第24話 連絡手段
その後俺達三人は、長谷川さんと一緒に小会議室に向かって長谷川さんに取り憑いた異次元存在の切除を行った。ついでに色々と話をしつつ、俵積田部長のセクハラについて聞き取り調査を行う。
そうしたら、出るわ出るわ。下世話な言葉をかけられるなんてのは言うに及ばず、股間を触られたなんて話もあった。これはひどい。
色々と話し、異次元存在も取り除かれてスッキリしたのか、長谷川さんは晴れやかな表情で席を立った。
「ありがとう、六反田、四十物さん。下唐湊も」
「いいってことよ」
「また何かあったら、遠慮なく頼ってくれ」
長谷川さんの言葉に、ひらりと手を振りながら六反田が返すと、俺もこくりと頷きながら自分の胸を叩いた。
何かあったら力になる、そう言ってくれる人が身近にいるだけでも、気持ちは変わるはずだ。ホッとした表情で息を吐く長谷川さんに、四十物さんが聞き取り内容を書き記したノートを手にしながら言う。
「いただいた情報は決して
「わかりました」
四十物さんの言葉に長谷川さんもしっかりと頷く。もし俵積田部長が告発されるなんてことがあったとしたら、この情報はきっと役に立つはずだ。
こうして、いろんな社員から情報を集め、外堀を埋めていくのが今の段階だ。日数に余裕はないが、少しでも俵積田部長の悪行を集められれば、いざという時に力になる。
と、俺達が顔を見合わせて頷いたのを見ていた長谷川さんが、怪訝そうな顔をして口を開いた。
「それにしても……四十物さんは総務部だから居るのは当然として、なんで下唐湊と六反田までここに?」
「んー?」
長谷川さんの言葉に俺はドキリとした。
その疑問も尤もだ。四十物さんは総務部の人間だからこうしたトラブル対応は通常業務だが、俺と六反田は開発の人間。こういう場に居合わせるのがそもそもおかしい。
少し考え込む表情をした六反田が、困ったように笑いながら言った。
「そりゃまぁ、あれよ。四十物ちゃん一人に対応させるのも申し訳ねーからさ、色々と根回しとか手伝ってるわけよ」
「な、なるほど……?」
六反田の言い訳を聞いて長谷川さんが目を見開いた。ウソをついているわけではないが、納得したような、していないような、そんな表情だ。
とはいえ、あまりこうして時間を使っているのもよくない。我に返ったように長谷川さんが会議室のドアノブを握る。
「ま、まぁいいや。それじゃ、俺は仕事に戻るから」
「はい、ありがとうございます」
四十物さんが小さく頭を下げるのに頭を下げ返して、長谷川さんが小会議室を出ていく。俺達三人だけになるや否や、時間軸をずらした六反田が息を吐いた。
「よし。これでとりあえず、長谷川ちゃんについてはOKだな」
「ああ、だけど……こうしていちいち一人ずつ、切除して話を聞いていくんじゃキリがないぞ」
六反田の言葉に、俺は眉根を寄せながら返した。
正直、俺達には時間がなさすぎる。あと数日でソリューション事業部の面々の異次元存在の切除を行っていく、なんてのは無理だ。いくら時間軸をずらせると言っても、俺達にだって通常の業務がある。
これからどうしよう。そう考える俺に、六反田がぺろりと舌をなめずった。
「まーな。だからこの先は、俺と四十物ちゃんの二人別々に切除に当たる体制で行こうぜ」
「別々……? じゃあ、俺は」
六反田が話した言葉を聞いて俺は目を見開いた。
確かに六反田と四十物さん、二人体制で切除を行ったほうが効率はいい。二人とも異次元存在相手の対応は慣れたもの、交渉と切除を一人で行うことは可能だろう。
だがそうなると、俺が何を出来るのか。戸惑う俺に、わらびが声をかけてきた。
「ご主人様も私も切除の技術には秀でていませんが、ご主人様はどなたがそうであるかを見極めることが出来ます。皆さんへのお声掛けは、ご主人様が行えばよいかと」
「そーゆーこと。キネスリスの言う通り、トソちゃんは該当者への連絡役だ。メッセージアプリ使って、俺や四十物ちゃんへの橋渡しをしてくれ」
わらびの言葉に六反田も頷いた。なるほど、俺はどの人が異次元存在に取り憑かれているか、その目で見ることが出来る。対象者の選別は簡単だ。
そして、メッセージアプリ。社内で導入され、社員の誰もが利用しているアプリの存在に、俺はポンと手を打った。
「あ……そうだよな、わざわざ直接声掛けなくてもいいのか」
「だな。直接声をかけるってなったら、なんでお前がこのエリアに居るんだって怪しまれもするだろ。トソちゃんが見れたままに声をかけられるのは利点だけどな」
俺が言うと、六反田も鼻の横を掻きながら話す。実際今日も、長谷川さんには驚かれてしまった。俺達はシステム開発部、システム開発部以外の開発部エリアにいるのはやはり不自然に映るわけで。
そこで、メッセージアプリで連絡を取れば自席にいながら連絡が出来る。そうすれば、怪しまれることもない。もっと早くこうしていればよかった。
納得できたところで、六反田がぽんと両手を打った。
「つーわけで、一旦ここで解散な。後の話はメッセージアプリでやろうぜ」
「賛成です。それでは、一旦お疲れ様でした」
「あ、ああ。お疲れ様」
六反田と四十物さんが俺に言いつつ、小会議室を出ていく。俺も追いかけるようにしながらわらびと一緒に会議室を出た。
会議室の前で二人と別れ、一人自席に戻る。六反田はタバコを吸いに喫煙室に向かうらしい。パソコンの前に座り、メッセージアプリのウインドウを表示させながら、俺は眉間にシワを寄せた。
「うーん……」
思わず唸り声が漏れる。腰から生えた猫の尻尾がゆらりと揺れた。そんな様子の俺を見て、わらびが念話で話しかけてくる。
「(どうしましたか、ご主人様)」
「(いや、な……ちょっと、どう言ったらいいか)」
俺も、視線をちらと向けながら念話で返した。
正直言って、俺は不安だった。実際に直接声をかけに行くのもそれはそれで不自然だが、メッセージアプリでの連絡というのも、それはそれで不安が残る。
「(わらび、ソリューション事業部の人に俺からいきなり心配するようなメッセージが飛んできて、違和感とか、ないかな)」
俺が不安になりながら念話を飛ばすと、俺の肩の上に飛び乗ってぽんぽんと叩きながら、わらびが返してくる。
「(今更ではないでしょうか? それに、明らかに目で見て異常なのが分かるのに、放置するというのもどうなのかと)」
「(まあ、そりゃあ、そうか)」
言われて、息を吐き出す俺だ。確かに今更の心配ではあるし、見えてしまっているのに放置するのもそれはそれで収まりが悪い。
気を取り直して、メッセージアプリの検索窓に名前を入れていく。確か一年後輩の
「(えーと、じゃとりあえず、小山内君に連絡をしてみるか……)」
「(頑張ってくださいね、腕の見せ所ですよ、ご主人様)」
小山内のアカウントを表示させ、様子をうかがうメッセージを送り始める俺に、わらびが尻尾を揺らしながら話しかけてきた。
ここが、俺の力の発揮どころだ。俺に出来ることを行うべく、俺はキーボードのエンターキーを押し込んだ。
真夜中に愛猫とキスを 八百十三 @HarutoK
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