冬の寒さに凍える貴方へ

高遠 彬

北風

突然、貴方を思い出しました。昨日のことです。思い出したからと言って、今まで貴方のことを忘れていたわけではありません。実際、忙しい日常の中で貴方を思い出すことは今まで幾度もありました。その度に虚しさと、悔しさ、喪失感が僕の胸中に津波のような勢いで入り込んできます。そしてそれを、いつものように苦々しい思いで受け止めています。ですが、昨日、貴方を思い出した時の感覚は、僕がこの一年間で経験してきたものとは比べ物にならないくらい凄まじいものでした。時刻は十九時過ぎ、日は暮れて、朧月が浮かぶ夜です。友人と映画を観に行く約束をしていたので、集合場所である豊島園に自転車を漕いでいました。やけに人通りの少ない川沿いの道を一人で進んでいた時です。突然、音も無く、ひんやりとした北風が半開きになったジャケットの合間から吹き込んできました。その北風には虚しさ、悔しさ、喪失感が纏わりついていました。北風が僕の体に染み込む間、脳裏には貴方の顔がぼんやりと浮かんでいます。その時の感情はこの先、忘れることはないでしょう。冬の始まり、僕にとってこれは痛みを伴います。冷たい空気に肌がさらされると、どうしても感傷的な気分になってしまうのです。これも、貴方と出会ってからのことです。僕はこの先の未来を、どのように生きていけばいいのだろう。こんなことを考えている時、隣に貴方がいたらどれほど幸せなのでしょう。それは、私には経験ができないことかもしれません。でも、それでも良いのです。信じる心さえあれば。

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冬の寒さに凍える貴方へ 高遠 彬 @Takoyakipan

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