18「ジェノベーゼソース(改)」

「ありがとー」

「アンちゃんまたくるねー」

「フドー、お客さんいっぱい来るね」

「ああ、順調な滑り出しだな」


 この街の屋台は商業組合に届けを出して一か月周期で場所を入れ替えさせられる。売り上げの見込める場所を独占させないための配慮だ。俺たちは周りの屋台の人たちに挨拶して回り、とあることをした。

 それは孤児に銅貨二枚を渡して道のゴミを拾わせたこと。これには周りの人間が驚いていた。孤児はそこまで汚くないやつを選んだ。客が引いたらまたゴミ拾いをさせるつもりだ。


「おなか空いたからパスタ食べていい?」

「いいぞ。せっかくだから周りの屋台の人たちにも配ってきてくれ」

「はーい」


 パスタの値段は焼き魚の二倍、その値段にも関わらず看板娘と周りで売ってるものとの差で思った以上に売れた。腹が膨れたアンに夕方に向けてパスタを打てと言ったらギャーギャー言ってた。予備のパスタが少なくなっていることを全く気にしとらんな。

 狙い通り、周りの屋台の人間はパスタに興味を持ったようだ。アンのパスタを打っている様子をマジマジと見つめる人間が何人もいた。



   □   □   □   □



「ほへぇ~二週間もしないうちにパスタを出す店が出るなんてね~」

「勉強熱心なもんだ」


 どうやらただのパクリらしく俺の店に比べて全くうまくないらしい。もうしばらくすればまともな品を出す屋台や店が出てくるだろう。まだまだだ。追いつかれて並ばれそうになったら新メニューを出すつもりだ。なぜなら俺の狙いは売上じゃないからな。


「おい、旦那。海風亭の新作パスタがすごいらしいぜ?」

「どんなふうにすごいんだ?」

「貝やイカがふんだんに使われていて老舗ならではのダシの効いたスープが絡んでいるらしいな」

「なるほどな」


 そんな原材料が高そうなパスタ、屋台じゃ出せそうにないなぁ。

 俺は秘密兵器を出すことにした。


「うっ、この緑色のソースは!?」

「うますぎるっ!具が小粒の貝とネニオンしか入ってないのになんでこんなにうまいんだ?」


 俺が持ち込んだ秘密兵器はジェノベーゼソース(改)だ。本物のジェノベーゼソースはバジルとオリーブオイルをたっぷり使って味を整えたソースだ。それを参考にソースを作った。現代に残ってるものなんて長い食の歴史で残ってきた歴戦の戦士だからな完全に破ることは不可能だろう。俺が苦戦しただけあってこのソースもまたまねるのは難しい。ハーブがかなり癖のあるものだからだ。


「あっさりと引き離しちゃったね」

「まあな」

「もっと頑張ってくれないと試作品七号が活躍するのは五年後とかになっちゃうよ~」

「まあこの街の連中は食に関しては熱心だからな。引き出してくれるさ」


 俺の狙いは麺文化の定着だ。俺一人がオーパーツのようにラーメンを作れば目立つがこの地域で麺文化が定着すればラーメンはパスタの亜種だと認識されるだろう。

 俺のパスタの試作はあくまでもラーメンのおまけでしかない。肝心の中華麺自体はかなり近いところまできている。アンも一端の麺職人になってきたことだしな。

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