27「大衆の味」

「アン……大変なことになった」

「大丈夫。あたしはちゃんと聞く、だから落ちつこうよっ」

「ああ」


 俺は混乱していたようだ。話す順番が上手く整理できなくて話が何回か飛んでしまった。アンが『えっー!?』とか『ちょっとよくわかんなくなってきた。もう一回』そんな声を上げてくれたおかげか、今の状況を整理することができた。


「つーまーりー。あたしたちがするのはおいしいラーメンを作ってみんなに幸せになってもらうってことでいい?」

「ざっくりしてんなー」


 今までの説明はなんだったのか。俺は思わず笑ってしまった。

 でも小難しいことは幼女王が手配したやつらがやってくれることは確かだ。俺たちの役目はうまいラーメンを作るだけでいい。


「ありがとな。意味のないことばっかり考えていたわ」

「もぉ~フドーはあたしがいないとダメなんだからぁ~」



  □   □   □   □



「テル―ジュンの街の食材を使ったラーメンという料理だ。まずは味わってくれ」

「ほう、これが王様が広めろとおっしゃった料理か」

「噂で聞いた麺料理とはかなり違いますな」

「この大量のスープ、どうやって食べればよいのやら……」


 国境の街まで大所帯で来て、俺は早速現地の食材を使ったラーメンを作った。とはいえまずはお偉いさんを納得させる品を出すのが先だ。スープは味噌仕立てでマイルドで万人向けのラーメンで勝負だ。邪道だがフォークとスプーンで食べてもらう。

 匂いでこれはと思ったのか皆スープから手を付ける。


「「「!!」」」


 一度スープを飲むや、ズズズっとひたすらラーメンをすすり、スープを飲むを繰り返す。

 完全に落ちたな。

 揃いも揃ってはふっはふっ食べやがって、久しぶりにラーメン屋に戻ったって感じだぜ。


「これは素晴らしいっ!」

「この肉はなんだ!?こんなうまい肉食べたことないぞ!」

「その肉はカシヤギのあばら周りの肉です」

「聞き間違いか?カシヤギだって?」


 ざわざわと騒いでいる。無理もない。カシヤギは流通する肉の中でも安く、パサついている。肉もあまりついていないし、あまりうまくないからあばら周りの肉なんて一生懸命取ろうとしないで捨てることもある。


「蒸した後、数種類の香草で煮込みました」

「本当にそれでこんな味になるのかね?」

「肉の調理法は手間はかかりますがちゃんと再現できるやり方ですよ」


 今回はハーブの匂いが気になるから味噌仕立てにしたが混ぜそばやパスタにすれば十分レシピとして再現できるはずだ。

 次は庶民にも振舞わないとな。


「三丁あがったよ~」

「よしきたっ」


 屋台の前には行列ができている。なんといってもタダだからな。


「うまいっ」

「初めて見る食べ物だぁ~でもおいし~い」


 あの子供尻尾をブンブン振ってやがる。いいねぇ、やっぱこういう風にお祭りぽいとテンション上がるじゃねーか。列に並ぶ人々もワクワクした様子で食べる姿を見ている。

 ずっと貴族やらなんやら肩肘張ったやつらばかりに食わせてきたけど、俺はやっぱこういう空気が好きだ。ラーメンは大衆の食べ物だ。俺は根っからのラーメン屋だな。


 仕込みはたっぷりしたつもりだったが無くなってしまった。なにしろ街の人間ほぼ全員が来たんだから。

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