第2話 理科室でお昼ご飯

 俺と戸村は引退知らずの科学部だ。体育会系と違って引退時期がはっきりしない。籍は卒業まであるわけだから勝手知ったる理科室で、11月になった今でも自由に出入りできてしまう。が、ガスの管理は準備室でされていて、そこは顧問じゃないと開けられない。


 顧問、まさかの、準備室前に『出張中だから質問はまたね』なんて札を掛けていた。


「どうする?」


戸村に問えば


「こんな時のアルコールランプ!だけど、アルコールが入っているのが一つしかない!」


切り替えが速くて素晴らしい。三脚、金網、アルコールランプで、1リットルビーカーにお湯を沸かす。


「沸くのに時間かかるから、ギリギリ必要量だけにするよ。」


 そこ、メスシリンダーまで使って測る必要があるのか甚だはなはだ疑問だが、戸村はきっちり860ml水を測ってビーカーに入れていた。


「あっ、蒸発分」


 蒸発分と言っていいかげんに水を足すあたり本当、さっきのメスシリンダーいる?


 沸くのを待っている間に戸村の弁当を分けてもらう。美味しい。戸村のお母さんありがとうございます。


 かなりの時間を要してお湯が沸いた。


「もう、昼休み終わっちゃうじゃんかー」


 と言いながら戸村がお湯を注ぐと、激辛ニボから赤いきつねを凌駕りょうがする辛い匂いが立ち込める。俺がタイマーをセットする。4分。赤いきつねは5分だが、まあ、いいか。


「お前ら、何してんだ、来い」


 廊下から生物の先生が顔を出してきた。


「すみません。お湯が欲しくて。」


「勝手に火をつかうな!まあ、平原と戸村だから良いとはしても、他の生徒が真似したら困るだろ!」


 お怒りはごもっともです。でも、麺がのびるので、そろそろ解放して頂きたく。


「さっさと食べたら、片付けなさい。あと、あまり、匂いのするものはバレるから辞めなさい。」


 どうも、かほりのせいでバレたらしい。戸村と思わず顔を合わせてから、そう言えば、タイマーはまだ鳴らないのだろうかと振り返った。


 ………何故か科学部の一年生の佐田が赤いきつねをススっていた。


「先輩、これで辛さやわらぎますね。いい組み合わせです。激辛ニボ辛いっすもん。」


 激辛ニボはすでに空で


「あ、タイマーうるさいから消しときました。麺のびちゃうからいただいときましたね。あー落ち着いた。」


 キーンコーンカーンコーン。


 予鈴が鳴る。


「先輩達、授業どこっすか?俺、隣で生物なんすよ。じゃ。ご馳走さまでしたー。ゴミ捨てときますね。」


 俺と戸村は黙ってビーカー達を片付けて教室へ戻った。


 fin

   


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科学部男子のランチが『赤いきつね』だったなら 柴チョコ雅 @sibachoko8

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