23「稀人」
「このパスタとやらうまいな」
「それはそれは、ありがとうございます」
って感じで今頃タヌキ親父は媚を売ってるんだろうな。俺たちは王城に何人かの従者の一人として入ってきた。厨房はデカかったが侯爵家とそこまで変わらない感じで調理ができた。このまま俺たち貴族にメシを作り続けるのか?
「おい、フドーついてこい」
「はいはい」
その辺貴族だらけなので侯爵家の使用人くらいじゃビビらなくなってきた。また廊下をぐるぐる回り、何人も人を経由して場内を進む。
ん?俺だけ部屋に通されるのか?部屋にいたのは幼女王だった。
「フドーといったかの。パスタとやら大変美味であった」
「ありがとうございます」
タヌキもいないし。いきなり王と会うなんてどういうことだ?途中からは侯爵家の使用人はいなくなるし、状況がよくわからん。
「こうして面と向かって話す場を設けたのはいくつか聞いておくべきことがあったからじゃ」
「……なんでございましょう?」
「うむ。お前稀人か?」
「すいません。マレビトという言葉を聞いたことがないのですが……」
「うむ」
幼女王は俺の目を覗き込んだ。顔はかわいいが話が本当なら百年以上生きているんだよな。俺は心臓に触れられてる感覚を感じてしまった。
「嘘は言っておらぬな。質問を変えよう。お前は別の世界から来たのか?」
「!?」
嘘を見抜くことができるのか下手に誤魔化すと命が危ないかもしれない。スキルのことをツッコんでこないことだけ祈ろう。
「稀人とは異世界人のことだ。異世界人はユニークスキルを持っておる」
「過去に何人かいたんですか?」
「昔会ったことがあるのじゃ稀人に」
「どんな人かお聞きしてもいいですか?」
「おい、貴様調子に……」
護衛が止めに入った。俺が普通に会話したせいだろう。しかし幼女王はその護衛の行動を手で制した。
「あやつは竜殺しじゃった。竜どころか国を滅ぼせるほどの力を持った超越者じゃ」
「……」
「別に凶暴で暴走する奴ではなかった。英雄として迎えられたやつはペラペラと己の出自について話したよ。なにしろわらわはこの通り、かわいいからの。酒も入って油断したのじゃろ」
「この国の人間はその人を脅威に感じなかったのですか?」
「もちろん脅威に感じたぞ。だからこそ招いた。当時は戦乱の世だったからの。わらわはまだ王ではなく貴族の一員として宴に参加した。そしたら思いのほか気に入られての」
幼女王は懐かしい目で宙を見ていた。
「その人とはそれから交流は……」
「いや、すぐにこの国を出て行ったぞ。この先が聞きたいか?」
「はい」
「あやつの死因は病気じゃ。最後に会ってから十年ちょっとで死におった。ユニークスキルとやらも病気には効かぬらしい。あやつは大陸の脅威じゃった。いくつもの国から暗殺者を送られ、時には罠に嵌められた。それでも十年以上生き残ったのじゃ」
「死ぬ前に会いたかったのですか?」
「……そうかもしれんな。不思議なやつだった。わらわが未来の王と知っても恐れなんてものは持っていなかった。それに時々阿呆じゃったしな。そんな阿呆の話は不思議と笑えて今でも覚えておるんじゃ」
幼女の姿をした目の前の女には思うところがあるようだ。王の座に就いて長く自由な時間がなく、友達はいない。だから一度会っただけの男が距離を縮めたことが記憶に残っているのであろう。
ところでご用件は?とは流石に聞けないな。あちらからしゃべり出すまで待つことにした。
「……ああそうだった。本題はユニークスキルのことじゃ」
「はい」
「これ以上隠している能力はないか?」
またもやじっと見つめられる。隠していると見破られる可能性がある。それにこの王様にはなんとなく話した方がいいと思った。
「俺は調味料を作ることができます。元の世界の調味料です」
「ほう。詳しく話せ、内容次第では守ってやるぞ」
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