第20話 その一幕は後世にて語られる

 コツン、コツンと、澄んだ靴音が響く。音の主であるルトは、廊下を歩きながら考えていた。



 ──視線を目の前に、精緻な装飾の為された荘厳な扉へと固定したまま。



「運命の時、か」


『運命』というものは、人知の及ばぬものを指す。紆余曲折の果てに、確率の壁すら超えて結果へと至る奇跡。まるで結末の決まった物語。……いや、もしかしたら、本当に神が求める結末の為に物語を綴っているのかもしれない。ただ、その物語の登場人物たる人類には、それを把握することができないだけで。


「──ルト・ランド様、御入場になります!!」


 扉を守護する兵が声を張り上げ、荘厳にして重厚なその扉を開ける。

 扉の先に広がるは玉座の間。大陸の二台巨頭たるフロイセル帝国、その頂点に君臨せし皇帝が待ち受ける人界の聖域。



 ──運命を神が描き綴った物語とするならば、この瞬間は正しく神が望んだ結末の一つなのだろう



 なにせルトが玉座の間へと踏み出した一歩は、フロイセル帝国が進む覇道を磐石のものへと変えた明確な一歩。もし後の世の歴史学者たちが語るとすれば、この日この瞬間こそが帝国の栄光を確固たるものに変えたと口を揃えて述べる筈なのだから。

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