7「ユニークスキル」
「この四種類で具は大丈夫そうか?」
「大満足さ。助かったよ、アンタのおかげで客足が増えそうだ」
俺は今この町で一件だけある食堂で俺が考えた料理を伝えている。なんでこんなことになったかというとガリウスが何気なく言った一言がきっかけだった。ワイン煮込みを屋台でなく協会が運営する酒場で出すようになったところバカ売れ。裏方で作っていたのは俺だったがスタッフを増やし、レシピを数人に教えて俺がいなくても作れる体制を作った。
それを聞きつけたのは町のお偉いさんだ。ケトルにもいろいろあったらしいこれだけ派手に客が入ったのだから俺のおかげとバレた。そのおかげでおっさんに騙されることなく金貨1枚と銀貨50枚の報酬を受け取ることができた。お偉いさんが提案してきたのは食堂も繁盛させてほしいとのことだ。俺はこの町に固執する理由もなかったのでOKを出した。
「このガレットっていうのとてもうまいな」
(ガレット風だがな)
はじめはパンケーキを作ろうと思ったがやはり甘みがないとよくないと思っておかず系にしようと思った。そうしたらガレットがいいのでは?と思った。だけど食堂の鉄板はボコボコしてるから薄い生地は作れない。生地を厚くして濃い具を乗せたガレット風のレシピを考えた。四種類も具があれば十分だろう。
「儲けてるね」
「おかげさまで」
「ところで例の話の返事は」
「よろこんで受けさせてもらう」
大金を手にできるとはいえ商売敵を作るような提案をなぜ受けたのか。それは俺が黒狼の遠吠えから専属料理人の契約を持ち掛けられたからだ。専属とはいえ常に一緒にいるわけじゃないし、自分で商売をしてもいい。それといつでも契約を切っていい。そんな内容の契約だ。俺は色々な場所を回りたいからその申し出はとても魅力的なものだった。
「ところで最近タカシの屋台を見ないんだけど、どこにあるんだ?」
「ああ、これは秘密だぞ」
どうせ一緒に旅をするしノアには教えておくべきだろう。俺は目の前に屋台を出した。
「うわっ!!?」
「どーだ驚いたか?」
「ユニークスキル……」
「ユニークスキル?珍しいのか?」
「伝説級のスキルだ。タカシ、コレ他の人に見せてないよな?」
「一応周りに人がいないかどうか確認して出し入れしてる。でもこれ以上町に長居したら危なかっただろうな」
ケンタルの町は小さかった。調理をするのに屋台を出す方が便利だしこれからもこういう心配は付きまとうだろう。
「う~ん」
「どうしたマムル?もしかしてタカシの料理に飽きたのか」
「そうか……」
「違うのっ!」
今は黒狼のみんなと町を出て次の目的地まで旅をしている。
虎の子の調味料は別として、今まともな調味料は塩と砂糖とワインくらいしかない。ハーブの類も元の世界のハーブに近いものを使っている。それはこの辺りでは食用としてはなじみのないものだ。料理に幅がないと言われても仕方がないと思う。
「タカシのらーめん?っていう料理と比べるとどうしても今の料理が見劣りしちゃって……」
「「「あ~あ」」」
「えっ、えっ?」
「タカシにも事情があるんだからそこは言ってやるなよ。今の料理でも十分にうまいんだから」
「あっ、ごめんなさい」
「あー、なんだ。気を遣っててくれてたのは気づいてたけど自分から言うのもな……」
なんかめっちゃくちゃむずがゆい空気だぞ。
「あのラーメンの材料は奇跡的に手に入れたものなんだ。あれは今までの俺の人生で最高の一品だ」
「金貨一枚の価値があるほどのな」
「違いないね」
「ふふっ」
「でも俺はあの一杯を超えるつもりだ」
「「「おおおっ!!!」」」
「街に着いたらタカシの料理で酒を飲もうぜっ!」
「「「さんせー!!」」」
黒狼のやつらは本当に気持ちのいいやつらだ。俺はこの出会いに感謝している。
だが運命というやつは残酷だ。あんなにもすぐにこいつらと別れることになるなんて。
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