巨人伝説
聖書の巨人ネフィリムは有名だか、デイダラボッチも関東平野を中心に、日本各地に伝説を残している。
大体、巨人が山を造ったり、足跡が池になったりという言い伝えが多い。
「代田」という地名に巨人伝説が残る所があり、デイダラボッチよりもダイダラボッチという呼び方の方が一般的である。
だが、本当の真相を知るのは角田のような古くから巨人に仕えていた古代一族である。
角田もその一人であった。
日本の場合、巨人の亡骸は山の中腹に埋められていることが多い。
だが、特に祟りを為すような大型巨人の場合、古墳を造り、霊力の強い首長の亡骸によってそれを封印することになっている。
本当に怖いのは、そのような古墳に封印されてる巨人であった。
月読星からスマホに緊急連絡が入った。
車両で移動中だったが、ブルートゥースのイヤホンで連絡を受けた。
「角田さん、まずい事になってます。武蔵府中熊野神社古墳の封印が解けて、巨人が覚醒してます。秘密結社<
「了解した。そちらに先に向かうので、高尾山のブツはそのまま現場保存を頼む」
「了解です」
角田も現場に直行することにした。
武蔵野巨人博物館のある三鷹市から府中市はかなり近く、ちょうど高尾山の現場に向かう途中にあった。
急がないといけない。
†
「航空戦術自衛隊が現場到着! 巨人の制圧に移ります!」
角田のイヤホンに神沢勇少佐からの連絡が入った。
神沢優少佐はいつもピンク色のサイバーグラスで、軍服を纏ったなかなかの美女である。
三十代ぐらいのはずだ。
「お願いします」
角田もようやく、現場に到着した。
彼女の乗る戦術自衛隊の垂直離陸可能なダークグリーンのJ-700ジェットヘリ隊五機が、巨人に向けて特殊音響兵器を使用した。
しばらくホバリングしながら放射していたら、巨人がゆっくりと倒れた。
効果があったようだ。
かつて、角田家が巨人をなだめるために使用していた笛の周波数を解析してこの音響兵器は開発された。
効果のあるのは当然だろう。
「何とか制圧しました。あとは自衛隊の現場作業班が巨人をひとまず、基地に輸送します」
「良かった。ご苦労さまでした」
「あとで保管を頼むかもしれません。その時はよろしくお願いします」
「了解です」
角田はほっと胸をなで下ろした。
かなりあっさりと巨人の制圧が完了した。
角田の出番はほとんど無かったが、それもたまにはいいだろう。
あとは高尾山の巨人の遺骨の輸送だけだ。
†
「例のブツはこのトレーラーに積込完了です」
月読星が角田に報告した。
27歳で黒髪は短く切られ、なかなか可愛いが、巨人の扱いや作業指揮はプロの仕事に徹していて迅速である。
「ご苦労さま、では、研究所に帰りますか」
「了解です」
角田の車の助手席に月読星が乗り込んで、トレーラーの後ろを追尾する。
「武蔵府中熊野神社古墳の方はどうでした?」
月読星が訊いてきた。
「神沢少佐の手際が良くて、あっさり片付いたよ」
「それは良かった」
「ただ、上円下方墳の復元が大変だろう。石室もろともほとんど吹っ飛んでる」
武蔵府中熊野神社古墳は、飛鳥時代の7世紀の中頃に作られたものだが、方墳の上に円墳が重なる上円下方墳であり、全体が石板のような白い石材で覆われている。
復元はかなり大変だろう。
「それは酷い」
「あとは現場は自衛隊が封鎖してくれてるが、ネットの目撃情報の隠蔽が大変かもな」
「いつものことですが、事実であっても、陰謀論だ、デマだと言っとけば大丈夫でしょう」
月読星は皮肉っぽく言った。
「まあ、世の中、そんなもんだな」
そうは思いつつも、最近はインターネットやメディアの発達で、証拠がばっちり残るようになった。
まあ、なるようになるさと思いつつ、いつか、本当のことか言える世の中になればいいなとも想った。
そんな日は永遠に来そうもないけれど。
デイダラボッチ/巨人伝説研究家<角田六郎>の事件簿 坂崎文明 @s_f
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