14「もらい泣き」
「アン~。その足どうしたの~?」
「痛い?」
「今は痛くないよ。これはね、ハンターの仕事を失敗しちゃったんだ……」
アンは気丈に振舞おうとしてたのだけど、うずくまって泣き出してしまった。子供たちも一緒になって泣き出してしまった。炊き出しは終盤だったので偶然にも孤児院の関係者しかいない。
「騒がしくしてごめんなさい」
「「「ごめんなさい」」」
「アンが戻ってきただけであたしはうれしいわ」
依頼人のヘッジという男はそれを見て泣きだしてしまった。時間差でもらい泣きかよ。アンは二十歳前の娘、ヘッジは二十歳過ぎ、境遇の近さで自分と重ねてしまったのかもしれない。
「アンはこれからどうするの?」
「まだなにも決まってないよ。今日は孤児院のみんなから力を貰いたくて来たの」
「子供たちはすっごい元気でしょ?泣くのも笑うのも全力だもの」
何人かの子供たちが遊び始めた。アンの周りにいる子供もソワソワしている。
「大丈夫だよ。遊んできな」
「「わあああああああ」」
「やっぱり元気ね」
アンは俺の方を向いた。
「ありがと。お粥おいしかったよ」
「そう言ってもらえると料理した甲斐があるよ」
「おーい。あたしも入れてぇ~」
「おやおや。あの子はいくつになっても子供だねぇ」
アンは義足とは思えないくらい元気に子供たちと遊んでいる。この調子ならアンは大丈夫だろう。仕事を終えた俺は宿に戻った。
「「あ」」
「昼間のお粥の人っ!」
宿でばったりとアンに出会った。俺は落ち着きたいから個室のある宿に泊まるのだがこうして偶然知り合いに会うことは珍しい。俺はトイレで部屋から出て戻るところだ。アンも部屋に戻るところらしい。気になって見ているとどうやら足が傷むようだ、辛そうな顔をしている。
「なあ、手を貸そうか?」
「……っ、甘えさせてもらってもいい?」
彼女に肩を貸して部屋まで連れていく。
「じゃあな」
「どうせなら部屋でちょっとだけお話しない?」
「お前なあ……」
危機感が無いと説教をしようとしたが俺も部屋に戻ってもやることがないことを思い出し言葉を引っ込めた。
「安い宿だから椅子もないしベットの上に座ってもいいか?」
「どうぞどうぞ」
アンは猫のような耳と尻尾を持つ獣人だ。昼間彼女は猫のように元気で人懐っこい笑顔だったが今は痛みで辛そうだ。きっと不安だから俺を部屋に招いたのだろう。
「辛そうだな。足を見てもいいか?」
「……オススメしない。気持ち悪くなっても知らないよ?」
「見るぞ」
彼女の足の傷口は塞がっているが義足があまり良くないのか直りきらないうちに義足で歩いたのか赤く腫れて少し形がいびつになっていた。俺は素人だからな、治療はできない。
「ちょっと待ってろ」
「えっ?!」
俺は部屋から出て行きあるものを持ってきた。
「冷やすぞ」
「ひゃ!!?」
最近屋台がアップグレードし冷凍庫が付いた。それで作った氷を布の袋に入れて腫れている部分に当てた。炎症は冷やす、応急処置の基本中の基本だ。最初はうろたえていたアンも段々と楽になったのか余裕が出てきたようだ。
「ありがと」
「なにかの縁だからな。気まぐれだ」
「やっぱり孤児院に来る人はいいひとが多いなー」
「なんだそれ」
たしかにヘッジの依頼を格安で受けたのは俺だから間違ってはいない。アンは見たままのキャラのようで楽しそうにおじゃべりを始めた。孤児院にいた頃の思い出、ハンターになったときの苦労話、辛い思い出だったはずの足を失ったときの話も笑い飛ばすように話した。俺は彼女のマシンガントークに頷き続けた。
「ところで……名前なんだっけ?」
「いまさらかよっ!?……フドウだ」
「フドーだね。今度はフドーの話聞かせてよ?」
「ああ、いいぞ」
病人には優しくなるって言うがホントだな。どちらかといえば不愛想な俺は目の前の女の子を楽しませようと話を盛ってこの世界に来てからの思い出を語ってやった。
「なるほどねー貴族さまのお屋敷が焼けてるのにその騒ぎに乗じて逃げるなんてわっるいなぁ~」
「バカやろう。なにもしてないのに怪しいだけで殺されるかもしれないんだぞ?何回あの場面が来ても逃げるわっ!」
「あははっ」
「ところで今更だが俺がお前のこと襲ったらどうするつもりだったんだ?」
「えっ~?そんなこと考えてたの~えっちだな~」
「逆に女ならお前はそういうことを考えろ!」
アンは笑って返事はしなかった。
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