8「タランコンの街にて」

「おにーさん、煮込み二人前ね」

「はいよっ」


 無事にタランコンの街に到着し、俺は屋台を始めた。この街はケンタルの町とは比べ物にならないほどデカい、千人近く住人がいるのではないだろうか。今は煮込み料理を売っている。なぜなら俺が持っている器はどんぶりだけだからだ。煮込み料理はワイン煮込みではなく、市場にある材料を工夫し材料費を抑えて作った。どんぶりは屋台をしまうと一緒に消えキレイにしてくれる、便利。

 旅の道中ノアと話していると、商業組合なるものがあることを知った。ノアは俺が組合に登録していると思い込んでいたので街のどのあたりにあるから行った方がいいと言ってくれた。俺が異世界人なのを話すのは流石にマズい。不自然にならない程度に誤魔化しておいた。


「おっ、今日の肉はとてもうまいな」

「しっかり味が付いている感じがするね」

「もしかしていい肉?」

「いや、下ごしらえがいいんだ」


 市場で新しいハーブを手に入れたのもあるがレベルが上がり、塩と酢が作れるようになったのが大きいだろう。酢を手に入れたことによりピクルスも作れるようになった。


「このゆで卵の酢漬けと交互に食べると酒が止まらんな」

「キューカンでこんなにハシが進むなんて思いもしなかったわ」


 相変わらずこいつらの食べっぷりは気持ちがいいな。尻尾をぱたぱた、耳をぴょこぴょこする姿はモンスターと戦っている姿とはまるで別人だ。箸の使い方もサマになってきた。まったくカワイイやつらだ。


「今日は市場に面白いものがあったからとっておきを用意してある」

「それってもしかして、甘くておいしいやつ!?」

「そうだぞマムル。プリンっていうんだ」

「プリンっ!」


 やはり甘味に喰いつくのはマムルだ。レンゲでツンツンとプルプルする表面をつつき、カラメルとプリンをすくい見つめている。周りが甘い、うまいと食べている中でもマムルは香りをかいでなかなか口にしようとはしない。


「マムル、うまいから食ってみろよ」

「おいしいのはわかってるよ。あたしなりにプリンを楽しんでるの」


 マムルの甘味に対する執着は相当なものだ。真剣な顔でプリンと十分間にらめっこした。ようやく食べ始めたと思ったら一口で感動のあまりに悶絶。そしてプリンを食べ終わる頃には悲しそうな表情を浮かべていた。


「……うん、余分に作ってあるけどマムルに全部やるよ」

「いいのっ?!!」


 マムルのお嬢ちゃん、五歳児くらいになってませんかね?みんな温かい目でマムルを見ていた。



   □    □    □    □



「まいどありっ」

「今日もうまかったぞ、兄さん」


 屋台は上手くいっていた。しかし普通の食材を使い、ハーブと塩と酢を少量の砂糖を上手く使うだけだ。周りの店よりも少しうまい程度の料理しか出していない。あくまでこの街の店で出された料理の欠陥を改善しているだけにした。

 心配しすぎかもしれないが目立つことでトラブルに巻き込まれ、自由に生きれなくなるのを危惧してだ。それと余分な金は持たず商業組合に預けている。


「ステータス。……なんでだよ!?」


 客が入りレベルは順調に上がっている。だが次こそは醤油が手に入ると思っていたのに新しく別のスキルができていた。『食材鑑定レベル1』。確かに食材に詳しくなるのはうれしいけど、そうじゃない!俺は醤油が欲しいんだぁ~!

 この世界に来たときに持っていた調味料は使い切った。もちろん醤油もない。禁断症状が出る俺は根っからの日本人だからだろうか。

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