第三話 中世ヨーロッパ2 二つの想い

 狩人の青年に助けてもらった少女ファフネーは、小高い丘に建てられた山小屋にその青年と一緒に住んでいました。怪我のせいで思うように動けないフェフネーの為に、青年は世話をしてくれていたのです。

 青年の名は『ジム』と言いました。彼はとても優しく紳士的で、ファフネーに対する世話には心がこもっていました。出会って以来ほとんど口を開かない彼女に、問いただす様な事もしません。

「自分の過去を話したくなければ何も話さなくて良いよ。でも、その気になったらいつでも話しておくれ」

そう言って彼は優しく微笑むのでした。

 フェフネーは不思議でなりませんでした。何故、この男はこんなにも自分に優しくしてくれるのか?何かの得になるわけでもないと言うのに・・・。


 彼女は、人間と言う生き物を嫌っていました。愛と正義を説きながら、戦でお互いを殺し合い、自分の欲の為に平気で他人を裏切る人間達を、心の底から軽蔑していたのです。

 自分を始めとした魔界の住人は、殺し合い奪い合い、裏切る事は日常茶飯事です。憎いから、敵だから、或いは楽しいから殺す。欲しいから、そして暇つぶしに奪う。

都合が悪くなったから、または飽きたから裏切る。

「でも、それの何が悪いと言うの?やってる事は同じじゃない?そんな行為を言葉を尽くして正当化している人間達の方がおかしいのよ」

 自分は欲望に実に正直で、純粋な生き方をしています。それに比べれば、愛や正義の名の元に破壊と殺戮を繰り返す人間こそ、真に邪悪でおぞましい生き物だと、ファフネーは考えていました。


 でも、目の前にいるこの人間はファフネーを助けておきながら、一切の見返りを求めませんでした。一体、どんな理由で自分を助けたと言うのか?

 考えた挙句、ファフネーは一つの結論に達し、そしてニヤリと笑いました。

(なぁんだ、そう言う事か・・・)

ファフネーは、ジムが自分に優しくしてくれる理由は、自分の身体が目当てなのだと思い至りました。

(この男も、所詮は下衆な人間だな・・・)

 ファフネーは、ここは一つ、退屈しのぎにジムをからかってやろうと思いました。


 ジムは、小屋の外で弓の手入れをしています。そこに、ニヤニヤ笑いながらフェフネーがやって来ました。彼女に気付いてジムは笑いかけます。

「やあ、今日は気分が良いみたいだね」

「えぇ・・・」

ファフネーは吹き出しそうになるのを必死に堪えながら、にっこりと笑いました。

「何を、しているの?」

「弓の手入れさ。大切な仕事道具だからね」

「そう。偉いのね・・・。ねぇ、何か手伝いましょうか?」

「いいや、大丈夫だよ」

 そう言ながら、ジムは弓の弦を張り替えています。その横顔は、何故か嬉しそうに見えました。

 でも、ファフネーはそんな彼を見て、

(何をニヤニヤ笑っているのさ?どうせ、いやらしい事でも考えているんだろう?それなら、お望み通りにしてやるよ)

 心の中でそう呟くと、その美しい顔に悪意のある笑みを浮かべます。しかしジムはその事に気付いていません。

「隣に、座っていい?」

 ファフネーはそう言うと、返事も待たずにジムの隣に座りました。ジムはと言うと、いきなり美少女に密着されてとてもあわてているようです。

「ど、どうしたのさ急に?」

「ねぇジム、私が今こうしていられるのは、あなたが助けてくれたお陰よ・・・」

 ファフネーは、ジムにもたれかかってきました。

「そ、そうかな・・・?って、ちょっとくっつき過ぎ・・・」

「あなたがいてくれなかったら、私は、どうなっていたか・・・」

 ファフネーは更に身体を密着させます。ジムはその事に戸惑ってしまい、何も言えなくなってしまいました。

「それでね、私、何かお礼をしなければいけないと思うの・・・」

 ファフネーはそう言うと、ジムの顔を見つめます。彼は褐色の肌をしているのでファフネーには分かりませんでしたが、ジムは実は赤面していました。

 ファフネーは潤んだ瞳で、

「どうすれば、あなたに喜んでもらえるかしら・・・?」

そう言いながらジムに顔を近づけて行きます。身体を密着させているため、彼の心臓が早鐘の様に鳴っているのが分かりました。

(さぁ、切っ掛けは作ってやったぞ・・・。後はお前が欲望を解き放つだけだ!!)

ファフネーはジムに口付けをしようと、顔を近づけていくのでした・・・。


第三話 完

第四話に続く

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新ダークサイド・アリス 超虎太郎@KBI48 @fumiyoshimura

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