第2話

 それがこの世のものでないと、何故言い切れるのだろうか。普通に考えたら、見間違いや思い込み、目の錯覚だと受け取られるに違いない。もしくは、話しを盛ってる、嘘をついている、最悪、頭がおかしくなったんじゃないかと受け止められかねない。人は自分が見えないものや聞こえないものは信じられないからだ。

 だが実際にはそれが見えたら、本能でわかるのだ。それがこの世のものなのか、それともあちらの世のものなのか。


 昔、あるテレビ番組があった。霊能力があるとされるスピリチュアルカウンセラーと、同じく霊能力があるとされる芸能人がホストとなって、スタジオにやってくるゲストの芸能人のオーラや前世などを占い、スピリチュアルなトークを繰り広げていくというものだ。

 毎回、沢山の花が周りに綺麗に飾られた雛壇の真ん中にゲストが座り、反対側にホストの2人が座っているというものだった。


「あなたの前世は中世のヨーロッパのお姫様よ。」とか、「オーラの色は高貴な色です。」などと、いやいや、ないでしょ、と思うような話が沢山出てきたが、気楽に見れるのと、もともとスピリチュアルな話が嫌いではなかったので、毎回必ずではないが、気がつくとチャンネルを回していた。


 ある日のゲストは格闘家だった。その格闘家がスタジオに入ってきた時から、ホストの2人の表情が険しいことに私は気がついた。

「前回いらっしゃった時に集めていた日本刀は全部処分したほうが良い、とお伝えしたはずですが。」

 どうやら、そのゲストは今回2回目の出演で、前回は彼が集めていた日本刀が問題だったらしい。


「全部処分しました。」

「本当に処分しましたか?まだ持ってらっしゃるものがあるのではないですか?」


 どんどん、ホストの2人の顔が険しくなっていった。


「実は一本だけ残してあります。」


 その時だった。カメラは格闘家とその周りの花々を画面いっぱいに捉えていた。その花々な中にそれらの者が唐突にいた。

 格闘家の左側に落武者のように髪を長くたらした男。

 格闘家の右側に男なのか女なのか分からない、坊主のように頭を丸めた人。

 どちらも、顔色は青く灰色で表情はなかった。なのに、それが見えた瞬間、私は自分が総毛立つのがわかった。そして2人とも、上半身しか無かった。


 カメラは次にホストの2人の顔をとらえた。そして私は気がついた。2人がその、上半身しかない何者かを凝視していることを。


「今すぐその日本刀を手放しなさい。さもないと大変なことになります。」


 画面は再び格闘家と両隣りの何者かをとらえた。もう、私は見ていることが出来なかった。急いでチャンネルを変えて、それでも怖くて、当時良く電話をしていた友人に急いで電話をした。

「今、〇〇をみてたんだけど、怖いもの見ちゃった。」

「え、私も今見てるよ?」

 聞くと彼女も同じ番組を見ていたらしい。だが、そんなものは映ってなかったし、今も映ってないという。


「気のせいじゃない?」


 だが、私にははっきりとわかっていた。あれは本物だ。この世のものではない、おそらくは格闘家がどうしても手放すことが出来なかった日本刀にとりついている何かが、画面を通して見えたのだ。

 そして、なぜか私はそれはホストの2人のうちの1人、スピリチュアルカウンセラーの力によって見えたのだと思った。


 彼の力は本物だ。


 私はそれ以降、その番組は見なくなった。あんなものがまた見えたら怖い、と思ったし、そのスピリチュアルカウンセラーの力もまた、怖いと思うようになったからだ。


 だがある日、チャンネルを回していて、不意にその番組がまたTVに映ってしまったことがあった。他の番組にすれば良かったものの、番組そのものは明るく華やかで、全く怖い感じはしなかったので、そのまま見続けてしまっていた。


 その日のゲストは歌舞伎役者だった。代々続く歌舞伎の家柄で彼の子供の時や、奥さんと子供の時の話しを和やかにしていた。


 舞台の話になった時、突然、スピリチュアルカウンセラーが胸を押さえ始めた。スタジオにはその時沢山の白い布が装飾として上から下がっていたが、それまではピクリとも動いていなかった布が突然、動き始めた。

 もう1人のホストはそれをみて、手を組み、目を閉じ何かをぶつぶつと唱え始めた。お経のようだった。

 スピリチュアルカウンセラーが、苦しそうな息でこう言った。


「あなたは常に主役だけれど、主役にはなれなかった大勢の人が今、来ている。」


 その時だった。

 画面の向こうから、ワワワワワワワワーっとものすごい大勢の人が一斉に何を大声で話している音が聞こえてきた。何を言っているのか、それが言葉なのかも分からない、だが、確かに大勢の人の話し声が、どんどん、どんどん大きくなって、しまいには叫び声のようになったところで、私はテレビを消した。


 音はもう聞こえてこなかった。


 その後番組がどうなったのか知らないし、前回のように友人に確認することもなかったので、果たしてあの音が他の人に聞こえたのかは不明だ。

 だがあれは確かにこの世のものではない、向こう側から聞こえてきたノイズだった。


 あの大勢の人たちは、何を訴えたかったんだろう。主役になれなかった人達が、主役となるべく生まれてきた役者に何を訴えたかったなだろうか。それとも単にその存在を知らせたかっただけだろうか。


 あれ以来、主役になる歌舞伎役者の背後には大勢の、主役になりたくてもなれなかった人達がいるんだな、と思いだしたりすることがある。





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