魔物牧場、開設準備!

 氷狼アイスウルフはこちらを睨みつけながら低く唸る。

 群れはいなさそう。はぐれ氷狼アイスウルフが拾われたってところか。


 また飛びかかって来るのかと身構えたが、氷狼アイスウルフはその場でへたりこんだ。

 もしかして、コイツも?と思いつつ、残りの魔力で獣肉(らしき何かの肉)を作り、差し出してみる。


 氷狼アイスウルフは獣肉(らしき何かの肉)に気がつくと、ゆっくり近づいてきて匂いを嗅いだ。それから、問題ないと判断したのか獣肉(らしき何かの肉)を食べはじめた。やっぱり腹減ってたのか。


 こうなると、まずは環境の整備からになる。今のところこの3匹しかいないからひとまずは何とかなったものの、牧場というならその辺整えないと。とりあえず、足りないものを調べてからアダムさんに報告して、出来そうなものは整えてもらおう。


 一旦、手元のリストをめくって、白いページを開く。そこに、「魔物達の餌」という項目を、そこら辺にあった石とかで道具製作ったペンで書き込む。その後に、魚、木の実、獣肉とも付け加える。


「とりあえずやるかぁ」

『ピィ』


◆◆◆


 さて、そのまま徒歩でこの空間内を探索することにした……んだけども。

「お前もついてくるの?」

 振り向けば、氷狼アイスウルフ湖上馬ケルピーと同じくついてきている。そんなに腹減ってたの?いや、腹減ってたと言うよりかは、本能的に固形物を食べたかったとか?まあいいか。


 とまあ、そういうことは置いておいて。とりあえず、ここまで炭酸して分かったことを纏めよう。

 まず、ここにはこの3匹以外、確認できた範囲では今のところ生物がいない。魔力濃度が高いので、しばらくの生存には問題ないものの、魔物を沢山入れて世話するって言うなら餌にあたるものをある程度はこの空間内で生産できる方がいい気もする。

 次に、ここは様々な地形がある。小屋のある平原や湖と林をだいたい中心に、山や砂漠、浮島に海、雪原や氷海、踏み入れてないけどジャングルもある様子だった。


 で、最後に。ここ、とんでもなく広い。いや、広いにも程があるレベルで広い。段々俺も腹が減ってきたくらいには歩いたものの、まだ終端が見える気配がない。さっきの地形も、気合いで木を登って見回したものだ。多分空飛んだりしても回りきれない。移動手段が欲しい。


 ってことで、とりあえずアダムさんに用意してもらわないとなものも纏まった。餌と移動手段。まずこれに尽きる。

 とっとと報告に行くかー!とか思って気がついた。小屋どこ?

 小屋の中にある扉から、アヴァロン・キャッスルと行き来できる。だから、小屋に戻らないとなのだけど……いやここどこ?


 現在地は海岸。海の少し向こうに氷海が見える。ちょっと寒い。フードに入っている灰鳥グレーバードがあったかい。

 多分北側だと思うから、海を背に真っ直ぐ進めばいいんだろうから、とりあえず進んでいるけど。これ下手したら遭難しかねないな……。

「せめて湖の方まで行けりゃいーんだけど……」

 ひとりごとがこぼれる。進んでいるのだろうけど、あっているのかよく分からない。

 と、思っていると氷狼アイスウルフがすんすんと匂いを嗅ぎ始めた。それから少し前に立ち、ひとつ吠えた。どうしたのかと首を傾げたら、ちょっと唸ってからズボンの裾を引っ張ってきた。


「ついてこいってことか……?」

『ワン』

 氷狼アイスウルフに着いていく。湖上馬ケルピーものそのそとついてくる。



 すると、段々と見覚えのある景色に変わってきた。平原にあった草だ。

 凄い。魔力を辿ったか臭いを辿ったかは分からないけど、凄い。

「凄いな……」

 氷狼アイスウルフは、どこか得意そうに見えた。まるで「感謝するといい」みたいな感じに。

 それでも、小屋まではまだありそうだ。お弁当というか、パンのひとつでも貰ってから来ればよかったなぁ……。


『グルルル……』

「どうした?」

 突然、氷狼アイスウルフが空に向かってうなり出した。湖上馬ケルピーも少し空の方に気をやっている。気が付かない様子なのは、フードの中の灰鳥グレーバードだけだ。

 2匹の見る方向を見上げれば、何か赤いものがこちらへ迫っているのが見えた。


 赤いものは、凄い速さで接近してきたかと思えば急降下、いくらか距離を置いたあたりに───土煙を立てて着地した。

「うわぁ?!」

「いたいた!エル!迎えに来───」

 明るい赤い髪の竜人の女性───スルトさんだった。迎えに来た、と言おうとしたのだろう。

 しかし、スルトさんが言う前に氷狼アイスウルフがスルトさんに飛びかかった。

「危ない!」

『ガウッ!』

「うおおっと?元気なヤツだな!」

 危ないと咄嗟に叫んだものの、スルトさんは飛びかかってきた氷狼アイスウルフをひょいっと受け止めた。

「わあ」

『グルルルル……』

「あ、で、エル!アダム様から言われて迎えに来たぞ!」

 氷狼アイスウルフはしっぽでベシベシと抵抗するも虚しく、スルトさんは気にかける様子もなくそう言った。


 とりあえず、お言葉に甘えよう。


「ありがとうございます、お願いします」

「よしきた!んじゃー連れて……」

「あっでも、コイツらも一緒に小屋の方まで連れてって貰えませんか?」


「このイヌっころとそのウマか?任せろよ!」

 そうスルトさんが言ったかと思えば、ガシッと小脇に抱えられた。反対側には氷狼アイスウルフ、それからしっぽで湖上馬ケルピーを絡め、飛び立った。フードの中で灰鳥グレーバードが飛ばされないようにキュッと掴んでいるのがわかる。ちょっと爪が痛い。


 超高速の空の旅を数秒間味わい、突然停止したかと思えば、ゆっくりと地面に降り立った。終始俺はビビってたとかいうのは内緒。




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魔王軍の牧場主 偽禍津 @NiseMagatu

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