2「金貨一枚のラーメン」

 まずは屋台を引いて町の中をうろつくことにした。こうすれば宣伝の効果もあるだろう。計算通り、何人かに呼び止められて愛想よくあちらの質問に答えて食べ物屋をやろうと思うとアピールをしておいた。

 ちなみに本当に屋台で商売するのは問題ないようだ。むしろこの町でおいしい料理を振舞うことに関しては大歓迎らしい。よく見ると獣人(けもみみ)以外にも俺のような人間もいた。この町は都市の間にある行路上にあるらしい、だから建物の数の割に人がいるようだ。


「この辺ではどんな料理が食べられているんだ?」

「モンスターの肉ならハンターたちが大量に持ち込むから丸焼きや燻製だな」


 モンスター!ファンタジーの定番だな。


「家庭料理とかでは他になにか?」

「あとは煮込み料理やスープくらいじゃねーか?」


 低級のモンスターの肉はよく出回るし安く買えるらしい。料理人としてコスパのいい食材を探すのは基本だ。最悪でも安い肉を臭みを消したりやスジを取って使うことも考えておく。

 さらに話を聞いてみるとこの辺りでは調味料というものがほとんどないらしい。塩さえも贅沢品というありさまだ。塩抜きの丸焼きなんてまったく食いたくないな……。量は少ないが今持っている調味料があればしばらくは単価の高い料理を提供することができるだろう。


「問題はやはり金がないことだ」


 俺は賭けに出ることにした。


「金貨一枚だっ!それで至高の一杯を食わせてやるっ!」


 湯とスープを沸かし、ラーメンを出す準備をし終えた俺は行き交う人々の注目を集めた。


「おいおい、あんちゃん至高とは大げさじゃあねえか!?」


 さっきまで喋っていたおっちゃんが協力してくれる。金がないという話から協力くれることになった。


「そんなことはねぇ!このスープの香りを嗅げっ!断言する、王が食べる料理でもこれほど食欲をそそる香りのものはないっ!」


 狙い通り人が集まってきた。金貨は払う気がないが匂いだけならタダと思ったようだ。


「嗅いだことのねぇ匂いだなっ!」

「確かにいい匂いだ」

「いやいや、腹減った時の肉の匂いの方がうまそうだろ?」

「肉ほどのガツンとした感じはないかもしれんが焼けた肉とは違う香ばしさだ。これが気品のある香りってやつかぁ?」


 ここらでエサを撒かないと大物は釣れないだろう。紙コップを取り出し、鍋からスープを三分の一ほど注ぐ。


「銅貨二〇枚」

「「!!?」」

「高ぇ……!」

「でも、払えなくはねぇ」


 俺の狙いは更に人を集めることだ。人はすでに三十人ほどが集まっていた。何人かがスープを飲めばさらに噂が広がり、そのうち金が払える人物を連れてくるだろう。


「オレは買う」

「はいよ」


 これだけ人が集まれば試してみる人間はいるものだ。逆に言えばここまで集めたからこそ試す人間が出たわけだが。

 男の反応は上々だった。


「……」

「おいっ!どんな味なんだ!?」

「天上の味……」

「「えっ……」」

「こんなもん食ったことも飲んだこともねぇ。至高ってのは大げさじゃねえぞ……」


 生唾を飲む音が聞こえてきた。ここで追い討ちだ。


「この量だと……せいぜい十人くらいか。次は高い値を付けた奴に売るわ」

「「…………」」


 狙い通り火が付いた。勝手に競り始め、紙コップに注いだラーメンのスープが銅貨五十枚以上に化けた。騒ぎは人を呼び、いよいよ待ち人が来たようだ。


「店主よ、ここでは天上の料理とやらを食わせてくれるんだろうな?」

「もちろんだ」


 ハンターらしき連中がその現れた男に騒いでいる、狙い通り大物が釣れたようだ。

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