25「人々を救う料理人」
「いろいろ買ってきたねー」
「おう。金を払って運んでもらってな。日持ちしそうな奴は片っ端から買い込んだんだ」
市場に行った俺は元の世界で見たことのあるような食材は片っ端から手に取った。『食材鑑定』のスキルは良質であるかと苦みやえぐみなどを段階的に評価してくれる。スキルでは食べれないのに市場に並んでいるものもあった。それらは置いておきあまり一般に食べられない食材を試すことにした。
こうしてアンに手伝わせながらアレコレしていると昨日幼女王に相談した心配なんてないように思ってしまう。本当に今の関係は心地のいいものだ。
「フドーおやすみー」
「ちょっと待て話がある」
「じゃあ、あたしの部屋にいこっ」
護衛兼監視は屋敷の出入り口や周りを巡回している。二階建ての一階にもいるが二階には俺たちだけだった。部屋は別々だ。
あいかわらずアンは無防備だ。ラフで無防備な格好をしている女を前に思わず生唾を飲み込んでしまう。いやいかん、俺は話し合いをするんだ。まず料理の話、護衛の話、街の様子、そしてアンがリラックスできているかを聞き出した。途中俺の手を握ってくるのもよくあることだ。
「あのさ、アン。俺は不安なことがあるんだ」
「いいよ。あたしならいくらでも聞くよ」
まっすぐ見つめられると緊張する。でも言うんだ。
「アンが俺をオトコとして見てるかなって……」
「……」
アンはハッとしたような悲しそうななんともいえない顔になった。これはダメか……。
「ごめんな。俺はこんなこと聞かないほうがよかったな」
「フドーは悪くないよ。好きになったあたしが悪いのだからっ!」
「ん?」
「フドーは王様と何回も会うような凄い人でしょ?あたしなんかが一緒にいたらダメじゃん!」
「今俺のこと好きって言ったよな?俺もなんだけど」
「えっ……えっ?」
アンに抱きついた。世界で一番大好きだー。
アンはわんわん泣くし、俺は大笑いするし、しばらくまともに話なんてできなかった。
「好きだよ。アン」
「あたしも~」
ドアの前で足音がしたが俺たちがイチャついてると分かって引き返していった。
「ところでなんで抱きつくだけで好きって言ってくれなかったんだ?」
「だって~あの時はそんなに好きじゃなかったんだも~ん」
「それはそれで理解できんな」
アンは俺に家族的なものを求めていたらしい。だがそのうち男性特有のがっしりした肩幅、筋肉質な体を意識してしまった。それでアンの行動が変わらなかったから俺が混乱した。アンは恋愛経験や女同士の恋愛話がほとんどなかった。彼女がいたことがある俺のほうが経験があったが大きなすれ違いが起きてしまった。
アンが俺を意識したころは侯爵家に連れられたタイミングだったことも悪かった。不安で悪い方向に妄想が膨らむし、俺と二人きりで相談する機会もなかった。アンは暴走し、俺は大きな読み違いをしてしまった。
経験の少ないカノジョさんだ。焦らずにいろいろと教えていこう。
俺たちは久しぶりに同じベットで眠りについた。
□ □ □ □
「お久しぶりです」
「おう、その様子だと娘とは上手くいった様子だな」
「はい、おかげさまで」
「カカカっ」
一週間ぶりに会った幼女王はご機嫌そうに出迎えてくれた。王の執務といっても王国は議会があり、議員によって決定がされる。王様の仕事は議員や大臣の任命だ。三百年ほどは生きると言われる長寿種、その真価は信頼を得ることにあるという。
「細かい仕事なんざ信頼できる貴族に任せておけばいい。わらわという王が上に立つ限りホコリはそのうち見つかるんじゃからな」
「なるほど」
「まあ自慢は置いておいて頼んでいた仕事を見せてもらうか」
「お手柔らかにおねがいします」
俺は料理を出した。厨房を使うので最近はアンも料理ができるようになってきている。今回作った料理はこの世界にはない、醤油や味噌も使っている。スキルのレベルが上がり醤油や味噌は様々な種類のものも出せるようになった。できるだけシンプルな料理に仕上げたがこの世界の誰も食べたことのない特別な品に仕上げたつもりだ。
「こ、これは……」
毒見役が驚いていた。マズいと有名なモンスターの肉や道端に生えている雑草が材料とは到底思えない見た目だからだ。俺が説明した後、恐る恐る口にしたがあまりにもまともな味に驚いてしまった。
「普通に食えるではないか?本当に民たちが食べぬ食材で作ったのか?」
「間違いありません。例の調味料は使っていましたが材料はその男の言ったものが使われています」
「簡易的に作れるレシピも用意してあるだろうな?」
「もちろんです」
「なら民たちに広く伝えるがよい」
俺が挙げたレシピは二十あまり、その代わり下処理に時間がかかるものが多くあった。食感が悪いものはすり潰す必要があるし、臭みのあるものは火の加え方が特殊なものもある。それでもこのレシピは人々を救う光となるだろう。
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