5「捨てる肉で絶品料理」

「絶対簡単には頷かんぞっ!」

「なにを言いやがんだコノヤロウ!」


 あれ?不穏な感じになってきたぞ。

 商売の後ろ盾が欲しくてガリウスたちにハンター協会支局長のおっさんを紹介してもらったら揉めた。どうやらその矛先は俺に向かったようだ。


「料理だっ!これから客に出す料理を作り、ワシを納得させてみろっ!」

「妥当だな」


 おいおい、ガリウスよ。俺にとってその課題はかなり辛いぞ。手元に残ったわずかな調味料は使えないから本当の意味でゼロから試作をして目の前のおっさんを納得させるモノを完成させんといかん。なにもないところから客に売って改良する方が遥かに楽だぞ?

 俺があれこれ考えているとノアはそれを察してか助け舟を出してくれる。


「支局長。タカシはこの街に来たばかりで伝手も何もないんだ。時間がそれなりにかかる」

「そうか。すぐに持ってこいとは言わんがワシの許可なく店は開くな。これでいいじゃろ?」

「ああ。ところでモンスターの肉が必要なはずだ。なんとかならないか?」

「タカシが解体作業を手伝うなら少しくらいなら譲ってやらなくもない」

「ありがたい。料理人としてできる範囲で手伝いをさせてもらう」


 ノア、ナイスアシスト。さすが頭脳担当、交渉のスペシャリストだ。俺はこの世界のことはなにも知らないのだ。なんとか機会も得られたし色々と手探りで試していこう。

 解体の作業場のチーフはテルさんという獣人だった。


「テル。この料理人のタカシに手伝いをさせてやってくれ」

「おう」

「よろしくおねがいします」

「おう」

「……チーフは口下手なんす。料理人なら骨を取り除いて枝肉にする作業やってもらうす」

「おう」

「「……」」


 勝手がわからないかと心配だったが手際がいいと褒められた。


「ところでこのゴミ箱に放り投げたのは捨てるのか?」

「そりゃゴミ箱すからね」

「じゃあもらっても問題はないか?」

「テルさんいいすか?」

「おう」


 俺担当の骨から肉を剥がす作業はそこそこでいいと言われてた。だから骨にはまだ結構肉がついているのだ。それと大きなスジもゴミ箱に捨てる。


「煮込み料理が作れるな」


 解体作業を抜けさせてもらい寸胴鍋にワイン、それとここには大量の塩があった。肉の下処理のために使うものなのだが仕入れ値で少しなら売ってくれるという。もらった肉に塩を刷り込みしばらく寝かしたのちワインを入れた鍋の中に放り込んだ。


「ワイン煮込みだ」

「「「おおおおおおおっ!!」」」


 ワイン煮込みは中々の出来だった。その匂いはワインをじっくりと煮込んだおかげで肉とワインと野菜が複雑に融合した濃厚な香りとなっていた。一同の反応も上々、お預けを食らった犬のように揃いも揃って尻尾パタパタだっ!

 解体作業は思った以上に面白く仕込みで抜けた以外はずっと解体作業をしていた。途中で腹ペコガリウスにメシは作ってるのかと急かされた。その時にはワイン煮込みは弱火で煮込み続ける段階になっていたので何ら問題はなかった。市場に売っていた根菜やハーブっぽい薬草も試しに入れたのでもしかしたら口に合わない人間もいるのではと心配もあった。


「肉を柔らかくなるまで煮込んでいるのか」

「ネニオンもキャロツもトロトロだねぇ」

「問題は味じゃろ?」


 いよいよスプーンですくい取って食べ始める。


「「「うめぇ……」」」

「うますぎるっ!酒が欲しいぞっ!」

「お?」

「おい、おっさん今認めたよな?」


 ここに居るのは黒狼のメンバーと支局長、解体場のスタッフたちだ。


「ぐぅ……こんな単純な料理で認めたわけじゃ……」

「でっかい声でうまいって言ってたじゃないのさ?」

「もうひと品だっ!屋台でワイン煮込みだけを売るわけにはいかんだろ!?」

「ここまでの品だ。屋台じゃなくても協会の運営する酒場で出せばバカ売れだぜ?」

「しかも捨てるはずの肉でな」

「なにぃっ!!?」


 どうやらこのおっさんは俺が捨てる肉でここまでの料理を作ったことが気に入らないらしい。ゴネる理由ができて元気になったおっさん。この場の全員が怒ってくれたが結局話は平行線でもう一品作ることになった。ある意味この交渉力はすげーな。


「いいぜ、おっさん。次はぐうの音も出ないくらいうまいのを食わせてやるよ」


 どうせなら泣いて金を出させるほどのものを作ってやろう。これは俺とおっさんのケンカだな。

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