けもみみラーメン――けもみみたちをたべものでビクンビクンさせる
みそカツぱん
1「これは異世界転移ってやつか?」
「金貨一枚だっ!それで至高の一杯を食わせてやるっ!」
俺は今、生きるか死ぬかの大勝負を仕掛けている。
思い返せば二時間ほど前、俺は公園でラーメンを作っていた。
□ □ □ □
「さみーわ。やっぱここ一番の冷え込みだからか客足が鈍いな……」
独り立ちを決めた俺には金がなかった。友人に協力してもらい屋台を自作し、毎日公園に屋台でラーメンを売る、そんな生活をしていた。下積み時代に考えた大量のアイディアを色々試し、最近は行列ができる屋台になったのだがこの通り、寒さには勝てないようだ。
「しゃあねえ。あと三食だったから売り切りたかったが今日は撤退するか」
風邪を引いたらバカらしいからな。そう思い屋台を片付ける。屋台を引いていると車のヘッドライトらしきまぶしい光がこちらを照らす。しかしまだここは公園の敷地内、俺は危険はないだろうとそれを全く気にしなかった。
「は?」
さっきまで夜だったのに、なんで昼間になってるんだよ!?
「全く見たことのない場所だ……。アスファルトもねーし」
奇妙なことだらけなのにさっきまで引いていた屋台はある。流石に寝ぼけて変な所まで来たとは思えねー。
「——————」
「!!」
人の声だ。そちらをよく見たら屋根が藁で壁が木でできた小屋のような建物が何軒も並んでいた。怖いが近づかないことにはどうしようもない。俺は近づいてみることにした。
「嘘だろ……」
すぐに違和感に気づく。人の頭に獣のような毛でおおわれた大きな耳が付いていたのだ。理解できないものを見て俺は思わず隠れて腰を抜かしてしまった。
ここはファンタジーの世界か?……もしかしてこれって異世界転移ってやつじゃないか?高校生の頃ちらりと話には聞いたことがあった。あくまでマンガやアニメの中の話だ、自分の身に起こるとは思ってなどいなかった。
「あっ!!」
誰かが屋台に近づいてる!!赤い提灯は目立つし、和風の屋台に興味を持ったらしい。
アレは俺の命そのもの、見捨てるなんてありえない。とっさに体は動いていた。
「おっ?お前が店主か?」
「そうだ」
獣耳男には俺の言葉が通じるようだ。それに俺を見ても不信に思っていない。本当は緊張して少し声が上ずってしまったが相手は屋台の方に興味深々なようだ。
「これはなんの屋台なんだ?」
「ラーメンっていう食べ物を知っているか?」
「らーめん、聞いたことがないな。うまいのか?」
「ああ」
やぱりここは異世界なようだ。目の前の人物の獣耳は血が通った本物に見えるし、ラーメンを知らないと言ったのも嘘ではなさそうだ。
「ところでこの町で商売をやりたいのだがどうすればいい?」
「こんな小さい町だからなぁ。どこでもいいんじゃないか?」
「他の屋台や店から文句を言われないだろうか?」
「この町で屋台なんてやってる奴はいないし、メシ屋もつぶれそうなばあさんがやってる一軒だけだ」
「なるほどありがとう。でもまだ何も準備ができていなんだ。だから今すぐに料理を出すことができない」
「それは残念だな」
ふと最後まで残った三食分のラーメンのことを思い出す。あれならば火を入れて30分もせずに出せるだろう。
「あ」
金がない。そもそもここの通貨がなにで食べ物の相場が分からない。右も左もわからない俺が生きていくにはどうすればいいのか?
もしかしてこの三杯のラーメンを元手に商売を始めないと俺は野垂れ死ぬのではないのか?
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