10話.[変わらなかった]
「私、ひとつ決めたことがあるんだ」
部活をやっている彼女的に部活に集中する、というやつだろうか。
もしそうなったらそうなったで全く構わなかった。
やる気がないなら入部なんて迷惑をかけるだけだからするべきではない。
「やっぱり彼女になったからには毎日一緒に登校したいってね」
「つまり、俺に朝練の時間に合わせろということか」
「あー、そういえばそうだった……」
彼女は少しだけ考える素振りをしてから「じゃあ登校できるときは手を繋いで登校するのはどう?」と聞いてきた。
俺としては早く行くことになっても構わないから最初のやつを受け入れておく。
で、そのときにしたいようだったら手を繋げばいいだろう。
「というか、俺はてっきり部活に集中するとか言い出すと思ったけどな」
「私がそれをした結果、どうなったのか分かっているでしょ?」
「集中できなかったんだよな」
「うん、それに健也はもう彼氏なんだから離れ離れは嫌だよ」
「俺だってそうだ、だからそうやって言われなくてよかったよ」
時間をつぶすことだけは何回もしたことがあるから慣れている。
早めの時間に行けるのであれば汗臭くて迷惑をかけるということもないだろう。
ぎりぎりに通うことになるぐらいよりよっぽどその方がいい。
それに俺は静かな教室というやつが好きだった。
賑やかな空間も好きだから別にどっちでもいいんだけどな。
「そろそろ期末考査だからね、そのときは健也に迷惑をかけなくて済むよ」
「いや、俺は香澄といたいから気にしなくていい」
「そ、そうは言ってもゆっくりしたいでしょ?」
「合わせてもゆっくりできるぞ、放課後だって香澄が来るまでそうだからな」
そういう時間を使って真や杏奈と仲良くしてもいいかもしれない。
いまのままではどうにも不満があるみたいだからそれなら満足してくれるはずだ。
いやでも、本当に香澄ばかりを優先しているとか放課後以外はそういうこともないんだがな。
「そ、そっか、じゃああともうひとつ……いい?」
「おう、言ってみてくれ」
「思い切り抱きしめてほしいの!」
ばーん! と効果音が聞こえそうなぐらいには物凄く大きい声量だった。
そういえばそういうこともしていなかったと思いだしてそこそこの力で抱きしめてみたら「……言う前に健也の方からしてほしかったな」と言われてしまった。
「なんかいまの距離感でいられるというだけで満足できてしまったんだ」
「飽きないでよ?」
「飽きるわけないだろ」
これからも彼女がいてくれることを感謝しながら生きていく。
その点だけはこれからもずっと変わらなかった。
84作品目 Nora @rianora_
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