16「念願の港町アベイロへ」
「明日か明後日にこの街を出て行こうと思う」
「えええええええ~~!!?」
「よかったら次の街でも俺と働かないか?」
「ええええええええええええ~~~!!!!?」
「にんにく入れますか?」
「!!!!????」
あっ、停止した。
「またパンに具を挟むの?」
「次の街では別のものを売ろうと思う。ようやく港町に行けるから食材をいろいろ見てから考えるな」
「今日の屋台の手伝いは楽しかったけど……」
「どうした?孤児院があるこの街から離れるのが嫌なのか?」
「ううん、時々は帰ってきたいと思うけどそうじゃないよ」
「俺についていくのは嫌か?」
「ううん、あたしなんかでいいのかなって……」
アンは自分が義足なことで引け目を感じているらしい。足をさすって表情に暗さがある。
「あーあ。そんな暗い表情じゃ看板娘として失格だ」
「っぷ。……なにそれぇ~」
「今日のおっさんどもの顔を思い出せ。お前が楽しそうに働いてたから俺は誘ったんだ」
「ふふふっ。もっと褒めてもいいんだよ?」
「そういえばカワイイって言われてガチで照れてたよな?」
「変なことは思い出さないでーっ!」
「わっはははー」
やはりアンといると楽しそうだ。明日乗合馬車に乗って次の街に行くかと聞いたら即答で行くと言われた。
「到ちゃ~く。フドー、馬車のお金出してくれてありがとね」
「おう、その分働かせて稼がせてもらうからな」
「がんばっちゃうんだからね~」
「それにしても港町に来たって感じだよな。風があって、独特の匂いがするし」
「たまに変な臭いもしてくるよね」
「そうだなぁ」
獣人というものはなにかの身体能力や感覚能力が高くなることが多いらしい。逆に言えばほとんどは普通の人間と同じ嗅覚を持っていることになる。アンは聴力だけ極めて高いらしい。ちなみに人間の多くは簡単な魔法が使え、その中でも一部の有用な魔法を使える人間を魔法使いと呼ぶ。黒狼の遠吠えのマムルは魔法使いだったな。
「宿を探して荷物を置いたら色々食べ歩くぞ」
「いえ~いっ!フドー太っ腹ぁー!」
奢るからな。いっぱい質問してやった。素人目線の意見というやつはなかなかに重要だからな。味以外にも食べにくさや店員の愛想の悪さ、客層、情報というものは無数にある。
「屋台で売っているのは魚や貝の塩焼きが多いな」
「串で差して売られているものばかりだね」
「食べ終わった魚が串と一緒にその辺に捨てられているな」
時々ものすごい臭って虫が集っているものもあった。それが気になるのは俺が日本人だからだろう。
「店に入るか、安すぎないで混んでいるところがいい」
「あそこなんてどう?」
「……大漁食堂?ここにするか」
「フドー!?字が読めるの?」
「読み方教えてやろうか?」
「勉強嫌いだからヤダっ!」
一年もこの世界にいるのだから読み方は覚えた。
「まあまあ安いな。壁に掛かっている料理の名前と値段が分からなかったらアンはどうやって料理を頼むんだ?」
「店員さんのオススメをお願いしてるよ」
「金をぼったくられたりしないのか?」
「ハンターだったからね。仲間といたからそこまで変な値段を言われることはなかったよ?」
「多分、ちょっと高くされてただろうな」
「……」
「おーい。獲れたて魚煮とそれに合う酒二杯と適当に三品くれ」
「うーす」
「あざーす」
アンは酒は好きだそうだ。ハンターというやつは荒くれものが多いらしく飲む機会も多かったらしい。
「マース煮みたいな感じか?」
「なにそれ?」
「気にするな」
沖縄料理でマース煮というものがある。海水に酒、薬味を入れ魚を煮る料理だ。昆布などでダシを取ることもあるがなくてもうまい。
「うまい。煮魚以外もいい味をしている」
「おいしいね。店員さんも元気で店の中も汚くないし」
「酒と合うなぁ。酒自体はそこそこなんだけどな」
「フドーってどれだけ舌が肥えてるの?あたしもっとおいしくないお酒ばっかり飲んでたんだけど」
「たまにならもっとうまい酒飲ませてやるよ。屋台の儲け次第だけどな」
一軒目から他の街と比べてレベルが高いな。しばらく夜は繁盛店を回らないとな。
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