15「パンに挟む仕事」
「よっ」
「おはおは~」
この宿は朝食が出ない。市場で食材を買って朝メシを自分で作ろうと宿に戻ってきた。そうしたらまたアンと出会った。
「偶然?それとも運命?」
「なんとなく俺も会うと思ったわ。朝メシ食べるか?」
「いいの!?」
昨日部屋に戻って思い付いたことがあった。そしてそれは面白そうだからやってみように変わった。
「アン、そういえばお前今日は暇か?」
「えっ。……仕事見つけないと」
「約束はあるのか?」
「ないよ」
「じゃあ俺の屋台手伝え」
「ええっ!?」
俺はアンがうまそうに食べている料理を指さした。心配するな給金も払うぞ。
「俺が肉を焼くからお前はパンに挟む仕事をやるんだ。客にそれを渡せ」
「あたしろくに料理なんてしたことないよ!」
「大丈夫大丈夫。挟んで渡すだけだから」
今日はいつもの麦粥じゃなくサンドイッチを売ることにしてみた。この街で売られているパンは硬いがそれはそれで具を工夫すればうまいサンドイッチができる。
「あれ?今日はいつもの粥じゃないのか?」
「まいどっ。今日は試しに別のもん出すことにした。安くするから買ってっておくれ」
「まあ、兄ちゃんが作るならうまいだろな。ところでこっちのかわいいお嬢ちゃんは誰だ?」
「いらひゃい……ませ……」
噛んだな。
「うちの看板娘だ。カワイイだろ?」
「兄ちゃんうらやましいねえ~」
「カワイイ……」
常連のおっちゃんはその場でぺろりと食べて、うまいっと言った。
「なんで今までこんなうまいの売らなかったんだよ!?」
「それは看板娘がいなかったからだな」
「職場の奴らにも配るし、俺ももう一つ食いたい。八個……いや十個くれ」
「まいどっ」
俺は肉が冷めすぎるのを嫌い、作り置きをしていない。肉は炙る程度まで焼いてあるが炙り終わったらすぐに挟まないといけない。
「あっっつ!?」
「素早くやらないとやけどするぞー」
「なかなかお嬢ちゃんが慌てる姿は楽しいな」
食欲以外の需要も満たせたようだ。サンドイッチは市場に大きな葉が売られてたのでそれで包んだ。パンが硬くてあまり湿らなく、葉自体も香りが良いので最適だった。サンドイッチを十個紐で縛って渡した。
「お客さんを前にすると慌てちゃうよぉ~」
「アン、上手くやれてたぞ。やっぱ俺だけが接客するよりもいいな」
「え~うそぉ~?」
よしよし、いい感じに乗せれてる。今回はノリでやってみたが以前から考えていたことの一つではあった。俺は調理で忙しいときは顔が怖いらしい。日本ならラーメン屋にそこまで愛想を求める人間はいないだろうけどこの世界ではそうもいかない。だから屋台ではその場であまり手を加えないものを売っていた。
「こっから本番だぞ、昼時だからどんどん客がくるぞー」
「えっ~!?」
忙しいときにも笑ってられるのは俺にはない才能だ。手つきは危なっかしいほどでなく表情は慌てた様子のアンはおっさんどもから温かい視線を送られていた。
「おまたせにゃっ!!」
「ホントに兄ちゃんのコレじゃないの?」
「小指を立てるな」
「フド~手伝ってよぉ~」
「俺は会計と次の肉を焼くので忙しい」
「え~っ!?」
テンパった時に語尾に『にゃ』ってついてたから待たせたと思ったら付けとけって言っておいた。おっさんどもは大喜びだ。屋台越しなこともあるがアンが義足なことには誰も気づかなかった。俺は次の街でもアンに一緒に働いてみないかと聞いてみることを決めた。
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