第6話

__あれから月日が流れ現在に至る__


ミーンミーン 

   ミーンミーン


暑い。暑すぎる。

僕はスーツのネクタイを緩める。

あれからもう10年が経つというのに未だに忘れられずにいる。

僕は大学を卒業した後、地元に帰り今の仕事に就いた。僕が帰った時にはもうちーちゃんの家は引っ越していて行き先は分からなかった。

こんな暑い日には決まってあの日の冒険を思い出してしまう。

あの日の坂道

進んでいくと蜃気楼が見えた

おいおい、今になって出てくるのはずるいだろ。

自分のハッキリとしていない気持ちにむしゃくしゃし全力で蜃気楼を追いかけ坂道を走る


「この歳でいきなり走るものじゃないな」

顔を真っ赤にしてふぅと一息つくと

駄菓子屋さんのおばちゃんがこちらに気がつき手を振る。

どうも。と会釈する

学生以来来ていなかったのにすぐに気がついてくれるとは思っていなかった。


「ゆうくん久しぶりだねー、そんな息切らしてまるであの時の2人を思い出すねぇ」


「ご無沙汰してます、お恥ずかしいところをお見せしました。」


僕は恥ずかしくなり隠れるように店の中へと入った。


「おばちゃん!レモンのかき氷ひとつください」


無性に食べたくなりかき氷を注文し店の奥の座敷に移動する。


すると見た事のある顔が僕の前に。


「ちーちゃん?、、、」


「え、ゆうくん?」


僕達は顔を合わせ交わす言葉が見つからなかった。だがもう子供だった時とは違う、お互いに成長し大人になっていた。


「久しぶりだね、一緒に座ってもいい?」


「うん、久しぶり

もちろん、ゆうくん元気だった?」


「元気だったよ、本当に久しぶり」


すっかりと大人っぽくなっているちーちゃんに少し驚いた。

「何頼んだ?」


「私?私はレモン味のかき氷だよ」


「僕も同じ。」


2人は顔を見合わせて笑った。


「あ、そうだゆうくん

この麦わら帽子昔かぶってたのなんだけど覚えてるかな?」


「もちろん覚えているよ」


そうだ。あの日の冒険の日に被っていた。

まだ幼く大き過ぎた麦わら帽子は彼女にとても似合うようになっていた。


「どう?似合うでしょ?」

フフッと笑い問いかけるちーちゃんに


「綺麗だ」

しまった。思ったことを言ってしまった。


「え、ありがとう。」


いいタイミングでかき氷をおばちゃんが持ってくる。

「はい!2人ともサービスしておいたからね」


僕達は恥ずかしくなりかき氷を夢中になって口に運ぶ。

懐かしい味だ。

かき氷を食べ終え店を出る


「ゆうくんちょっと歩きながら話さない?」


「うん、家の近くまで送るよ」


「ありがとう、ゆうくんいつ帰ったの?」


「大学卒業してすぐかな」


「そっか、私のお父さん具合悪くて引っ越ししなきゃいけなくて。それで連絡も取ろうにも取れなかったの。」


「大変だったね。

もうお父さんは大丈夫?」


「うん、もう全然平気みたい」


「よかった。安心したよ」


少しの間沈黙の時間が流れた。


「ゆうくん。

私が高校の卒業式の日に言った言葉

覚えてるかな?」


「覚えてる。」


正直ちーちゃんがそのことを口に出すとは思っていなかった。


「そっかー。今思い出すと恥ずかしいね」


「ちーちゃん。ごめん。ほんとにごめん。」


ずっと言えなかったごめんの一言がすっと出てきた。大人になったから?時間が経ったから?分からないが自然と口から出た。


「ん。全然いいのに

じゃぁこれからは一緒に冒険してくれるかな?」


無邪気に笑い僕に問いかける


「うん。どこにでも行こうよ」


「待ってたんだから。」


そう言うとちーちゃんは大粒の涙を流した。

ちーちゃんが泣いているところを見るのは2回目だ。

あんなに長い時間一緒にいたのに彼女は涙を見せない。

強く、そして繊細なのだ。


そっと手を握りしめる。

彼女も僕の手をそっと握り返す。




雲が揺れる

海の波が揺れる

太陽を反射し輝き

セミが鳴き

アスファルトに夏の日差しが照りつける



僕達は歩きだす


君と僕の歩幅に合わせ蜃気楼が歩きだす

まるで僕達を導くかのよう


一緒に

ゆっくり

ゆっくりと。



         ___君と僕と蜃気楼___













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君と僕と蜃気楼 ましろ。 @tomoki0316

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