悪の華

 紅蜘蛛丸自身は、火竜でも風竜でも地竜でもない。彼は、暗黒竜と呼ばれる存在である。それは種族ではなかった。人間の大魔導士が自らをアンデッド化して幽鬼リッチになるのと同じように、竜は闇の魔力を極めることによって暗黒竜となるのである。暗黒竜になる前の彼はひ弱な風竜に過ぎなかったが、現在の彼には空を飛ぶ力はない。


 リコリス・ラジアータは逃走を図っていた。例の屍操術は魔力切れによって既に使うことはできなくなっていたので、馬に乗って鞭を当てていた。だが、一頭の風竜がそれを発見し、そして馬を魔法で射殺して、リコリスを捕囚とした。


 リコリスは紅蜘蛛丸の前に引き出された。竜は竜であり、そして彼女は魔族である。この世界の竜は人間の形に変身したりはしない。従って、彼らの間に行われる行為は、ただ純粋無垢な殺傷のみであった。


「ああああああ、がっ!」


 紅蜘蛛丸の口に咥えられ、リコリスはその身を引き裂かれて、そしてはらわたをその場にぶちまけた。紅蜘蛛丸はあまり食事の行儀がよくなかったが、大きな塊をその場に残すようなことはしなかった。


 そして、竜族は世界の支配者となった。


 それから十年ののち、次元のはざまから帰還した勇者シガンが紅蜘蛛丸の残されたもう片方の目を奪うことになる戦いが勃発するのだが、それはまた別の物語である。

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悪龍ベニグモ丸対女魔王リコリス・ラジアータ きょうじゅ @Fake_Proffesor

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