第2話 緑

駅ビルの100円ショップで偶然にあの人に再会した。

あれから2ヶ月も経つというのに、私はあのうしろ姿を忘れていなかった。


あのう。すみませんが…。


あ、あの時の。


え?わかりますか?


ええ。赤い屋根のところで降りられたお客様ですね。


どうしてわかったんですか?


声でわかりますよ。


え?声で?


あ、はい。…、声でわかりました…。


ふふ。特技なんですか?


いいえ。…何故か覚えていました。

わたしのことは、、


ぁぁ、髪型で。


いい歳したおっさんが、後ろの毛、縛ってるんですもんね。


いえ、そういう意味ではありませんよ。


あのぅ、車、大丈夫でした?


あはは、ぜんぜん大丈夫です。傷っていっても緑色のマジックでてんてんと

押さえちゃえばわかんなくなるぐらいのもんですし、車の裏ですもん。気にされていたんですか?


ぇぇ。なんだか、あれから気になっていました。


うわ、それは悪い事しちゃったな…。


て、いうか、マジックで塗ったんですか?


あはは、いいえ、そのぐらいのもんですよという例えで。そのままです。


私がぼんやりしてなかったら、戻る事もなかったのに…。


いやそんな。よくあることでしょう。どうぞ、本当にお気になさらずに。


私達はお互いに、この気まずい会話を止めなかった。

そして100円ショップを二人でうろうろしながら、なんとなく時間を共にしていた。

あの人が食器のコーナーでマグカップを手に取る。


これでいいか。


マグカップ探していらっしゃったんですか。


そう、、茶碗でもいいんですけどね。


ん?


いや。物をなるべく持ちたくなくて、食器を買わないで過ごしてたんですけどね。

発泡スチロールの丼じゃやっぱりちょっと不便でして…。


発泡スチロール?


ああ。使い捨ての…っていうか…。


はぁたしかに。余計な食器ね。困りますもんね。家にマグカップなんて捨てるほどありますもの…。私はため息をついた。


じゃあ、いただけませんか?


え?、もらってもらえるんですか?


はい。できたら、いただきたいです。


では、コツン のお詫びに。


ははは、だからそれはいいですって。



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