介護職員さんお嬢様についていく

 俺はどれくらい寝ていたのだ?スマホを探すために辺りを見回すと、俺の部屋だった。

 そうか、仕事の面接は夢だったのか......そりゃそうだあんな虫のいい話普通にある訳がない、ここは割り切って新しく仕事を探そう。


「その前にタバコでも吸ってから考えるか」


 昔はタバコなんて吸うもんかと意気込んでいたが、仕事のストレスに負け吸い始めたんだよなぁ......

 タバコはベランダで吸うことにしている、なんでもヤニが壁紙ついてその修繕費を取られるらしい、たまったもんじゃないので大人しく外で吸っている

 ガラスの前に立ち、戸を開けようとすると異変に気付いた。


「壁だ......窓の外ギリギリにコンクリの壁がある......」


 違法建築にも程がある日照権の侵害だと訴えれば問答無用で勝訴できるだろう


「目が覚めましたか?」


 そこに現れたのは四月一日雪だった


「あ、えっと、その」

「聞きたい事があるんですよね?すべてお答えしますのでゆっくりでいいですよ」

「まず、ここはどこですか」

「ここは私の家の一室です」

「じゃあ、次は......」


 こんな状況で混乱するなって言う方がおかしい、正直聞きたい事が多すぎて何を聞いたら良いのかわからない。


「大丈夫です、落ち着いてすべてお答えしますから」


 そう言うと彼女は俺を抱きしめゆっくりと背中をトントンっと叩き始めた


 この子は男にしてあげると嬉しがることを熟知しているのだろうか、これを地でしているならすごいもんだ、いや待て落ち着いてる状況か?違うだろ


「まず、今の俺が理解できる程度話してくれ」

「そうですね、はじめにこの前の面接であなたは見事採用されました」

「はぁ」

「そして、採用が決定した瞬間にあなたは気を失いました、きっと疲れていたのでしょう、急な環境の変化は精神的によろしくないので大崎さんのお部屋の間取り家具を再現したお部屋をご用意しました」

「って事は俺の住み込み用の部屋って奴か」

「そういう事です」


 なんだそのしたり顔は獲物を逃がさぬハンターのようじゃねぇか


「それにしても、俺の家を再現なんてしなくてもいいだろうに」

「その方が良いかと思いまして」

「何というか、お金持ちってのは考えることが飛んでるというか」

「それでは、お仕事のお話をしましょう」

「あ、はい」


 そうだ俺は仕事で来てるんだ、ゆるくやったら怒られるのも仕方ない


「まずは今日は私んの後に着いてきてください」

「え?それだけですか?」

「それだけです」

「もっとないんですか?」

「それは追々です」

「わっかりました」

「それでは今日は休日なのでお部屋の紹介からです」


 そうして、最初に連れてこられたのは雪様のお部屋だった

 俺も思うよ、何で下の名前で呼んでしかも様付けなのか、簡単だほかの執事やらメイドさんに示しがつかないかららしい、それに四月一日と呼んでもここには数人いるから区別がつかないからだ


「ここが私のお部屋です」

「いや、これは立派なお部屋で」

「本当は一回りか二回り狭くてもいいのですが、お父様が小うるさく」


 部屋の中にシャンデリアがある、こんなの某金持ち姉妹でしか見たことないよ


「そしてここが食堂です」

「これまた大きいですね」


 これ、何畳あるんだ?二十メートルはあるだろう


「みんなで食事をしますから」

「ご両親とも仲が良いんですね」

「いえ、メイドや執事コックの皆さんと食べるのでこれくらい大きくないと皆さん入れないんですよ」

「なんて言うか......」

「お金持ちのすることは?と言いたいんですか?」

「そうですね、庶民なもので」

「生まれを卑下するものではありませんよ?私だって運よくこの家に生まれただけですから」


 そして、長く続いた部屋案内は最後の一つとなった


「見て回るだけでこれほど時間がかかると思わなかった」


 三時間だろうか、長かった別にいらないだろって部屋も多かったがきっと不必要に俺が部屋に入らないよにとの事だろう


「これで最後ですから」

「ならよかった」

「お父様の部屋です、一応注意ですが決して私がいない時に入ってはいけません」

「そうでしょうね」

「お父様は今回の雇用に納得がいってませんので」


 当たり前だ、いきなり若い男を連れてき、新しい介護士ですなんて言ったら卒倒ものだからな。


「お父様失礼いたします」

『入っていいぞ』


 おお、威厳ある重厚な声だカッコいいね


「こちら今日から私の介護士兼付き人の大崎雄一さんです」


 待って付き人は聞いてないぞ、でもそうか専属ならついていかなきゃならんしその方が雇いやすいか


「君がか」

「は、はい」


 逆光で見えないがとても圧がある人だ、縮こまってしまう

 そんな人物が俺に近づいてくる


「私は四月一日玄わたぬきげんだこれから娘を頼む」

「よろしくお願いします」

「それと、娘に手をだしたら生きれると思うなよ」


 わー怖い、うん本当に怖い、正直ちびりそうだ、安心してほしいのは元々手を出そうなんて考えてないのでモーマンタイ


「そんなの当たり前です」


 よし、ここはかっこつけておこうきっと好感度も上がるだろう


「用はそれだけか?」

「はい、お父様」

「なら行け、私も色々と忙しい」

「それでは失礼いたしました」

「失礼しました」


 さっさと俺はこの部屋から出たいからありがたいね


「どうですか?」

「どうって、厳しそうな人でしたね」

「何時もは優しいのですか、取引が上手くいかなかった時は少し不機嫌になられますね」

「いや、今のは取引どうこうじゃないと思うんだが」

「それからお母様も紹介しますね、今なら時間的にも余裕でしょうし、付いてきてください」


 俺に車椅子を押すようにジェスチャーをし言った


「お母様例の方をお連れしました」


 俺が連れてこられたのは書室だった


『入っていいわよ』


 うん、わかる声だけで美人だと


「雪ちゃんこの人がそうなのね?」

「はい」

「私は四月一日惟子わたぬきゆいこ四月一日家現当主よ」


 え?当主ってさっきの厳ついお父さんじゃなかったの?


「それであなたが雪ちゃんの介護士ね?」

「は、はい大崎雄一と申します」

「私ね男の子好きなのよ」

「はい?」

「本当なら男の子が欲しかったのだけれど、勘違いしないで?雪ちゃんもちゃんと愛情注いで育ててるから」


 え?なにこれ、よくわかんない


「つまり、この家に居る限り息子同然としてあなたを見るから」

「良かったですね、大崎さん」

「あ、ありがとうございます」


 この家族どうなってんだよ。

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介護職員さん退職してお嬢様を介護する 果実Mk-2 @kaji2

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