#55 姉の違和感



 家の様子を見に行って、戻って来てからのお姉ちゃんの様子に違和感を感じた。



 行く前と同じように、口調はしっかりしてるし、機嫌も悪くない。

 むしろ少し元気になった感じがする。


 でも何か上手く言えないけど・・・少しだけ無理してる?そんな印象を受けた。



 ママに会ったか聞くと

『台所漁ってたらいきなり現れてびっくりしちゃった。 でも言いたいこと全部言って来たよ』と教えてくれた。


 ママとの間に何かあったのかな?

 言いたいこと言ったのなら喧嘩になったのかな?

 でも、それだと私も人のこと言えないし、気にする程のことじゃないのかな?


 とりあえず、今日はずっと落ち込んだ様子も無いし、ソウジ先輩と兄妹だと知ってからも以前と同じように先輩と会話してるから、心配してたよりも、案外大丈夫なのかな?





 あの日からまだ数日しか経ってないけど、私はお姉ちゃんのことが心配で、ずっとお姉ちゃんの様子に注意していた。


 でも、やはりお姉ちゃんは私よりも年上で、思ってたよりもずっとしっかりしてて、私が心配するよりも直ぐに立ち直った様子だった。


 そして、立ち直ったお姉ちゃんは、今までよりも頼りになるしっかり者になってて、料理や掃除に張り切ってる。

 ついでに私にも料理や洗濯を覚えさせようと、コキ使いだした。


 そして二言目には

『お姉ちゃんが用事がある時は、エミがここに来てソウジくんのご飯作ってあげるんだよ』と言うようになった。


 そうか、お姉ちゃんはソウジ先輩のお世話を、自分だけじゃなくて同じ妹の私にも協力させようと考えてるんだな、と思い、私も出来るだけそうしたいと考えたので、お姉ちゃんに言われたことは真面目に手伝った。




 そんなお姉ちゃんが、突然ソウジ先輩に

『ソウジくんのお母さんの話、聞かせて貰ってもいい?』とソウジ先輩にお願いした。


 家電屋さんで買った冷蔵庫が配達されて、キッチンに設置した日の夜だった。


 ソウジ先輩も突然の事で最初戸惑った様子だったけど、お姉ちゃんに

『ソウジくんのお母さんなら、私やエミにとってもお母さんと同じ様なものだし、どんな人だったのか知りたいの。お願いします』と言われ、ソウジ先輩はお姉ちゃんと私にお母さんの話しを聞かせてくれた。


 お姉ちゃんはソウジ先輩が出してくれたお母さんの写真を見ながら、とても穏やかな表情で話しを聞いていた。


 ソウジ先輩は、幼稚園の頃によく公園でお母さんと二人で追いかけっこした話、お母さんが良く作ってくれたバウンドケーキが好きだった話、中学の部活でレギュラーになった時にお祝いで外食に連れて行ってくれた話、そして余命宣告を受けてからの病院での闘病生活の話、と沢山の思い出話を聞かせてくれた。


 お姉ちゃんはソウジ先輩の話を聞き終えると

『やっぱり思ってた通り、ソウジくんのお母さんって、とっても優しい人だったんだね。 写真のお母さん、とても綺麗で優しそう。 一度会ってちゃんと挨拶したかったな』と話していた。



 そんな事がありながらも、冬休みの間は3人で穏やかに過ごすことが出来た。




 そして、冬休みの最終日に、私とお姉ちゃんは自宅に戻ることになった。


 私達のことを心配してくれるソウジ先輩にお姉ちゃんは

『私達のことは大丈夫。折角の冬休みだったのに、ずっと迷惑かけちゃってごめんなさい。でも、ありがとうございました。本当に助かりました。 ソウジくん、勉強頑張ってね。私応援してるから』と話した。


 でも直ぐにお姉ちゃんは

『やっぱりちょっと不安・・・ソウジくん、ソウジくんの歌が聴きたい。ソウジくんの歌聴いたら、きっと勇気出て大丈夫だから、最後に聴かせて?』とお願いした。


 ソウジ先輩はお姉ちゃんのリクエストで、中島みゆきのファイトを歌ってくれた。


『ありがとう! やっぱりソウジくんの歌は凄い! もう大丈夫! それじゃぁ行ってくるね!』


 そう言って、お姉ちゃんは自転車に乗って先に帰った。


 私もソウジ先輩にお礼を言って、お姉ちゃんを追いかける様にバスで帰った。






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