12「新しい地にて」

「う~腰がいたい」

「そりゃあ何日も馬車で揺られてたら痛いよ」

「そうだそうだ」


 金にモノをいわせて乗合馬車でサエリセス王国に向けて進む。おっさんたちとは暇だからバカ話をして盛り上がった。昔見たうる覚えのお笑いをマネたら大ウケした。幸いなことにまだ俺は容疑者として手配されていないらしく門番や関所で連行されることはなかった。


「それにしてもあまりうまいメシはないな」

「田舎なんてそんなもんだ」

「旅の楽しみはこうして知らない誰かと話すくらいなもんだ」


 俺ほど急いで馬車を乗り継ぎ国外まで行こうとする人間はいなかった。三日もすれば見た顔はほとんどいなくなった。モンスターや盗賊には数回襲われたが護衛が仕事をしたおかげで無事サエリセス王国に入ることができた。


「ここまでくればもう安心か」


 一応国境の街から三日のそこそこの規模の街でゆっくりすることにした。もうそろそろ仕入れの金が割り込むところまで金を使っていた。おっさんたちと話す中で色々な情報を手に入れていた。初めての他国だったがそこまで戸惑うことはなかった。商業組合にはフドウの名で登録し直した。


「う~んこの感じなら周りの店がやっていない腹にたまるメニューにした方がいいかな?」


 俺は麦粥を屋台で出すことにした。ラーメンどんぶりで出すからちょうどいいだろう。汁物のいいところは安くて腹にたまるところだ。この街では職人やら大工、土木作業員が多い、昼間は特に売れそうだ。汗もかくだろうから塩気の強めな粥で勝負だ。


「おっちゃん、麦粥はどうだい?」

「あ~ん?そんな食べ応えのないもんじゃ昼から力なんて出ねーよ」

「まあまあそんなことは言わず食べてってくれよ。食べ応えがないなら金は要らないからさ」

「そうか。そんなに言うんだったら食べてってみるか、なかなかうまそうな匂いはしてるしなっ」


 客第一号を捕まえるのに成功した。やはり屋台は香りが肝心だ。食欲を誘う匂いはどんなセールストークよりも説得力がある。


「うまっ。なんだこれ?食べたことのない濃厚さだぞ」

「……」


 俺は客が思わずうなっても声なんて掛けない。ラーメン屋は出した品で語れば十分、うまかったかなんて横から言うのは無粋だと思う。


「あ~っ、うまくて腹にもたまって銅貨十二枚なら言うことなしだな」

「また来てくれよ」

「おうっ。工房に戻ったら同僚にも勧めとくわっ」


 初日はパラパラと客が入っただけだった。しかし噂が広がり三日目には鍋の中身が売り切れた。やはり隠し味の醤油のおかげだろう。これのおかげでずいぶんと味に深みが出た。それと肉だ。肉を焼いたあとトロトロになるまで煮込んだあんを粥に合わせることで食べ応えを出した。

 粥もそうだが水を一緒に出したのが喜ばれた。この世界の飲食店は水が有料だ。


「食べてくれた人の表情がラーメンを作っていた頃と一緒だ……」


 やはり俺はラーメンのことを思い出す。レベルが上がり味噌を作れるようになった。久しぶりに飲んだ味噌汁で思わず泣いてしまった。

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