09話.[仕方がないこと]

「分かっているよ。やっぱり健也君も男の子だもんね、女の子ばかりを優先したくなってしまうのは仕方がないことだよね」


 意地でもそういうことにしたいみたいだった。

 教室では必ずと言っていい程、彼といるのにこれだった。

 ちなみに廊下で香澄や杏奈と話しているときに来ないのは彼なのにこれだから少し困る。


「ちゃんと一緒にいるだろ?」

「そうかな? 倉田さんといられないときは杏奈さんとだけいるよね?」


 それはどこの世界の俺だろうか?

 香澄との関係が変わってからは気をつけているつもりだった。

 杏奈もそのことを考えて必ず真を連れてこようとしてくれるから問題も起きないままでいるというのになんでなのか。

 もしかしたら所謂メンヘラ? というやつなのか?

 いやでも、男相手にそうするとは思えないからそういうわけではないよな。


「分かった分かった、これからはもっと行くからその顔はやめてくれ」

「うん、お願いね」


 そこで悲しそうな顔をするところが最高に彼らしいと言えるが。

 だからまあ、やっぱりメンヘラとかではなくて単なる寂しがり屋だというやつなんだろう。

 納得がいかなくて不満だということなら怖い顔をしていると思うから。


「なに面倒くさい絡み方をしてんのよ」

「杏奈さんはいいよね、勝手に健也君が来てくれるから」

「そう? 私が無理やり行かなきゃ話してくれさえしないわよ?」

「「酷い人間だ……」」


 酷い人間とは言うが、ふたりともすぐに来るから全く問題ない。

 俺は無視をするような人間ではないし、する必要もなかった。

 俺はふたりともいたいということをきちんと言っておく。

 それならもっと来いよと言われたら行くつもりでいる。

 香澄とは放課後にゆっくりすればいい。


「なんてね、私は相手をしてもらえているからそれで十分よ、健也のおかげで香澄という友達ができたのも大きいわね」

「僕だって健也君のおかげで杏奈さんや倉田さんと友達になれたわけだからよかったけどさ」

「ま、それでも色々なことを求めてしまうのが人間よね」

「うん、今回のことで自分がわがままなんだとよく分かったよ」


 俺だって香澄といつつもふたりといることを望んだわけだから同じだ。

 別にそのことで責めているわけではないんだから気にしなくていい。

 ちゃんと行くからこれからも相手をしてほしかった。

 これだったらまだ利用しているとは言わないだろうから精神的にもありがたい。


「あ、だけど倉田さんといたかったらそっちを優先してね」

「そうよ、変に遠慮とかしなくていいから」

「おう、そうするわ」


 それで文句を言われたことになるわけだが……まあいいか。

 香澄だけを優先しようとは考えていないから俺らしくいるだけだった。

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