NO title

柚木いづに

第1話

 君のすべてに溺れたくて、オレは愛を伝えた。たとえ君に罵られたとしても僕は生きていける。というよりも生きる糧になる気がして。君の返事は完璧だった。

 オレはマイナスな想像ばかりしていたのでその後のシチュエーションが思い浮かばなかった。幸福に恵まれたオレのこれからの人生。思いがけない展開も起こるだろうけど幸先のいいスタートを切ったと思う。

 折角だから自惚れてやろう。オレのこれからに乾杯し、ひとりで酒を呑んだ。

 オレはまだ十七。飲酒は犯罪だ。誰も見ていないから良いと思った。バレて犯罪者として刑務所に連行されるなど想像つかなかった。オレは無敵だったから。君に言われた「はい」という二文字を思い出すたび幸福感に浸ることができた。オレに返事をしたあと彼女は言った。

「誰でもよかった、愛されたかった」

誰でもよかったという言葉にオレは多少違和感を覚えたがそんなこと、どうでも良かった。彼女もオレと同じように溺れてしまえば良い話だから。

 彼女はオレの二つ下で十五。中学生とは思えない程に整った顔とよく育ったからだ。ひと目で恋に落ちた。初デートの日彼女はオレに「なんで私に告白してくれたの?」と尋ねてきた。八月の猛暑にも関わらず長袖長ズボンの彼女が目に留まるがそれより言葉を返さなければいけない。

「可愛かったから」

なんて犯罪者っぽい言葉を発してみると彼女は笑った。愛おしかった。「君といるとたのしい」天使のような笑顔でそんな言葉を口にする。今すぐにでも近場のホテルに連れていき、抱いて帰らせたくないと思ったが彼女は中学生。そんな想像をしていたが、もうすぐ門限だという彼女をきちんと家まで送り届けた。中学生の門限にしてははやい気がしたが、母親に失望されていて門限などなかったオレには分からない。

 そんな幸せな日々を踏み躙るかのようにある日を境に彼女に会わなくなった。彼女の家は今も変わらずある。多分忙しいのだと思う。そればっかりは仕方がないのでまた会いたいだなんて考えながら街中を歩いていたら男性に声をかけられた。

「僕の事務所に所属しない?」

芸能界のデビュースカウトだった。生憎興味など一ミリも無かったが、彼女に見つけてもらえるならと思い、迷いつつ承諾した。

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