けもみみラーメン――けもみみたちをたべものでビクンビクンさせる

10「テリュス・ヒロン伯爵家での生活」

「おい、新入り。仕込みやっとけ」

「うっす」

　長い下積み時代を思い出す。こっそりと屋台を召喚し、自分の包丁を出しておいたので仕込みはかなり早く終わった。仕事を押し付けた先輩たちはそんな俺が気に入らなかったようだ。

「おい、おっさん。伯爵様が連れてきたからってオレたちは特別扱いしないぞ！」

「そうだぞ。コレもやっとけっ！」

「うっす！」

　体育会系の世界ではひたすら頭を頷き続ければいい。しかし朝食が終わると立場は逆転した。

「おい、お前らいいか？」

「「「おつかれさまです、料理長っ！！」」」

「伯爵様からのご指名だ。昼食はタカシに作らせよとのことだ」

「「えっ？」」

「タカシは伯爵様が匂いだけで連れてきた料理人だから味を見てみたいとのことだ。味次第ではここの副料理長に据えると言っておられる」

「「副料理長……」」

　モブ料理人Ａ、Ｂが青ざめた顔でこちらを見ている。俺はとてもいい笑顔で微笑んでおいた。

「タカシ、俺たちに手伝えることはあるか？」

「今日昼食を摂られるのは伯爵様を含む五名なのですよね？それなら俺一人で十分です」

「そうか」

　モブＡ、Ｂとは違って料理長は仕事のできる男だ。朝早くから食材の下処理をやらせていたのでこの使い慣れていない厨房でも調理にそこまで時間は掛からないだろう。

「あっ、そうだ。伯爵様にお出しする予定のパンとワインを少し分けてもらえますか？今から作る料理が合わないといけないので」

「わかった」

　よし、これなら問題ないな。俺は調味液で肉を漬け込みそれを焼いた品をメインに決めた。あとはコースっぽくサラダ、スープ、前菜一品、デザートにプリンを用意する。横では料理長が非常に興味深そうに俺の調理を見ていた。

「いくつか俺たちでもできそうな料理があったな。味見をしたところどれも完成度の高い料理だった。伯爵様は本当にいい料理人を見つけてきた」

「ありがとうございます」

　料理長の太鼓判ももらったところでいよいよ本番だ。

「料理長ぉ～、ど～だタカ～シは？」

「素晴らしい料理人です。ルナイ様のご慧眼は見事というほかありません」

「そぉれはたのし～みだ」

　コース料理らしく順番に皿を運ぶ。そしてデザートのプリンを出した後、料理長と一緒に伯爵様のいる食堂に入った。

「まぁ、あなたがタカシね！！」

「デボラぁは。すっか～りタカ～シのファンだぁね」

「タカシー、おやつの時間はよろしくねー」

「全力を尽くさせていただきます」

　伯爵は怖いイメージだったが家族は明るい普通の印象の人たちだった。奥様や幼いお子様が興奮していたので彼女らが退出してから伯爵様の評定が下された。

「このとお～り、妻たちはタカ～シの料理や甘味に夢中でぇね」

　緩く始まった伯爵の話は頻繁に砂糖を使った甘味で金がかかりそうだとボヤき、しかし妻の機嫌が良くなるなら安いものだとダラダラと話を続けた。しかしこの伯爵の前では緊張なんて緩めることができない。

「と、まぁタカ～シをイジメ～るのはやめとこぉか～ね。合格だ～よ。特にメインのタレに漬け込んだ肉がすばらし～よ」

「あ、ありがとうございます」

「タカ～シの作れる料理の種類にもぉよるぅが……タカシの料理でのし上がるぅよ」

「かしこまりました、ルナイ様」

「えっ？」