血の降る夜、銀髪の少女 Ⅴ

「それじゃあ君は、あの石を渡した人が誰だかわからないってことね」


「何回も言ってますよね! それより僕の質問にも答えてください! ここはどこですか!?」


 香澄は見知らぬ部屋で軟禁されていた。道中は目隠しをされていたので、ここが地下なのか、高層ビルの最上階なのか、はたまた異世界なのか、全く判別できなかった。部屋の明かりは小さなランタンが壁際に4つほどあるばかりで、とても薄暗い。薄ぼんやりとした明かりに照らされる銀髪の少女はとても幻想的だ。オレンジの光を浴びた髪は金色に輝いて見えた。


「ここは『オブリビオン』関東支部の一室よ。この部屋では何が行われるか分かる?」


 少女は不気味な薄ら笑いを浮かべながら、香澄を拘束するときに使用した杖を見せつけてきた。


「……拷問、尋問、人体実験。そして処刑。あなたはどうなるかしら」


 少女はサディスティックな目を香澄に向けた。香澄はその目の冷たさに震え上がった。


「ラウラ。その辺にしておけ。これ以上脅かして、排泄物を撒き散らされたら迷惑だ」


 香澄は突然聞こえた見知らぬ声の方を見た。部屋の片隅には長い黒髪の男が腕を組んで壁に持たれていた。彼もラウラと呼ばれる銀髪の少女と同様、真っ黒だが華美な装飾品が付いたコートを羽織っている。


「あら、水仙すいせん君。あの女の子は家まで送ったの?」


 水仙と呼ばれた男はぶっきらぼうに答える。


「ああ。ずっと眠ったままだ。昨日の出来事も殆ど覚えていないだろうな」


 香澄は男をおもわず二度見した。この水仙と言う男。その声の低さから男だということは分かる。しかし、その容姿の端麗さ、透き通る白い肌。きめ細かなその長髪は一見、女性と見間違うほどに、とてもその声から想像できないほどに美しかった。


「あ、は、はじめまして。天草香澄です」


「……山吹やまぶき水仙すいせんだ。」


「ああ、そういえば、自己紹介がまだだったわね。私はラウーラ。ラウーラ・フォン・ヴェレフキン。ロシアと日本のハーフよ。ラウラでいいわ。香澄君、驚かしてごめんなさいね。今日はあまりにも色々なことが起きたから、頭の整理ができてないでしょうけど、いくつか説明するわね」


 ラウラの香澄を見つめる目は、さっきとは打って変わって、とても優しい目になっていた。


「じゃあ香澄くん、質問を変えるわね。昨日の夜に見た怪物、過去に見たことはある?」


 ラウラの質問に昨晩の惨劇が蘇る。それと同時に香澄はあやめが丸呑みにされたことを思い出した。


「あ、あやめは? 彼女は無事なんですか?」


 香澄の質問に苛立ったのか、水仙は少し声を荒げて答えた。


「俺が家まで送った。無事だ。怪我もない。お前の質問に答えるのはこれが最後だ。ラウラの質問に答えろ。これ以上俺たちの手をわずらわせるな」


 あやめの無事に安堵したが、水仙の怒りに満ちた声に香澄は萎縮してしまった。


「水仙君、そんな怖がらせないの」


「最初に驚かしていたのはお前の方だろう」


 ぶっきらぼうな水仙にラウラはため息を付いた。


「それで、どうなの? 見たことはない?」


「ゲームや漫画でよく似たモンスターは見たことありますけど、本物は初めてですね。夜間外出禁止令はあの化け物が理由で、あなた達はそれを狩るのが仕事、といった所ですか?」


「物分りが良くて助かるわ。正解よ。あの化け物は獣血症と呼ばれる血の病に感染した獣、悪魔よ。私達はそれを狩る狩人ハンターね」


「あなたの手や僕の体の損傷がほとんど無くなっているのは何なんですか?」


「それはまた後で説明するわ。それよりあなた、今日も学校でしょ? 開放してあげる代わり、昨夜の出来事は口外禁止。一緒にいた女の子にも一切の説明は無し。いい?」


 香澄は同意せざるを得ない雰囲気に、渋々頷いた。



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BLOOD RAIN  after pain 黒川 月 @napolitan07

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