第3話 婚
畑をやりたくて、この土地に来ましてね。
実際は畑だけで生活して行くなんてできなくて。
それでタクシーのお仕事も?
おかしなもんです。独りで自給自足が理想だなんて言ってたくせに。1年も経たないうちに…。
ん?
1年もたたないうちにひとりでいるのが嫌になりました。
え?
アハハハハ。アハハ、アハハハハ。
私達は庭先のすすきが揺れる景色を見ながら笑いあった。
マグカップを取りに来てもらってから私達は時々こうやって時間を共にするようになった。
恒川さんは 人の役にたってる気がしてタクシーの仕事は楽しいと話す。
私は誰かの役にたちたいなんて思わない。
母を看取ってから抜け殻のようになってしまった。東京のマンションを処分して、母が住んでいたこの家で母の残したものを片付けながらひとりでぼんやり暮らして行くつもりだった。
ひとりで片付けようと思っていたけれど恒川さんが手伝ってくれて。ダンボールを運んだり粗大ごみを運んだりしてくれて助かっている。
恒川さんの畑で取れた野菜をいただき、一緒に鍋を囲む事もある。
私達は独り者どうし、なんとなく気が合うのだった。
貫道さん、クリスマスはどうしていますか?
え?クリスマス?
うん。クリスマス。
何も。特に何もありません。
じゃあ、一緒に赤と緑のあれ食べませんか?
え? クリスマスカラーの? なんですか?
トマトとアボカドのサラダ とか?
いやいや、カップ麺ですよ。アハハ。
え? ?赤いきつねと緑のたぬき…。
なるほど。…って、どうして?
いい歳して照れくさいから。 ですかね。
照れくさい?
ぁ、あの。クリスマスを一緒に過ごしましょうって。いい年こいたおっさんが、普通に言ったらドン引きませんか?
なるほど。ドン引きますね。
でも。でも、ドン引かれても、言おうと思いまして。
恒川さんが真っ直ぐに私を見てそう言うので。
わかりました。うふふ、一緒にカップ麺食べましょう。私、お湯を沸かして待っています。
と、返事をした。
嬉しそうな恒川さんの顔を見ながら、私は
幸せな気持ちに満たされ。
多分この人とこれからの人生を共にする事になるだろうと思っていた。
年越し蕎麦も 二人で緑のたぬきを。
〔完〕
茶婚 モリナガ チヨコ @furari-b
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます