4「協力」
「三人とも満足してくれたようだな。お代を頂こうか」
「ちょっと待って」
「なんだ?」
待てと言ってきたのは黒狼のマムルと呼ばれた少女だ。
「ガリウスたちの様子はおかしいわっ!」
「マムル。俺たちは正気だ、一度払うと言ったものを引っ込めるなんてマネをさせないでくれ」
「……」
それなりに有名になると評判というのは大切にせんといかんからな。俺は観衆の目の前で金貨三枚を受け取る。俺も見習わねば。
「ほれっ、サービスだ」
マムルに残っていたスープを渡す。これで本当に品切れだ。マムルは香りを嗅ぎ、スープをすする。
「これはこの世に存在する味なの……?濃厚で後に引く、何度も飲みたくなる味……」
「なによりの誉め言葉だ」
金は手に入れた。さて人が集まっているこの状況、利用しない手はない。
「ところであんたらは黒狼の遠吠えだったか?俺はこの町でしばらく商売をしたいんだがさっきここに来たばかりの余所者だ」
「ほう」
ガリウスたちはお互いに頷き合っている。
「店主はあたしたちに口を利いて欲しいと?」
「そうしてもらえると非常に助かる」
「見返りにうまいメシを作ってくれるんだろうな?」
「もちろんだ。金貨までもらったからなしばらくは奢らせてもらうよ」
「「「いえ~いっ!!」」」
「黒狼だけずりーぞ!!」
「おい、さっき店主はここで商売をするって言ったよな!?じゃあ俺たちもうめえメシを食えるってことだよな!?」
「でもまた金貨一枚とは言わないよな?」
多くの視線が俺に集まった。
「……あ~今日の料理はかなり特別なものなんだ。しかしそれなりにうまいものをそこそこの値段で提供することは約束する」
「「「おおぉぉぉぉぉーっ」」」
相場をそこまで知らないからな、値段についてはボカしといた。実際の価格は仕入れをしながら決めるとしよう。
屋台を軽く片付けながらガリウスたちに今後のことを相談した。頭脳担当はノアらしい、ノアはまずこの街のハンター協会の支局長に紹介することを提案してきた。
「支局長はこの町でも偉い人物なのか?」
「会合で町長や商会長とも話し合いをするからそれなりに」
「なるほど。ところでハンター協会ではモンスターの肉も取り扱っているんだよな?安く仕入れることは可能か?」
「それはあなた次第だな。顔を売っておくことをすすめる」
「ところであんたの名前を聞いてなかったな」
ガリウスが横から会話に割り込んでいた。この街に来てから名乗ったのは数人、こいつらにはまだだった。
「タカシだ」
「変わった名前だな」
苗字を付けるとややこしいことになるのはすでに学んでいた。家名があるのは貴族だけで平民には名前だけを名乗るのを許されている、そういう世界らしい。
「ケンタル支局長のケトルだ」
「タカシです、よろしくお願いします」
ガリウスが紹介したおっさんはなぜか不機嫌。なぜだ?髭をたくわえ、白髪交じりの髪も相まってホンモノの狼のようにいかつい。睨むな、怖えから。
「おっさん、なんで不機嫌そうなんだ?」
「そんなもんお前ら黒狼がものすごくうまいもんを食ったと聞かされたからだろうがっ!!」
黒狼の連中はこんないかついおっさんのやっかみを前に平然と笑った。おいおい、ネコのケンカみたいに尻尾をバサバサしてやがる。見ようによってはシュールだぜ。
「めちゃくちゃうまかった!金貨を払った甲斐があったぜ!」
「この世の味とは思えなかったね」
「ここ最近で一番の衝撃」
「ぐぅ……本当に金貨を出したのか……」
おいおい、おっさんがイジられて涙目になってんぞ?最初の威厳はどこへ行った。
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