第5話 婆さんの仕事

突然だけど、デイサービスって知ってる?


僕は介護するまで、知らなかった。


ああ、でも超高齢社会だから、


言葉くらい聞いたことあったかなぁ、って感じ。


そのデイサービスに、婆さんが行くことになったんだ。


自宅介護が難しくなったから。


特に、問題になるのは、風呂だよね。


ヘルパーさんに入浴介助してもらってたんだけど、人に来てもらって、婆さんを二人がかりで風呂に入れてもらうって、ちょっと気が引けるし、婆さんは病気が進行しているから、ヘルパーさんも大変そうだったので。


まあ、そういうことで、デイサービス利用決定!


だったんだけど……。


婆さんは、新しいことにチャレンジすんのが、超嫌いなわけだ。


「楽しいよ。お友達出来るかもよ?」


僕は初めは笑顔だった。


「お前たち、オレをいらなくなったんだな?」


婆さんは方言で自分を「オレ」って言います。


「違うよ。一日中家にいると寝たきりになっちゃうし、楽しくないでしょ? デイサービスは、例えるなら幼稚園みたいなところらしいよ。家にも帰ってくるんだよ」


ここまでは、僕も笑顔でした。


ええ。もちろん、天地神明に誓って、青筋なんか立てていませんよ。


婆さん、絶叫しました。


「殺せ――! いらないなら殺せ――!」


またしても、「は?」ですよ。


わけわかんない。


何でそうなるのか。謎。


――――プッツン。


あ、何か切れた。


「行けって言ってんだろ? 少しは言うこと聞け! あの説明で、どうしてそうなるんだよ⁈」


と、言うことで、婆さんは強制的にデイサービスに預けられました。


帰って来てから感想を聞くと、「楽しかった」とのこと。


じゃあ、あの修羅場的なモンは何だったんだよ?


どっから、あんな言葉が出るんだよ?


まあまあ、楽しかったのなら、いいんだけど。


そして現在、婆さんは何故かデイサービスの日を、「仕事の日」と言うようになりました。


やっぱりやることは、幼稚園や保育園みたいです。


連絡帳もありますしね。


塗り絵と入浴が日課です。


しかし、殺せとは、なんと恐ろしい。


でも、今後、この言葉は頻出になっていくのでした。


僕が婆さんを自宅介護するのは、

婆さんが家族を脅すからだ。

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