3「これは俺とお前のケンカだぜ?」
「こ、黒狼……」
「あいつ、黒狼の遠吠えのガリウスだぞ!」
どうやら有名なハンターらしい。金貨一枚、期待できそうだ。
「あたしらももらうよっ!」
「メアもかノアも食べるとして……マムルはどうする?」
どうやらガリウスの仲間らしい、彼らは獣人だ。しかし仲間なのにマムルと呼ばれた少女だけは人間だ。
「あたしはいい。三人で食べて」
「もしものときは頼むな」
ガリウスはニコリと明るい顔を浮かべていた。……おい、もしもって毒でも入れてるか疑ってるのかよ!?
「三人分で金貨三枚でいいんだよな?」
「……ああ、それで問題ない」
さっきまでの明るい雰囲気とはガラリと変わってガリウスからとてつもない圧を感じる。
「もしマズかったり大したことなければ……」
「もちろん代金は要らない」
「それが聞けて安心だ」
またさっきのようにヒトのいい兄ちゃんに戻ったようだ。長椅子に座り、あたりに漂うスープの香りと屋台の雰囲気を仲間と楽しんでいる。
さて、これは俺とお前のケンカだぜ?俺がのめり込み、四年間試行錯誤を重ねた一杯を味わわせてやる。
「おっ?その白っぽい糸みたいなものはなんだ?」
「これは麺だ。今から作る料理はラーメンだ」
「聞いたことのない料理だから、どんな料理か教えてくれる?」
メアと呼ばれた女性の獣人は興味深そうに茹でられている麺を見つめながら聞いてきた。
「スープにこの麺と様々な具を浮かべる料理だ。スープと麺の相性が重要だ、一度味わえば何度も味わいたくなる魅惑の料理さ」
「全く想像できないわね」
「難しいことはわからん、食ってみれば分かるだろ」
ガリウスとメアは騒がしく、他の仲間二人は静かだった。ノアは興味があるようでこちらの調理をじっと見つめていた。
「さあ仕上げだ」
温めた丼にスープを注ぎ、湯切りした麺を入れる。流れるように繰り返した手順、チャーシューを二枚、メンマ、ワカメ。
「ネギっていう少しだけ辛いやつは入れていいか?」
ノアの分だけはネギ抜きだ。
「完成だ」
「「「おおっ~!!!」」」
「これが金貨一枚の料理っ!」
「しかしあのスープだ。期待以上のもののはずだ」
三人の前にラーメンが並ぶ。
「どうやって食べるんだ?」
「「「……」」」
俺の屋台では金属製のフォークを用意している。三人にレンゲとフォークを渡すとその加工技術に驚いていた。
「何かの金属でできたザルといい店主はタダモノではないね」
「!!?」
はじめて喋ったノアはそんなことを言ってきた。俺が異世界人である手掛かりにしっかりと気づいているようだ。とりあえず誤魔化しとこう。
「あっ!そんなことより早く食べろ、麺がのびるだろ!」
「「……」」
スープを一口、それで俺の勝ちは確定した。
「……うますぎる」
「……」
「……」
メアがうまさのあまり、スープで手が止まってる横でガリウスとノアは慌てて麺を食べる。
「「!!」」
「なんだあいつら、なにかに取り憑かれたように必死に食ってるぞ!?」
「あんなに熱そうな大量のスープがどんどん減っているぜ?」
ラーメンの魔力にやられたな。二人は無言で麺とスープを交互に貪った。
「ちょいちょい具を挟むと変化があって面白いぞ」
「「!!?」」
すっかり魅了されてるな、全く手が止まる気配がねえ。野郎二人なのにケモミミがピョコピョコ動いてかわいく見えるぜ。
「さてノアの方は……」
「女の方も顔中汗だくになりながら貪りついてやがる……」
「あの黒狼の女狼がバカみたいに蕩けた表情してやがる」
「ふっ」
黒狼の三人はスープまで飲み干し、見事なまでに完食した。その余韻か脱力して気持ちよくなってやがる。ケモミミは寝てやがる。これぞラーメン屋冥利に尽きるってもんだ。
「まいどありっ!」
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