚇する。


「さっきからうるせぞテメェーら!」


「おんどりゃああ!」


 騒ぎを聞きつけたヤクザ系ギルドの怖いお兄さん達が大量に現れ、クラブカニ五郎に殴りかかる。


「何だテメェーふざけんじゃねえぞオラァ!」


 ヤクザ系ギルドの連中がウマイバーにも襲いかかり、彼の金をひっぺがし始めた。


「やめろおおおお!」


 叫ぶウマイバー。


 必死に身に着ける金貨を守ろうとするが、ヤクザ達は容赦なくウマイバーに暴行を加える。


「ぎゃあああ!」


「テメーこの野郎こんな大金持ちやがってさてはこの俺を舐めてやがんな!」


 ヤクザ達がよってたかってウマイバーから金貨をむしり取っていく。


「死ねええええええぃ!」


 クラブカニ五郎が口から泡を放射する。その泡がウマイバーを囲うヤクザ達に覆い被さる。


「ぎゃああああああ!」


 泡を被ったヤクザ達は頭から溶解し、ドロドロに液化した末に、皆死んでいった。


「次は貴様の番ぞえええええ!」


 ウマイバーに向かって正面から突進してくるクラブカニ五郎。カニのくせに余裕で前歩きをしてくる。


「ヒーッ! また会おうぞ!」


 ウマイバーは一目散に逃走する。金を奪われ続けたおかげで逃げ足が速い。しかし残りの所持金は10万Gほどに目減りしていた。


「待ーてー!」


「待てと言われて待つバカいるか!」


 ウマイバーはクラブカニ五郎から必死に逃げるが、袋小路に来てしまう。


「でっへっへぇ~! 追い詰めたぞえぇぇ!」


 両手のハサミを閉じたり開けたりしてこちらを威嚇するクラブカニ五郎。


「ま、待てっ! 話し合おう。3万Gやる、だから見逃してくれ!」


 ウマイバーはクラブカニ五郎に交渉を持ちかけた。


「ぶへへへへぇ~! 貴様を殺して全部奪うに決まってんだろ~! ばっへっへへへ!」


「そ、そんなのやだ~!」


 泣き叫ぶウマイバー。万事休す。


「首チョンパぞえ! 死ぬぅぅぅえ!」


 クラブカニ五郎がハサミを振り上げたその瞬間、クラブカニ五郎の全身が電撃に包まれて火花を散らした。


「ぞえええええええ!」


 黒焦げになってその場に倒れるクラブカニ五郎。クラブカニ五郎の背後には、幹部従者ロシーボが銃を構えて立っていた。


「ロ、ロシーボ殿!?」


「ウマイバー! 助太刀にきた!」


「ありがとうございます!」


 ウマイバーは礼を言ったが、ロシーボは残念そうな顔をしている。


「申し訳ないけど次の予定が押しててカタクリコンクリートさんの所までは護衛できない。ここまでだ」


「いえいえ、十分です。ありがとうございます!」


「さらば!」


 ロシーボは颯爽と去っていった。







 その後、ウマイバーはカタクリコンクリートの屋敷への入場料5万Gを門番に支払い、ついにカタクリコンクリートの屋敷へとやってきた。


「ふざけんな! 足りねーじゃねーか!」


 カタクリコンクリートは手元に残った約5万Gを見て激怒した。


「す、すいません!」


 慌てて謝るウマイバー。


「すいませんじゃねーよ! 何? お前この俺を舐めてんの?」


「いえ、途中で色々あって……」


「知らねーよ。そんなのそっち都合だろうが。あと45万G一体どうするの?」


「もう一回取ってきます」


「もういいよ! 今あるだけでいい! よこせ!」


 カタクリコンクリートが手を出して言う。


「え? 残りはいいんですか?」


 ウマイバーがおずおずと尋ねる。


「いいっつってんだろボケ! その代わり二度とワルキュリア・カンパニーには関わらんからな!」


「あ、ありがとうござ……」


「いいからよこせ! さっさと!」


 カタクリコンクリートが怒ってウマイバーの言葉を遮る。


「は、はい」


 すぐさまあるだけの金を差し出すと、カタクリコンクリートはそれを舌打ちしながら乱暴に受け取った。


「あ、あの~……、できましたら残りはもういいってことを一筆……」


「はいはい、分かってるよ! ちょっと待ってろ」


 カタクリコンクリートは残金を受け取る権利を放棄する旨の書類を乱暴に殴り書きし、「おらっ!」とウマイバーの胸元に付き突けた。慌ててウマイバーは受け取る。


「用が済んだらさっさと出てけ! クソが! ふざけんなまったく!」


「は、はい~!」


 ウマイバーは慌ててカタクリコンクリートの屋敷を飛び出した。







 ウィーナの屋敷に帰参したウマイバー。


 経緯を報告した後、腰を下げ、揉み手をしながら上目づかいでダオルとユノに言う。


「特別任務を達成したってことで、特別ボーナスとかは……」


「そんなもんないぞ」


 ダオルが言った。


「そんなもんないです」


 ユノが言った。


「ないんかい!」




<終>


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