第24話 皇帝と、神と神 その四

 全てを呑み込むような『赤』の奔流。【炎神】の由来となる劫火ではない。只人では認識することすらできないナニカ──神の領域に立つ超越者のみが触れることができる世界の理。


「──っ!!!」


 恐るべき『赤』が世界を塗り潰す直前、ルトもまた津波のような『青』を叩き付けることで抵抗した。



 ──超常の『赤』と『青』は互い拮抗し、やがて世界を軋ませながら対消滅を起こす。



「……ふむ。ひとまず基本はできておるようじゃの」


 世界の悲鳴が玉座の間に響く中、アクシアが満足そうに頷いた。


「……なるほど。なんとなく想像していたが、こうなるのか」


 対してルトは、今しがた目の前で起きた現象と、本能的に引き当てた戦い方に納得の声を上げる。

 世界を塗り潰す二色の攻防。異なる『理』がぶつかることで起こる世界の悲鳴。どちらも只人では認識することすらできない、同格の魔神たちが戦うことでのみ引き起こされる神話の一幕。


「……にしてもアクシア殿。流石にコレは酷すぎないか? まさかいきなり殺されかけるとは思わなかったぞ?」

「ふっ。安心せい。その程度の神威では抵抗しなくとも焼けはせんよ。幸か不幸か、魔神格はその程度で死ぬ程ヤワではない」

「神威……この『色』のことか」

「うむ。魔術の源たる魔力とも違う、我ら魔神格の魔法の根源。魔力と区別する為に、妾は【神威】と呼んでおる」

「そりゃ随分大層な呼び名だことで。……まあ、それに相応しいデタラメではあるけどな」


 思いの外的を射た、むしろ形容という意味ではこれ以上ない呼び名にルトは苦笑する。

 アクシアが神威と呼ぶ、魔神が操る超常の『色』。それは魔神が掌握せし概念の具現だ。ただ意識をするだけで距離も、規模も関係なく世界を浸食していく。恐ろしいことにそこに限界はない。魔力のように有限ではなく、魔神の意識一つで『概念』という絵の具は無限に世界へと供給され続ける。そして塗り潰された世界は、魔神の意思で意味を与えられ、その通りの事象となって世界へと顕現する。

 故にこその神威。ただ在れと願うだけで世界の方が変容する、絶対にして至高たる神の威。


「魔神同士の戦いの第一段階が意識の読み合いよ。事象が具現化する前に神威を掻き消すか。または妨害されて尚押し通すか。神威の強度は意思の強さに比例する故、如何に全体を把握し意識を割くかが鍵となる。魔力や体力と違って尽きることがないが為に、全てが魔神の意思に左右される」

「……他にサンプルがなかったから確証はなかったが、やっぱり魔神格ってのはそういう存在か。我がことながらデタラメ過ぎるな……」


 魔神として遥か先を行く先達からの説明を受けたことで、ルトはそのデタラメさに呆れた。

 元々、ルトも魔神格としての力が精神に左右されることは知っていた。髪や瞳といった外見の変化に、問答無用で他を圧倒する覇気。それらはルトの意識によって引き起こされていたのだから。ルトの中で、神としての側面を強めればこれらの特徴が現れ、逆に人で在ろうとすれば魔神格としての特徴は消える。だからこそ、ルトはこれまで正体を隠してこれたのだ。

 理不尽なのは、意識次第で戦力が上がることはあれど、下がることはないということ。神威は意思によって無限に湧き上がるもの。そして魔神格にとって、この神威の精製は呼吸に等しい。意識の集中は只人ならば負担となるが、魔神格にとっては無意識で行われるが為に一切の負担とならない。そればかりか、神威が広まることに比例して魔神の知覚範囲は跳ね上がるのだ。流石に知覚範囲が魔神の力量を超えた場合、神威の操作や状況把握が大味にはなりはする。だが、その気になれば盤上を俯瞰するプレイヤーの如き神の視点を得られ、細かい操作など関係無しに諸共破壊できるアドバンテージは筆舌に尽くし難い。

 これだけでもデタラメだ。だが更に恐ろしいのは、魔神格は生物としての軛から解き放たれた超越者であるということ。寿命は勿論、睡眠や食事などの実を言うと必須ではなく、あくまで当人の趣味の類。故に、魔神は皆その気になれば不眠不休で活動できるのだ。

 無限の攻撃リソース、国家すら呑み込む攻撃範囲、圧倒的な継戦能力。その全てが物理限界を超越し、精神論で世界の理を捩じ伏せる理不尽。それこそが魔神格の魔法使い。


「ま、神威を使った読み合いなどと言うがな、そこまで複雑に考える必要はないぞ。結局のところこれは第一段階。多少状況を有利に運べたら上々程度、戦いにおいては前座も前座」

「それは何故?」

「最終的には、自身を中心とした神威の支配領域を形成するからよ。──このようにな」


 その言葉と共に、アクシアを中心に赤き神威によって染められた領域が出来上がる。

 そしてルトも、神威の恐ろしさを理解しているが故に、反射的にほぼ同量の青の神威を精製することで対抗した。



 ──結果として生まれる二色の空間。その境界では異なる理どうしがぶつかり合い、ギャリギャリと世界が擦り合わされる耳障りな音が響き渡る。



「基本的にデタラメな神威であるが、流石に他の魔神の神威で支配された領域では、その力を十全に発揮することはできぬ。結果として、このような形でのせめぎ合いが起きる」

「……ああ、納得だ。扱える神威はお互いに同じ。となれば、せめぎ合いで決着が付くことはない訳か」

「そういうことじゃの。なので第一段階は膠着して終わる。──次は第二段階。ここからが本番じゃぞ?」


 その言葉と共に、アクシアの目の前により深く濃い『赤』で形造られた球体、いや金属すら容易く蒸発させる劫火の砲弾が生み出される。


「これは分かるな? 神威は意識を集中すればするほど、その質──純度を上げていく。すると、このように事象に転化させた時の威力に繋がる。……が、何もしなければさっきのように、質を上げる前に邪魔されてしまう」

「……だが、支配領域の中でなら邪魔されない」

「クハッ! やはりルト殿は呑み込みが早いのぅ! そうじゃ! つまり第二段階というのは、領域内で転化させた事象を使った撃ち合いじゃ。一度転化した事象は、単純な神威のみでは減衰こそすれど打ち消せぬからな。余程の神威をぶつければ別じゃが、あまりにも非効率が過ぎるしのぅ。──という訳でじゃ、防げよ? 流石にコレはマトモに喰らえば怪我するからのう!!」

「……っ、!!?」


 獰猛な笑みと共に、アクシアが劫火の弾を放つ。そのスピードは音速すら超えている。威力も甚大だ。只人ならば回避も防御も許されず灰燼と化す。物理法則から逸脱したルトであっても、アクシアのいう通りマトモに直撃すれば大怪我は必至だ。


「馬鹿野郎っ……!!」


 故にこその防御。ルトは反射的に罵倒の言葉を零しながら、領域内のエネルギーを凍結、いや停止させ、劫火を一瞬にして消滅させる。


「……うむ。鮮やかな手際なり」

「鮮やかじゃねえよ!? アンタ流石にコレは駄目だろ!? 正気かテメェ!?」


 満足そうに頷くアクシアに、いやいや待てとルトが噛み付く。指導という名目があったとしても、今のは流石に見過ごせない。あまりにも殺意の高すぎる課題は、ルトから先達に対する敬意を見事なまでに吹き飛ばした。


「何じゃそんなに慌てて。あんなの大したもんじゃなかろう。簡単に防げる程度の挨拶じゃぞ?」

「あんな殺意の高い挨拶があって堪るか! いや確かに俺たち目線では大した攻撃でもねえだろうけど、流石にこの場所でぶっぱなして良いもんではねえだろ!? 俺の選択次第じゃ後ろの御歴々が消し飛んでるぞ!?」


 そう叫びながら、ルトは玉座の間で控える御歴々、帝国における最上位の要人たちを指差した。

 突然のアクシアの凶行、いやそれ以前の魔神同士の覇気のぶつかり合いによって、彼らは盛大に頬を引き攣らせて固まっていた。その姿を情けないとは言うまい。この場においては、気を失うこともへたり込むこともしてない時点で、彼らの精神力が並外れている証明である。並の者なら白目を剥いて失神するか、へたり込んで失禁している。

 そんな桁違いの精神力を備える彼らだが、それでも荒ぶる神の下ではマトモに動くことすらままならないのだ。そんな状態で、金属すら蒸発させる炎弾の余波など喰らったらどうなるか。いやそもそも、普通の状態であっても何も出来ずに蒸発する。

 だからこそ、ルトは叫んだ訳だが……。


「ああ、それなら心配するな。確かにあの炎弾は、余波だけで人、いやそれどころかこの城の半分近くを消し飛ばす威力はある。が、アレもまた妾の魔法の産物じゃ。燃やすモノぐらい選別できるわ」

「……ああ、左様で」


 あっさり反論されたことで、最早何も言うまいとルトは首を振った。

 最初からルトだけを燃やす炎弾を生み出したのか、それとも炎とアクシアの意思がリンクしているのか。細かいタネは不明だが、どっちにしろ可能だろうという確信が、アクシアの言葉を聞いたルトの中に芽生えてしまった。まあ、だからこそ移動もせずに玉座の間でこんなハチャメチャな行為が許されているのだろう。……アクシアの立場的に、無理矢理もぎ取った可能性もゼロではないが。

 兎も角、魔神格というデタラメを相手に、常識的な尺度で物を語ってもただただ虚しいだけということを、この僅かな時間でルトはありありと実感した。

 結果として、ルトの中には何とも言えぬモヤモヤだけが残った。


「……ふぅぅ。なあアクシア殿、コレは指導なんだろ?」

「む?」


 だが、ルトはそれで大人しく引き下がるような素直な性格はしていない。

 僅かに苛立ちの混じるルトの問い掛けに、アクシアは一瞬だけ疑問符を浮かべるが、その後直ぐに笑ってみせた。


「まあ、そうさな。好きにやってみよ」

「そうかい。じゃあ遠慮なく。……やられっぱなしは、性に合わねえからなぁ!!」


 裂帛の気合いと共に、アクシアの目の前で閃光が煌めく。


「っ!?」


 光 ──否。それは極めて細く、それでいて決して溶けず欠けない氷の針。そんな視認性の極めて悪い氷針が、音速の倍近い速度でアクシアの頭目掛けて放たれた。

 先程の炎弾に劣らぬ程に殺意の高い一撃。魔神格としてルトの遥か先をいくアクシアならば、防ぐことは容易いだろう。だが、流石に慌てるぐらいはするのではと、そんな思惑のもとに放たれた一撃であったが。


「──は?」


 ルトの予想を超え、氷針は一切アクションを取らなかったアクシアの瞳を貫いた。

 ルトはあまりの事態に我を忘れ呆然とする。『まさか殺してしまったか?』と、頭の中で最悪の想像がふつふつと湧き上がる。……が、そんな想像は更なる驚愕によって塗り潰された。


「……クックックッ。いやはや。流石にちとビックリしたのう」


 氷針が瞳から後頭部を貫通している筈のアクシアが、何事もなかったかのように喋り始めたのだ!


「……は? いや、え、……は?」


 予想外。それはあまりにも予想外の光景だ。如何に魔神格の魔法使いが生物の軛から解き放たれ、物理法則から逸脱した超越者であったとしても。流石に頭を貫かれて無事なんてことは有り得ない。普通の人間と比べれば色々とおかしな部分はあるが、それでも肉体自体は存在するのだ。怪我だってするし、外傷が原因で死ぬことだってある。……難易度は著しく高いにしても、だ。

 故にこそ、目の前の光景はタチの悪い白昼夢と言われたら納得しかねないトンデモなのだが。残念なことにコレは現実だ。


「驚いたか? コレもまた妾の魔法よ。『炎』は不定形じゃろ? その在り方を自身の身体に当て嵌めたら──ほれこの通り」


 目を白黒させるルトの前で、アクシアはニヤリと笑いながら、頭を貫通している氷針をズルリと引き抜いた。

 通常ならば傷口から血が吹きでる、いやそれ以前にマトモに引き抜くことすらできずに命を落としかねない暴挙。しかし、アクシアには一切ダメージを負ったような様子を無く。更にはその次の瞬間には、炎のように傷口が揺らめき──そして消えた。残っていたのは、元々の人外の美貌のみ。


「……つまりアレか? 不定形による攻撃の無効化か?」

「そういうことじゃの」

「化け物にも程があるだろう!?」


 ルトにとっては有り得て堪るかという予想だったのだが、無常にもアクシアにあっさりと肯定されてしまった。


「……いや、確かに魔神格の魔法なんて適当の極地みたいなもんだけどよ……」

「できたもんはしょうがないじゃろうー?」

「だからってマジモンの不死身を実現してたら唖然とするわ!!」

「いやいやいや。流石に真の不死身ではないわ。これも結局は魔神格の魔法よ。この魔法以上の神威がこもった一撃を喰らえば、妾も死んでしまうわな」

「……俺知ってるんだよ。神威の操作は意思によって左右される。で、肉体はわざわざ意識しなくとも『自我』という尤も強固な意識が宿ってる。だからこそ、自身の肉体に関わる魔法の神威はケタ違いの純度を誇っているってことを」

「うむ? その口振りからして、既に肉体を魔法で弄っておるな? やはりお主、理解力や応用力がかなり高いのう」


 感心するように頷くアクシアに、ルトは大きく溜め息を吐く。

 ルトよりも遥かに経験豊富なアクシアが否定しないということは、今挙げた説は一つの間違いのない事実ということ。そしてそれが意味することは、魔神格の最大出力をもって漸くアクシアの不死身のタネ、『火炎体』と形容すべき魔法が打ち砕けるということ。


「それを不死身と言わずにどう言えと……」

「まあ、中々起きぬことではあろうな。幸いなことにの」

「んなもん起きて堪るかってんだ……」


 魔神同士の全力戦闘など、それは最早アクシアを殺せるかどうかという話ではなくなってくる。なにせまず間違いなく国の一つや二つは文字通りの意味で消し飛ぶし、その余波やらなんやらで下手をすると大陸規模の災害が起きかねない。国家の威信どころの話ではない。大陸における人類存亡の危機だ。

 如何に帝国の【炎神】と法国の【使徒】が宿敵であろうとも、自分たちの勝敗の為に大陸の人類全ての命を天秤に載せる程にイカレていない。お互いに永き時を生きてる以上、何度かの直接対決は起こったという記録はあるが、まず間違いなく両者共に全力ではない。

 そしてそれは、必然的にアクシアの不死性が破られることはないという証明にもなる。


「……ったく。ここまでデタラメだと、撃ち合いするのも馬鹿らしくなってくるな」

「──そうか。では次は第三段階、いやもう一つの第二段階といこうかの」


 アクシアがそう呟いた次の瞬間、ルトの視界いっぱいに染み一つない淡雪のような肌が広がっていた。



 ──ズガァァァァァンッ!!! と、これまでとは違った物理的な衝撃によって空間が揺れる。



 その原因となったのは、アクシアのか細い御御足。華奢な見た目から想像できない超高速の踏み込み、音を遥かに置き去りにする速度で距離を詰めたアクシアによる、ルトの頭蓋を狙った空中回し蹴りが引き起こした現象であった。


「──なんと!?」


 突如として始まった肉弾戦。ルトにとっては意表も意表のそれは、しかし驚愕の声を上げたのはアクシアの方だった。

 それもその筈。アクシアの蹴りは大地すらも容易く砕き、人の頭蓋など肉片すら残らず消滅する一撃だったのだ。


「……いきなり肉弾戦かよ。突拍子が無さすぎるだろ」


 しかし、そんな一撃を喰らった筈のルトは全くもってピンピンしていた。むしろ、蹴りを叩き込んだ筈のアクシアの脚の方が砕け、炎となって再生したぐらいである。


「……ほうほうほう。肉体を弄っておると踏んではいた。それを除いても魔神格としての肉体、神威による減衰を考えれば、死ぬことはないだろうとは思っておったが……。想像以上じゃな。どんなタネじゃ?」

「手の内をわざわざ話すか……って言いたいところだが、そっちも不死身のタネを明かしてるしな。説明してやんよ」

「なんじゃ。それで良いのか? 今の踏み込みのタネを代わりに教えてやろうと思っておったんじゃがの」

「教えたがりか……。そっちの方は想像ついてるよ。俺も凍結の概念を捏ねくり回して『停止』や『減速』とかに変えてるし。アクシア殿も同じ感じで『加速』とかにしてんだろ?」

「おおっ、正解じゃ! ほれ、銃弾は火薬の爆発によってカッ飛ぶじゃろ? それを意識して身体を弾に見たてての」

「……それでアレか。まーじで適当だな俺らの魔法って」


 そんなあやふや認識であんな超加速を実現したと言われ、ルトは遠い目で虚空を見つめた。


「で、今のタネは一体何なんじゃ?」

「無傷で済んだのは身体の状態を凍結させてるからだ。一言で説明すると俺の身体は『不変』なんだよ。だからどんな攻撃を受けても傷が付かない。打撃、斬撃、刺突諸々の攻撃を喰らっても効かないんだ。その上で吹っ飛んだりしないように、『座標』を凍結させて身体を空間に固定したんだよアクシア殿の脚が砕けたのは、壊れず動かない状態の俺を蹴ったことで、衝撃が逃げなかったからだろうな」

「なんじゃそりゃ!? お主も人のこと言えぬ不死身ではないか!!」


 ルトが自身と同レベルの不死性持ちだと知り、アクシアは驚愕の声を上げる。まさか二十にも満たぬ若輩の身でありながら、そんな発想で事実上の不死身を実現しているとはというのが、アクシアの素直な感想であった。


「いやはや……。頭が柔らかいとは思っておったが、ここまでとは思わなんだ。いや本気でビックリじゃのう」

「……俺としては、いきなりステゴロが始まったことにビックリなんだがな? 理由を教えてくれマジで」

「ん? ああ、そりゃ簡単じゃよ。魔神格、というよりこの場合はスタークの奴なんじゃが、あやつが近接戦の化け物でのう。それを教えるついでに、自分なりの対応策を練らせようかと思っておったんじゃよ。……無用な心配だったようじゃが」

「使徒って軍隊を超強化するだけじゃないのか?」

「いや? それも脅威ではあるが、妾たちにとってはあやつ一人の方がおっそろしいぞ? なにせ際限無く自身を強化して突っ込んでくるからの」

「何それ怖い」


 驚異的な情報を伝えられ、ルトは一瞬で真顔になった。『群』の極地とも言える魔法を使う魔神が、まさかまさかの『個』の極地でもあったという。魔神格の力によって際限無く強化された個人など、それは最早どうしようもないのではなかろうか?


「実際なぁ、単純な破壊力や攻撃範囲という意味では、スタークの奴は妾やルト殿よりも遥かに下なんじゃが。厄介さという意味では普通に上なんじゃよなぁ。……妾も炎の不死性がなければとっくに殺されてるじゃろうし」

「怖」

「ま、逆に妾の本気の一撃を喰らえば、彼奴もタダじゃ済まんのだから、その辺はおあいこなんじゃがなぁ」

「怖っ」


 どうやら色んな意味での相性が噛み合った結果として、これまでの歴史というものは形成されていたようだ。少しでも噛み合わせが悪かったら、大陸の歴史は変わっていただろう。それは巡り巡ってルトの出生にも影響を与えたかもしれないのだから、そういう意味では二柱の魔神の関係性には感謝するべきなのかもしれない。

 そんな風にルトが運命というものに思いを馳せていると、唐突にアクシアが大きく手を叩いた。


「うむ! アレじゃな! 魔神としての戦い方や、対スタークについてしっかり教えようと思っておったが、なんか予想以上に大丈夫そうじゃし、ひとまずこれまでにしとくかの!」

「……いきなりステゴロになったと思ったら、コレで終わりか。アンタ本当に唐突だな?」

「カッカッカッ! 破天荒とは良く言われる!……まあ、それを抜きにしてもそろそろ他の奴らが可哀想じゃしな」

「……ああ」


 アクシアの呟きに、思わずルトも納得の声を零した。

 チラリと視線を再び御歴々の方に向ければ、そこには最早立っているのがやっといった様子の彼らの姿が。確かにこの光景を目にすれば、そろそろ切り上げ時と言われても仕方がないのかもしれない。……まあ、別にルトは延長を望んでいる訳でもないのだが。ただなんとなく釈然としないだけで。

 そんな極めて個人的な感情を優先するには、玉座の間にいる他の面々の姿は哀れ過ぎた。


「……ま、色々と興味深いものも見せて貰ったし、良い経験でもあった。それで良しとするか」

「うむ。そうしてくれると助かる」


 そんなこんなで、唐突に始まったアクシアによる対魔神戦の指導……という名の模擬戦は幕を閉じたのであった。



 ーーー

 あとがき

 多分、これが今作初のマトモな戦闘描写。色々と思うところはあるかもしれませんが、この作品による『魔神格の魔法使い』というのは、こんな感じで戦います。……書いてて思ったけど、コイツら全員インフレし過ぎではと。まあ、魔神格同士は経験の差こそあれど、基本的に実力は等価なんですがね。

 因みに皆さんが薄々気付いてるかも知れませんが、この作品の魔神格は皆、王になれる力はあれどなる気は無いタイプです。キャラによって詳しいスタンスが違うので、詳細はおいおいといった形になりますが。



あともう一つ。この話、っていうかちょっと前からちょくちょくルトが英単語とか喋ってますけど、気にしないでください。できる限り外国語とか話させないようにしてたんですけど、そろそろ語彙力とかが尽きてきたんで。描写的にも回りくどくなったりするので、その辺り解禁しようかなと思ってます。基本、キャラが喋っているのは現地の言葉です。全ては翻訳の都合と思ってください。


PS.【神威】はシンイとカムイで悩み中です。ぶっちゃけどっちでも良いので、皆様で好きに脳内変換してくださいな。

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