26「純血派の反乱」
幼女王はいい王様だ。
よく話を聞いてくれるし、気が良い。
それに俺の見える範囲で言えば己の欲よりも民たちの生活を良くすることに関心がある。
料理の研究という名のもとにラーメンの研究もさせてくれるしな。
すっかり護衛のいる生活にも慣れ、今日も元気にアンと研究の日々を過ごしている。
「フドー、王がお呼びだ」
「ん?料理研究の報告は一昨日済ませたばかりだぞ」
もうこの国に来て一年が経とうとしている。だがこんなイレギュラーなことは初めてだった。
「近くに寄れ、聞きたいことがある」
「なんでしょう?」
「テリュス・ヒロン伯爵家にいた頃に『純血派』という言葉を聞いたことがあると言っていたな。思い出せることをすべて話してもらうぞ」
「なにか……。いえ俺が分かる範囲でしたらお話します」
とはいえ俺はただの料理人として屋敷で働いていただけだ。前に話したことを繰り返して言うことしかできない。貴族の名前は中々に長くかなりうる覚えだった。
「グスマン家、パチェコ家、ララ家この辺りの名前を聞いたことがないか?」
「グスマンとララの名なら聞いたことがある気がします!」
「やはりそうか……」
「一体なにが……?」
幼女王は何度か俺に事情を話そうか迷ったが結局口を開いた。
「そういえばお前は異世界人であったな。意見を聞かせろ」
聞かされた話は隣国の派閥の枠では留まらなかった。この大陸には千年以上昔、人間種の大国があり、そこに獣人種が攻め込み国を作った。結果大陸は混血だらけになった。滅ぼされた国の末裔が家を興し、純血主義を隠し持った。何百年後、国を超え純血主義同士が交流、純血派を作ったことが始まりだそうだ。純血派の貴族は把握しているだけでも二十に届くという。
「ナバラ皇国で大規模な反乱が起きておる。国はそれを鎮めようとしているが上手くいっていない。なぜなら反乱が起きている場所の領主が仕組んだからじゃ」
「なぜそんなことを?」
「ここで先程の純血派の話に戻る。そこの領主が純血派じゃ。その周りには多く純血派の家がある。こいつをどう思う?」
「……素人考えですが派手に動きそうですね」
「わらわたちも同意見じゃ。ここを皮切りに大陸中で反乱が起きるであろう。例えばナバラの軍が大きく動いてその隙に乗じて他国の領が国の命令を無視し攻める。そんなことを各地ですれば混乱を極めることになる。仕掛けた本人たち以外はな」
「(ゴクリっ)」
「幸い、我が国にそんな裏切者はおらんようだ。しかし大陸が混乱すれば我が国も少なからず影響を受ける。しかしできることはある」
「!」
「戦が長期化すれば食糧不足となるであろう、準備をしてなければなおさらだ」
ここで食べ物の話かよ。
「お前のおかげで農作物の収穫量が上がり、食べれるものが増えた。食料の備蓄は例年よりもはるかに多い。他国に食料を売っていいと思うか?」
「予備を含めず余っているのであれば売ったほうがいいと思います」
「うむ」
なにやら更に考え込んでいる。心当たりがないが他になにかあるのか?
「ラーメンだったか?」
「は、はい(いきなりラーメンの話!?)」
「スープが美味く、麺のおかげで腹持ちがいい、なおかつ色々な組み合わせがあるだったか?」
「はい、そうです」
「ならばお前が人間と獣人の絆の象徴となれ」
「ええっ!?」
「お前とあの娘でラーメンを作って国中を回り、民に作り方を教えろ。我が国は飢えと差別のない平和な国と喧伝するぞ」
「……なにが狙いなのですか?」
「難民の受け入れだ」
思わぬ大役を任されて立ち眩みがしそうだ。新しい獣人を排斥する国を作る前に獣人が逃げ込む先を作り兵士たちの士気を大きく下げるのが狙いという。中々に壮大な話になってきてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます