エピローグ

 しとしとと降る雨粒が傘に弾かれていく。

 道端に紫と青のグラデーションカラーの紫陽花が咲いている。花も葉も雨によって活き活きと輝いてきらきらして綺麗だ。

 お気に入りの傘をくるっと回す。

 姉とお揃いのお気に入りの傘だ。姉は赤で私はオレンジ。色違いで購入した。

 春休みに姉が帰省した時に一緒に母に買って貰った綺麗な花柄の傘は、私の今一番のお気に入りだ。

「雨なのに楽しそうだね」

「そう?」

 隣からかけられた問いに返事をしながらもう一度傘をくるっと回す。

「私はあんまり好きじゃないんだよねえ雨って。ほら、私って癖毛でしょ。大変なんだよ。雨の日はね、毎日起きてまずやることは朝ご飯を食べる前にくるっくるの髪の毛をどうにかセットすることなんだよ」

「そのままだって可愛いのに。ふわふわしてて」

「サラサラストレートの紗智ちゃんには私の気持ちは分からないよー! 大変なんだから本当に!」

「ごめんごめん」

 頑張ってセットしてもやっぱりふわふわした髪を二つにくくっている彼女は、高校に入ってから出来た私の友達だ。

「うむ。許してしんぜよう」

 彼女は怒った後にはもう笑ってる。よく泣くし、感情の忙しい子だ。私はそんな彼女を見ているのが好きだ。

 その後も癖毛がいかに大変なのか聞いていると、あっという間に目的の場所までたどり着いた。友達との帰り道は一人で歩いているのと同じ距離のはずでも短く感じる。

「それじゃあ私、今日は本屋に寄っていくから」

「ああ、発売日なんだっけ? そういえばさあ、加藤君も楽しみとか言ってたね。珍しいよね? 男の子のファン。あ! もしかして加藤君って男性アイドルとかも好きかなあ? 今度布教してみよ……そんじゃ、紗智ちゃんまた明日ねー!」

「うん。また明日」

 加藤君に対して妙な勘違いをしたまま、ふわふわした髪の毛を揺らして彼女は元気に去っていった。

 しかしまだ彼の説明をするには難しいから弁明はしないでおこうと思う。ごめん、加藤君。

 私はお姉ちゃんが通っていた高校に進学した。ちなみに加藤君も同じ高校に進学していた。あんまり勉強は得意じゃないと前に言っていたから入学式に姿を見かけて驚いた。

 友達になった彼女とはクラスが同じで、席が前後だった流れで入学初日に話している内に仲良くなった。翌日も彼女が声をかけてくれたことで一緒に行動をするようになり、今もお昼を一緒に食べたり、下校したりしている。

 そろそろ休日に二人でお出かけなんてこともしてみたいなあ。とも思うけれど私にはまだまだハードルが高くも感じる。

 久しぶりに出来た友達との距離感を私はまだ図りかねている。自然に、でなはく、探り探りで友達と学校生活を送っている。けれどそれでいいのだと今なら思う。

 身体だけは育ったけれど、まだまだ子どもの私たちは手探りなくらいでちょうどいいのだ。

 それに時折私がつまずいていると、彼女は屈託なく笑い飛ばしてくれる。大丈夫だよって笑ってくれる素敵な友達だ。

 本屋に入ると、真っ直ぐに目的の物が売られている場所に向かった。

 今日はここ最近で一番楽しみにしていた日だ。

 本屋に入ってすぐの場所には話題の本や、漫画の新刊、映画やドラマの原作が置かれている。それを横目に目的の場所へ足を進める。

 ああ、いた。

 あなたを見つけた、本屋の片隅。そこにまた新たな輝きが見える。私の幸せ。彼の門出。

 美しい青がそこにいる。

 世界が昨日よりもカラフルに見える。凄く、凄く綺麗だ。自分の頬が緩むのが分かる。私は前より笑うのも泣くのも上手になった。

 私はいつだって不器用で今だって少しずつだけれど。

 誰かの代わりじゃなくて、今度は私は私として、新たに頑張ると、懸命であろうと決めたから。

 少しずつ、向き合って。少しずつ、自分を見つけて。少しずつ、視野を広げて。少しずつ、誰かと手を繋いでいく。

 あなたにまた会うその時に誇れる自分でいられるように。

 私は私のために懸命に生きる。

 私に、成る。

 自分で見つけて自分で考えて努力して、そうやって宮田紗智を作るのだ。

 代わりじゃない自分に成っていくのだ。

 進んだ先にはあの日よりも美しい彼が待っているはずだ。……否。きっとあなたなら立ち止まることなく早く追い付けと発破をかけるように、振り返らず私の前を走るのだろう。

 そうでしょう?

 私の神様、私の友達、私の愛しのdoll。

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I doll My doll ひわたしつばめ @nokishitatsubame

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